第3195話 はるかな過去編 ――最終幕――
『方舟の地』と呼ばれるセレスティア達の世界に存在する超古代文明の遺跡。それは同時に、セレスティアの属するレジディア王国の王家に縁のある遺跡だった。
そんな遺跡に生じた異変を親友にして幼馴染のレックスから教えられてその解決への協力を要請されたカイト達は、遺跡調査を専門とするソラ達の支援を受けながらも調査を開始。今まで見付かっていない区画を発見すると、更にその区画から繋がる地下階を見つけ出すことになる。
そんな地下階の調査の結果、原因がソラ達のもたらした情報による未来のカイトの再現に失敗したことであり、異変の解決にはその討伐が必須と判断。カイト、レックス、ヒメア、ノワールという八英傑の半数による討伐戦が行われていた。
「はぁ……パワーで押しまくってこれだけ手こずるのかよ」
『お兄さんも大概と思ってましたけど、未来のお兄さんも大概ですねー。というか、再現が可能な分だけまだお兄さんの方が弱いのかも……』
「スペック低下でここまで厄介さ上げられるのなら正直弱くなった感ねぇな……」
ソラと瞬曰く、自身は天井知らずの強さ。未来の自分は底知れない強さということだったか。カイトはノワールと念話を利用して話しながら、そんなことを思い出す。
現状で言うのならこの時代のカイト達未満、四騎士達よりかなり上という程度。相対的に弱いと言っても十分過ぎるほどに強かった。いや、それ以前としてこの時代のカイト達が強すぎるというのはあるだろうが。
「ふぅ……これで……何体目だ?」
『わかりません』
ガシャガシャガシャとガラスの砕け散るような音と共に何百と消し飛んだ未来のカイトの影に、カイトは一つ汗を拭う。幸か不幸か、この分身達は鎧袖一触出来る程度にまでは低下していた。本来はここまで低下することはないのだが、やはり解析が不十分になってしまっているという所が大きいのだろう。
「本当に巫山戯てるな……何体いるんだよ。おまけにどれが本物かわからんし……見つけたと思ったら分身と入れ替わりだ……っとーに、めんどくさいんだよ!」
苛立ち混じりに、カイトが大剣に力を込めて広範囲に向けて斬撃を放つ。そうして放たれた超巨大な斬撃はまるで津波のように、彼に向けて放たれていた無数の魔弾の嵐をそれを放った分身ごと飲み込んでかき消していく。
「はぁ、面倒くせぇ……レックスは?」
『4時の方向で戦っています』
「姫様は?」
『お姉さんは相変わらず無視されていますねー。まぁ、あちらも攻撃出来ないので遺跡としても攻撃対象と認められていないのでしょう。元々ですけどね』
先にヒメア自身が告げているが、彼女は魔物以外に対しての攻撃が出来ない。この理由についてはこの時代のカイト達は知り得ないが、それは事実なのだ。
そしてそういった性質を読み取ったのかこの遺跡そのものはヒメアを脅威と認識していないらしく、ゴーレム達からも守護者達からも狙われることがなかった。それはこの未来のカイトの影にも適用されているらしいのであった。というわけで相変わらずヒメアの守護は不要と判断したカイトは、ひとまずこの無数の分身達によって分断させられてしまったレックスと合流する。
「レックス!」
「おぉ! どした!?」
「どした、じゃねぇよ! 流石にこいつは面倒くさすぎてな!」
二の打ち要らず。真紅の闘気を纏うレックスは一発につき一体の分身を砕いていた。しかもその速度も範囲も拳を使っているのかと疑わしいほどで、毎秒数十単位で分身が減っていた。というわけで力技で消し飛ばしていくカイトとレックスが背中合わせで戦いながら相談を交わす。
「オレもお前もこの程度物の数になっちゃいないが」
「面倒なのは事実……だな」
この分身の厄介な点は弱くはあるが、その気配などの再現度は非常に高い。故に本体がどれかわからなくなってしまう点にあるだろう。なので分身を確実に倒せる程度と思って放った一撃が通用せず、その差を利用して詰め寄られカウンターを受けてしまうのだ。というわけで、レックスが面倒な点を列挙する。
「こいつらの合間を縫って攻撃してくるのを見切ってカウンターしても、結局直撃した瞬間に入れ替わりだ。かといってパワーで押し切ろうにもその程度でなんとかなる相手じゃない。どうしたもんかね」
『いっそ広さを狭くする? そうすれば未来のあんたが生み出せる分身の数も減らせるし』
「駄目だな。オレ達が満足に攻撃を撃てなくなる」
『なのよね。これ以上狭くすると多分、あんたらの全力が結界をぶち抜くし』
提案したヒメアであるが、彼女自身がこれ以上狭くするのは駄目と理解していた。カイト達の支援をしている彼女であるが、それは実は片手間。このアラスカ程度のバトルフィールドを構築し、維持することに多くの力を割いていた。これはカイト達の指定を受けているわけではなく、幼少期より共に過ごした結果、この程度の広さが必要と見切っていただけであった。
『でも広すぎて、分身をすべて倒すのも現実的じゃありませんよ? まぁ、勿論。タイマン出来る程度にまで狭くするとこっちが攻撃出来ないっていう問題が出てしまうのですが』
『ほんとあんた面倒くさいわね』
「なんでオレ怒られるのさ……」
この間は最強であれと言われ、今は最強であるせいでサポートが面倒くさいである。女心と秋の空とは言うが、理不尽であった。というわけで不満げなカイトに、レックスが笑う。
「あははは……とはいえ、どうする? この分身はどうにでも出来るが……入れ替わりに時間制御にと特殊能力が多すぎてまともに攻撃を当てられない」
「……癪に障るが。全力を出し切るか」
「……やるしかない、か」
これをやるのは少し嫌だが。カイトの両腕にうっすらと浮かぶ龍に似た紋様の存在をレックスは横目で見て、純粋に力技で押し切るしかないと覚悟を決めたようだ。と、そんな彼にヒメアが呆れたように告げた。
『癪に障るってあんたね……』
「嫌だろ。未来の自分相手に馬鹿力だけってのは。しかも術技で圧倒的に負けてるってのは」
『そんなものかしら』
「そうなんだよ……しかもオレとこいつが組んで、その上で本気でやるってのはあんま認め難い物がある」
こればかりはカイトにしかわからないことだっただろう。いくら未来の自分とはいえ、性能が低下しているのだからもっと余裕で勝てたい。しかもその相手の技術にせよ特殊能力にせよ不完全にしか再現出来ていないのだ。そんな心情が見て取れていた。とはいえ、敗北の方がもっと嫌だというのも間違いはなかった。
「……姫様。全力でやる。結界の外に影響が出ないように頼む」
『ええ……ま、相手が未来の自分で良かったじゃない。変な相手に苦戦するより』
「それもそうなんだけどな」
これでどこの馬の骨とも知れぬ相手に苦戦するのであれば詳しいが、相手は未来の自分だ。納得も出来るといえば納得出来た。というわけでカイトは双腕に浮かぶ龍の紋様を輝かせ、レックスもまた力の上限を引き上げるのだった。
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