第3197話 はるかな過去編 ――解決――
『方舟の地』と呼ばれるセレスティア達の世界に存在していた超古代文明の遺跡。そんな遺跡に発生した異常の解決をセレスティアの祖先にして過去世のカイトの幼馴染であるレックスから依頼されたカイト達。
そんな彼らは遺跡調査を専門とするソラ達の支援を受けながら、調査に臨んでいた。そうして未発見だった地下階の調査の中で、原因が『方舟の地』がソラ達の情報をベースとして未来のカイトの再現を試みた結果失敗してしまったことだと推定。
地下階に存在していた中途半端に再現された未来のカイトの影との交戦に及んでいたわけであるが、カイトとレックスが本気となり、圧倒的な性能を背景にして未来のカイトの影は敢え無く消し飛ばされることになっていた。
「「……」」
未来のカイトの影が真紅と蒼の二つの光条に飲み込まれ消し飛んだ後。カイトとレックスの二人は数瞬、問題ないかどうか警戒を続けていた。なにせ自分達が圧倒的な力を背景に技を無効化して戦わねば勝てなかった相手なのだ。倒したと油断させて、ということがあり得ないとは言い切れなかった。というわけで、待つこと数秒。レックスが口を開いた。
「……大丈夫そ?」
「大丈夫そ……大丈夫そ?」
『大丈夫そう……ね。そっちは?』
『結界内のことなので、お姉さんが大丈夫そうなら大丈夫ですね』
ヒメアの問いかけを受け、ノワールがもう隠れ潜んでいる可能性は無いだろうと判断する。というわけでヒメアとノワールの両名の太鼓判を受けて、二人の戦士はようやく肩の力を抜いた。そうしてレックスが尻餅をついて声を荒げる。
「あー! もう! ぜってーやりたくねぇ!」
「マジでな」
「いや、おめぇはやらねぇで良いだろうがよ」
なにせ未来の自身である。ああなるのはカイトなのだ。今後こういった未来の自分と戦うなぞという珍しい事態が早々起きるとも思えない。というわけでもしもあり得るとすると、未来のレックスが未来のカイトと戦うという事態だろう。
「はぁ……未来のお前、厄介すぎんだろ。これで『神の書』は全然再現出来てないし、大精霊様も再現出来てないんだろ? 他にもソラ達が言ってた死神とやらの力も出てこなかったし……」
「ああ、そういや使ってなかったな。少し見てみたかったんだけど」
「見たくねぇよ」
ただでさえ厄介さに定評のあった未来のカイトだ。その彼にこの上で大精霊達の力や死神の力なぞ使われると厄介さに拍車が掛かる事態だろう。
レックスは未来のカイトともう一度戦いたいと思う反面、もう殺し合いはしたくないと思っていた。彼の望みはあくまで競い合い高め合うライバルとしての関係で、殺し合う関係は望んでいなかった。というわけで今回始めて殺し合いに臨んだわけだが、それ故にこそ心底厄介さを理解したのであった。
「はぁ……俺もなんか色々と技を鍛えた方が良いのかなぁ……」
「いや、お前こそこれ以上技ってマジかよ……てか未来の時代だとお前も絶対面倒な力持ってそうだぞ」
「そういやぁ、俺への言及って無いな」
「いや、だから別世界に転生してるぽいって話だろ」
「あ、そっか」
そう言えばなんで自分への言及が無いんだろう。そう思ったレックスであるが、自身は別世界に転生している様子だということをすっかり忘れていたらしい。元々彼らは未来の世界においては第三の選択肢として自らの意思での転生を選んだと聞いている。
その転生した先が未来のカイトで、それが色々とあってこの世界でも転生先の地球でもない第三の異世界、即ちエネフィアで偶然遭遇したというだけだ。
レックスが今どこで何をしているかまでは、誰もわかっていなかった。というわけで子供っぽく納得した様子を見せた彼が先程までのしかめっ面から一転して笑う。
「はぁ……でも、ま。お前がやりがいのある相手のままっぽいから嬉しいな」
「結局かよ」
「お前っていうライバルがいるから、俺も修行のしがいがあるんだよ」
「ったく……調子の良い王子様だこって」
ぐっと突き出される拳に、カイトもまた拳を合わせる。そうして二人は小休止を終えて、勢い良く立ち上がった。
「よっと」
「はい、お疲れ様」
「「っと」」
ぽいぽい。ヒメアから投げ渡された回復薬を受け取って、カイトとレックスがそれを同時に一気に呷る。そうして急速に回復されていくわけであるが、それを待ちながらカイトがヒメアに問いかけた。
「外の様子は?」
「外も外で激戦だったみたいね。グレイスからもライムからも専用の戦場を用意してくれ、って頼まれたわ。というか、青からも赤からも隊長級は全員ね」
「相当か」
これは素直に喜んで良いことなのだろうな。カイトは四騎士達がタイマンを張ることを決め、それで相当な激戦を繰り広げたらしい未来の自身の仲間達についてそう思う。
今の自分の仲間達が弱いわけがないことは、他の誰より彼が断言出来るのだ。その彼らと互角に戦えるのである。未来の自分の仲間が強いと断言出来た。
「……てか、思えば姫様。オレらの戦場用意しながら外でも戦場用意してるんだよな」
「そうよ? 感謝なさい」
「……もしかして一番凄いの、姫様……?」
カイト達の全力に耐え切る戦場を用意しながら、外では四騎士達の戦いに耐えられる戦場も幾つも用意していたのだ。それでいてこうも平然とするのである。やはり結界や障壁の展開であれば天才的と言うしかなかった。とはいえ、やはりヒメアとしては少し不満げだった。
「それしか出来ないんだからあんまりね……」
「いや、姫様に前に立たれるとオレの胃が保たんから今のままでいてくれ。本当に」
最後尾で自分達の支援をしてくれるからこそ、カイトも気兼ねなく戦えるのだ。前線に主人が出てきてもらってはたまったものではなかった。というわけで心底げんなりした様子の彼に、ヒメアは少し満足げだ。
「そ。なら、そうするわ。だから負けるのは許さないから」
「イエス・ユアハイネス」
「……うっざ」
まるで優雅な騎士のように。恭しく跪くカイトに、ヒメアがゴミでも見るかのような目を向ける。これに、カイトが声を荒らげた。
「おい! たまには格好つけさせろ!」
「そのままが一番格好良いって照れ隠しなんだから許してやれよ」
「あ?」
「すんません」
「あははは。レックスさんも本当に成長しませんねー」
「それどういうこったよ!」
結局、王侯貴族と言えど一皮剥けばそこら辺にいる若者と彼らは変わらない。というわけで四人はいつもと変わらない様子で笑い合う。と、そんな所に。一人のけものにされた少年の声が響いた。
『あの……終わったのなら結界解いてくれませんか。兄さん達が居ないと僕一人だと統率が……』
「あ、ごめん。すぐ解くわ」
少しむくれたような様子があったのは、やはり一人外で放置されていたからだろう。立場上としても戦略としても仕方がないのであったが、それ故に拗ねられても仕方がなくはあった。そうして戦いを終えたことで結界が解除され、全員が外に出る。
「ふぅ……うおっ。死屍累々」
結界の外に出て見えた光景は、二つの国の二つの精兵達が倒れ込んで肩で息をする――未来のカイトの影の消滅から暫くして影の兵団も完全に消滅していた――姿だ。こちらもこちらでかなりの激戦が繰り広げられた様子だった。そしてそれは四騎士達も一緒で、カイトが出てきたのを見てグレイスが笑う。
「はぁ……ああ、団長か」
「おう……相当激闘だったみたいだな」
「そうだな……ああ、流石は未来の団長の仲間か。舐めて掛かったつもりはなかったが」
「私としてはもう二度とやりあいたくないわ」
「ライムもライムで息も絶え絶えと……あちらさんも……同じか」
どうやら両国の四騎士達でさえ相当に苦戦させられたらしい。幸か不幸か未来のカイトの力で再現された上にその大本たる未来のカイトの再現が不完全だったせいでデッドコピーのデッドコピーという形となり、再現された未来のルクス達も本来の力には程遠いものだったのだが、それでも苦戦は免れなかったようだ。
「良し……とりあえず全員小休止して……うん?」
小休止してひとまず安全地帯まで撤退するぞ。カイトは自らの率いる騎士達にそう告げようとして、空間に何かが表示されるのを見て僅かに警戒する。
「……ソラでも瞬でも誰でも良い。なんて書いてある?」
『ああ……えっと……トラブルが解消されました。二時間後に区画が再閉鎖されます。作業員はそれまでに退避を行ってください……という所だ』
カイトの問いかけに、まだ比較的余裕があった瞬が記載内容を報告する。これを受けてノワールがカイトへ提案する。
「……おそらく地下階とここに繋がる通路全域が閉鎖されると思います。外の人員も手配し、急いで撤収の準備を進めるべきかと」
「だな……レックス!」
「おう、わかった!」
『方舟の地』の外にいるのはレジディア王国の兵士達だ。指示出来るのはレックスだけだ。というわけで色々とありはしたものの、これにて異変は解決と判断。一同は慌ただしく撤収の支度を開始するのだった。
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