第3201話 はるかな過去編 ――水の都――
『方舟の地』と呼ばれるセレスティアの世界に存在する超古代文明の遺跡。そこに起きた異変の解決するべく『方舟の地』へ赴いていたソラ達であるが、異変の原因は彼らの来訪により再現が試みられていた未来のカイトの再現失敗であった。
というわけでこの時代のカイト、レックスらの活躍により未来のカイトのデッドコピーは撃破され、一同は当初の予定から大きく異なったものの『方舟の地』を後にしてレジディア王国の王都レジディアを目指して進んでいた。そうして『方舟の地』を後にして数日。一同は遂に王都レジディアを目前としていたわけであるが、そこで目の当たりにしたのはカイト達と同じく八英傑の一人。アイクの率いる超巨大な木造の戦艦だった。
「ん?」
「信号弾だな。帰還命令ってヤツだ」
人魚達の伝令が立ち去って暫く。相変わらずのんびりとした様子で王都レジディアへ向けて進んでいた一同であるが、先に戻った人魚達により彼らの帰還が伝えられたらしい。幾つかのルートでの帰還が想定されていたようで、彼らが出会った一団以外の伝令達を呼び戻す信号弾が打ち上がったようだ。
「そっか……にしてもこの川の真横にあるんっすね。王都レジディアって」
「ああ。だから大きい荷物とかだとここからまっすぐ下って海まで出て船で、とか今回のアイクみたいに船を使って船で輸送とかもしてるんだ」
「へー……」
そう言えば昨日もレジディア王国は意外と船便やら船旅が盛んって言ってたっけ。ソラはレックスの解説になるほどと思う。そうして感心した様子の彼に、レックスが少しだけ苦笑した。
「ま、そういうわけなんだけどさ。ウチは割りと平野部が少ないんだ」
「あ、そう言えば……今回の旅でもなんだか湿地帯とかも通り抜けましたね。途中少し離れたら沼に出るから気を付けろ、とか……」
「そういうこと。天然の要害とか色々と多いんだけど、反対に平野部は少なくてな。船便が発達したのもそれ故だ。だから、もし道に迷ったら川沿いに進めばどこかの街には出られることが多い」
「へー……もし川が見つからなかったらどうするんっすか?」
「そんときは頑張れ」
「あははは」
基本レジディア王国では川を目印にすれば良いらしい。ソラはレックスの言葉に笑いながらそう思う。というわけでそんな話をしながら歩くこと暫く。一同も先んじた人魚の伝令に遅れること十数分で、王都レジディアにたどり着いた。
「! 王子殿下! おかえりなさいませ!」
「おう! 戻った! 開門を頼む!」
「はっ!」
後の大陸の覇者にして、現代でも有数の大国だ。自分の所の王子様を見抜けぬほど門番達が無能ということはないだろう。勿論それでも色々なチェック項目がある様子なのだが、それを含めて手早く終わらせられるのが良い兵士だった。というわけでレックスの言葉を受けてすぐに王都を守る正門が開いていく。
「はぁ……やっと戻れた。ただでさえ忙しいってのに」
「まぁでも。今回はお前居なかったらヤバかった感はあるな」
「あっはははは……未来のお前だもんなぁ」
俺一人だったとしてもやっぱりヤバかっただろうなぁ。レックスは今回の一件で時間が無いからとカイト達だけに任せず、さりとて他国に頼まずという選択をしなかった自身の判断を英断と考える。
いくらデッドコピーとはいえ未来のカイトだ。もし単騎で挑むことになっていたとすれば、喩え二人であっても痛い目に遭う可能性は高かった。それ以外にも要石など色々と彼らだけでは分からなかった情報もある。恥を忍んで助けを求めたのは確かに正解だっただろう。
「あははは。我が事ながら面倒な力ばっかりになっちまって……ま、それも解決したからもう良いか」
「だな……おっと。そろそろか」
「っと……総員、整列! 身だしなみは整えとけよ!」
シンフォニア王国でのレックスもそうであったが、レジディア王国でのカイト達もまた英雄だ。というわけで彼らの来訪とレックスの帰還が伝わるや、一目彼らを見ようとする群衆が山のように集まるらしい。そしてそうなると一同も襟首を正さざるを得なかったのであった。
「「「……」」」
戦いはあったものの、一同からすればだからどうした程度でしかない。というわけで襟首を正した彼らの姿が見えたと共に、王都レジディアの民から万雷の喝采が湧き上がる。
「「「……」」」
割れんばかりの喝采と共に、カイトとレックスを先頭にした二つの騎士団と黒き森の戦士達が進んでいく。そんな光景に飲まれながら、ソラ達も僅かな場違い感を感じながらも仕方がないので馬に乗って進んでいく。と、そんな彼であったが横のセレスティアが心なしか嬉しそうな事に気が付いた。そしてそれは瞬でも気付けるぐらいではあったらしい。
「どうした?」
「え? あ……いえ……やはりなんと言いますか、王都レジディアに戻ってきたのだなと」
「そんなに変わらないのか? この街は」
「変わらないわけではないのですが……この大通りなどは変わっていません」
やはり自身の血筋にとって大本となる王都だ。しかもそこには一年以上も帰れていないという。セレスティアでさえ知らず嬉しくなってしまっても無理もなかっただろう。というわけでどこか嬉しそうな彼女と共に進むこと暫く。正門から一直線に進んでいき、遂に王城を守る正門までたどり着く。
「でもこの大扉と……その先の王城は代わりませんね」
『あ、ここらはそのままなのか……あれ? でも確かそっちの時代って統一王朝もう一回作ってるんだよな? 確かセレスはそこ出身って話だし』
「あ、はい……ですがこの王城は何度も来ています。色々と残ってもいますから」
『へー』
どうやらレックスも話だけは聞いていたらしい。さりとて民の前だからと呑気に話すわけにもと念話で会話に参加する事にしたようだ。ちなみに、今更取り繕ってもという話は横においている。というわけで一同の到着と同時に、大扉が開かれてその先の王城が姿を露わにする。
「「「……」」」
開かれた正門の先には、シンフォニア王国でそうであったようにレジディア王国の儀仗兵達が待ってくれていた。そしてその先には。一人の真紅の髪の偉丈夫が立っていた。そうして、一同は儀仗兵達の間を通って偉丈夫の前まで進んでいく。
「父上! 今戻りました!」
「おぉ、我が子よ! よく戻ったな! 見た所……怪我もないようだ」
「はっ!」
おそらく彼こそがレックスの父で、当代のレジディア王国の国王なのだろう。後ろの方で跪くレックスの姿を見ながら、ソラはそう思う。というわけで親子の会話が僅かに交わされた後。レジディア王国の当代が一つカイトへと頷いた。
「マクダウェル卿。よく来たな……この間は顔も見せず去るから寂しかったぞ」
「はっ、陛下。お久しぶりです。先は神官方に呼ばれ、でしたので時間がなく……申し訳ございません」
「ははははは。良い良い。わかっている。それが我が子の婚礼の儀のためというのもな。単なる愚痴だ。流せ」
この間、というのは頃合い的にもカイトの言葉的にも彼がソラ達と共に『虹降る谷』に向かった時の事だろう。どうやらレックスの父は威容と良い豪放磊落というような性格のようだ。王族の優雅さも感じられるが、どちらかと言えば獅子のような気高き品格が見受けられた。そうしてそこらの会話が交わされた後。彼が後ろの馬車を見る。それを受けて、カイトが馬車の戸を開いた。
「ロレイン殿。ヒメア殿……良く来てくださった。レジディア王国は貴殿らの来訪を歓迎する」
「ありがとうございます、レイマール陛下」
「うむ……まぁ、ここらで長話というのもあまりよくなかろう。特に貴殿らには此度、助けも借りてしまった。公的な話は明日からとして、今日はゆるり休まれよ」
「ありがとうございます」
レジディア王国としては『方舟の地』の異変解決に協力してもらったのだ。というわけで挨拶は必要だしレイマールも直接出迎えはしたが、色々な公的なやり取りは明日からとするのが良いと判断されたようだ。というわけで、挨拶はそこそこに一同は客間へ案内される事になり、なし崩し的にソラ達も一緒に案内される事になるのだった。
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