第3199話 はるかな過去編 ――王都への道――
『方舟の地』と呼ばれるセレスティアの世界に存在する超古代文明の遺跡。そこに発生した異変の解決への助力を依頼されたカイト達は、遺跡調査を専門とするソラ達の協力を受けながらその解決に向けて動いていた。というわけでその原因となる未来のカイトのデッドコピーを討伐して数時間。一同は区画閉鎖のアナウンスから程なくして、外に撤収していた。
「……ほんっとにどこまでも続いてるんっすねー」
「ん? これは……」
ソラのつぶやきに瞬が後ろを振り向いて、彼が見上げた方向を同じように見上げる。
「……どこまでも続く塔、か。軌道エレベーターだと思ったが……」
「いやー、ここまでデカいと、存外正解だったんじゃないっすかね……あ、そっか……だから飛空術が禁止なのか」
「どうした?」
「いや、この間カイトが飛空術だと近付けなかったって言ってたでしょ? 多分それ、飛空艇の衝突事故を防止するためなんじゃないかって。多分全域にそういう結界やらを展開してるんでしょうね。維持とかは地脈でなんとかなるでしょうし」
「なるほど……確かに軌道エレベーターの問題点として飛行機やスペースデブリの衝突が起きた際などの倒壊の危険性などもあると聞くな……」
カイト達は飛空術を阻害されていると推測したわけであるが、実際には飛空術ではなく飛翔体という概念で阻害されているのかもしれない。ソラ達はそう推測を重ねる。
そんな推測を誰にも聞かれない程度の小声で話していたわけであるが、そうこうしている間にも時間は過ぎる。というわけで、一同が撤収を終えて十数分後。最後まで中に残っていたカイトとレックスが出てくる。
「ああ、出てきたね。君達だから不安はなかったが」
「はい……区画閉鎖確認しました。映像記録もこの通り」
ロレインの言葉にカイトは彼女から渡されていた記録用の魔導具を提示する。それを受けて、ロレインは早速と記録を再生する。
「ふむ……やはりこの区画はこの通路の壁が動いて出来たものか。大掛かりな仕掛けだが……」
「おそらく壁という概念を操作しているのでしょう。中に入ったままだとどうなったことやらですが……」
「そこらはこの塔を作った者たちも考えているだろう。おそらく封鎖と同時に自動で排出される仕組みになってはいるだろうね……あくまで推測に過ぎないがね」
流石に推測で動いて取り残されるのも馬鹿らしいので誰も残ってはいないがね。ロレインはノワールの推測にそう語る。というわけで推測にしかならなかったこともあり、誰も残していなかった。というわけで一度流しで映像を確認。ロレインもノワールも満足したようだ。
「これで良いでしょう……『方舟の地』の外周に起きていた異変も未来のお兄さんの討伐とほぼ同時に元通りになったそうですし」
「そうだね……やれやれ。予定とは大きく異なってしまったな」
元々の予定であれば、本来は上層階の調査に乗り出しているはずなのだ。唐突に起きた異変により予定は大きく変更になってしまったが、それでも未知の領域が判明したからかロレインは満足そうであった。それにノワールは同意しながらも、少し苦笑が滲んでいた。
「まぁ……ですが結局飛空艇の情報は何も手に入れられませんでした」
「それはそうだがね……やれやれ。どうしたものかね」
技術体系が異なる以上、ソラ達の飛空艇の情報もあまりあてにはならない。何より彼らは技術者ではないため、飛空艇の技術的なことはほぼ知らないのだ。一応安全装置がどういう組み込まれ方をしているかなどは知っているが、それが復元の役に立つことはなかった。というわけで満足そうから一転して険しい顔を浮かべる彼女に、レックスが告げた。
「ひとまずそれは後にして、今は王都へ向かいましょう。騎士達にも今回の一件で手傷を負った者は少なくない。休養が必要です」
「それもそうか……良し。今回は諦め、また改めよう」
これから調査しようにも時間も人員も不足しているのだ。ロレインもレックスの提案に賛同することにしたようだ。というわけで、一同は後の始末を『方舟の地』に駐留する部隊に任せて王都レジディアに向かうことにするのだった。
さて当初の予定から随分と外れる形で訪れた『方舟の地』を後にして王都レジディアへ向かうことにした一同。そんな彼らは一路、更に東へ向けて進んでいた。
というわけで一両日更に東へ進んだ所で、今回の一件で人員が足りなくなったこともあり馬に乗ることになったソラが適当に馬を進めて暇そうなレックスへと問いかけた。
「昨日からずっと東へ進んでますけど、どこまで行くんっすか?」
「うん? ああ、王都までか……ウチの王都まではこのままもう暫く東へ行くと、川に出るんだ。後はその川沿いをずーっと下っていく。すると、ウチの王都に出る」
やはり大きな街にとって水は生命線だ。これは魔術があろうとなかろうと変わらない。というわけで王都レジディアもまた川に近い所にある様子だった。
「へー……どんな所なんっすか」
「聞いてないのか?」
「え、まぁ……」
自身の返答に少し驚いたような様子を見せるレックスに、ソラは不思議そうに頷く。まぁ、彼の周囲には王都レジディアを知る者は少なくないのだ。一度、誰かから聞いたことがあっても不思議はなかった。とはいえ、それならそれでとレックスが笑う。
「なら、それはお楽しみってことで……」
「はぁ……あ、そうだ。そう言えばその幼馴染の八人? 全員来るんっすよね?」
「ああ……お前らの言う八英傑だっけ?」
「そっす。それっす」
ソラ達がレジディア王国に来る最大の理由は、八英傑の内残り四人はレジディア王国を中心として活動するが故にシンフォニア王国に居ては会うことが出来ないからだ。
「ああ。ベルはともかくとして……フラウだのはどうだろ。もう来てるかな」
「あんまり出歩かれないんっすか?」
「まぁ、ドワーフだからな。山に籠もって鍛冶の勉強してたり、鉱物を探しに鉱山に行ったりしてる」
「へー……ん? 鍛冶?」
「鍛冶。ドワーフだからな」
『かじ』というのだから家事だと一瞬思い込んだソラであったが、やはり鍛冶の方で間違いなかったらしい。とはいえ、これについてはレックスも同じ印象があったようだ。彼も苦笑していた。
「へ、へぇ……」
「あはは……ま、それはそうとして。『銀の山』に行くとなるとかなり険しい道になるからな。来てくれる今しか無いだろう」
「そうなんっすか……あ、そうだ。そう言えばずっと気になってたこと良いっすか?」
「良いぞ。暇だし」
「あはは……レジディア王国ってどんな所なんっすか? 結局国境から一気にこっち来ちまったんでいまいちなんも見れてないっていうか」
「あー……そうだよなぁ」
一応道こそ舗装されているが、王家が管理する遺跡なぞ滅多なことで行ける所ではない。というわけで国境から『方舟の地』までの道中。そして『方舟の地』から王都レジディアまでの道中には宿場町一つないという話だった。そしてそれをレックスも今更ながら思い出したようだ。
「そうだな。じゃ、少しだけウチの歴史とかそういうの絡めて話すか」
レックスは暇だったこともあり、よく口が回ったようだ。というわけでそれから暫くの間、ソラはレックスからレジディア王国についての話を聞くことになるのだった。




