第3190話 はるかな過去編 ――再戦――
『方舟の地』と呼ばれるセレスティア達の世界に存在しているという超古代文明の遺跡。そんな遺跡に起きた異変の解決への協力を要請されたカイト達と共に、その異変の解決に向けて乗り出すことになったソラ達。
そんな彼らを含めた調査隊は未来にさえ情報の残っていない地下階を見つけ出すと、そこで影で出来た兵隊達と遭遇することになる。
そうして影の兵隊との戦いを繰り広げながらも地下階の調査を進めていた一同であるが、そんな一同はついに元凶がいるという部屋を発見。そこで影の主と思しき存在と交戦することになるのであるが、それは遺跡が再現しようとしたという未来のカイトのある種のデッドコピーであった。
というわけで未来のカイトのデッドコピー相手には流石にこの時代のカイトも勝利を得難く、ロレインの提案を受けて一時撤退。ソラ達との間で情報共有。一日の休養を経て、再戦に臨んでいた。いたのであるが、その主軸となるカイトの顔は盛大に歪んでいた。そしてそんな彼に、レックスは苦笑いだった。
「……わからなくもない」
「なんかいつも以上にフルボッコな感じがしてな……」
「君はねぇ……はっきりと言ってしまえば強すぎるのだよ。ただでさえ強いのに、未来の君ときたら未来予知にも等しい力まで持っている。攻撃の当てようがない」
「まぁ……喜んで良いのやら、悲しめば良いのやら……やっぱフルボッコじゃないですかね、これ」
ロレインの言葉に、カイトは改めて未来の自分対策に用意された面子を見る。
「姫様まで駆り出しますか」
「あんたがもうちょっと楽な相手なら、私が駆り出されることもなかったんでしょうけど」
「そりゃそうだけど」
「「あ、あははは……」」
流石にこれはなぁ。ヒメアの言葉に相変わらず何か釈然としない物を感じているらしいカイトに、サルファとノワールの二人が声を揃える。というわけで、今回未来のカイトの影を倒すべく全員で総掛かりで戦うことになったらしい。
これは言うまでもなくカイトがそれだけ化け物じみた戦闘力を有しているという証明なのであるが、カイト当人――この言い方が正しいかは不明だが――からしてみれば自身がフルボッコにされるようなものだ。気分を害するのも無理はないかもしれなかった。そんな彼に、レックスが苦笑を深める。
「ま、俺らなんていつもそんなもんだろ。いつもは俺とお前だけで事足りたのが、今回は全員になるだけってだけだ」
「そうなんだけどさ」
先にロレインが言及しているが、第5階層の守護者はこの近辺で強いと判断される者をコピーして戦わせるというものだ。そういうわけなのでカイト達がここに挑む際は基本カイトかレックスが選ばれることになり、二人は何度となく自分達のコピーをぶちのめしていた。
そういう意味では自分達が倒されるのには慣れているのであるが、ここまで大人数に寄ってたかってはなかった。というわけでレックスもわからなくもない、と妙に実感が籠もっていたのであった。
「はぁ……とりあえず。全員でフルボッコか」
「そうね……とりあえずあんたさえ倒してしまえば後は消えるっぽい……んですよね、お姉様?」
「だと思われる。未来のカイトの特殊能力の一つに影で出来た兵団を呼び出す力があるという。それはあくまでも未来の君の力だ。いくらコピーだとて……いや、コピーだからこそ君という柱を失えば再現は出来ないだろうね」
ヒメアの問いかけに対して、ロレインは推測だがと語る。ここらはもうこの『方舟の地』を作った者達でもどうなるか分かりそうにないのだ。ぶっつけ本番、やってみるしかなかった。
「全く……未来のオレに会ったら絶対にもうちょっと攻略しやすくしろ、って言おう」
「い、言えるのかしら……」
そもそも未来の自分と言うは良いが、正確に言えば転生した自分だ。とどのつまりこの時代の彼は会えるわけがないはずなのであった。というわけでそんな当たり前のことを見落としたカイトの発言に頬を引き攣らせるヒメアであったが、気を取り直してロレインに問いかけた。
「で、お姉様。とりあえずカイトとみんなを隔離して、で良いんですよね?」
「ああ。兎にも角にもカイト……あっちもカイトだが。こっちのカイトの利点を活かすのなら君の存在は必要不可欠だ。カイト。改めて聞くが基本的な能力であれば、君の方が上なのだね?」
「それは間違いなく。ヤツの動きは追えました。追えた上で当てられないという一番いやな手合です……自分で自分に言うのもなんですが」
先にカイト自身も認識したが、未来のカイトの基本的なスペックであれば今のカイトよりかなり低いのだ。それを補って余りある神陰流の力が凄まじいのであった。
「だ、そうだ。そうなれば後は出力で押し切るしかない。無論それでも未来のカイトとて並外れた出力は有しているのだろう。そうなると後は削り合うしかない。万全を期して、君達全員でね」
「「「……」」」
それでも絶対に勝てると言い得ないあたり、未来のカイトはやはりぶっ飛んでいるな。カイト以下戦いに備える一同――そしてこの話を聞いている全員が――はそう思う。そしてそれはロレインも一緒だった。
「わかっているとも。それでも勝てない可能性はある……が、勝って貰うしか異変が解決しないのだから頑張ってくれというしかない」
「わかってます……ま、いくら未来の自分だとてこんだけ数集めたんだ。勝てないと困る」
「そうだね。兎にも角にも頑張ってくれ」
勝てないと『方舟の地』に起きた異変は解決しないのだ。無論どこかでセーフティが働いてくれて勝手に消える可能性もなくはないが、あり得るかどうかは誰にもわからない。
解決出来るなら解決するにこしたことはなかった。というわけでそんな話をしながら、一同は改めて未来のカイトの影が封印される部屋へと舞い戻る。そうしてロレインが結界の中に退避するのを見守りながら、カイトは改めて未来の自身の影を観察する。
「……なんていうか、やっぱり違和感あんだよなー」
「何が?」
「鎧着てないってことが」
「「「あー」」」
未来のカイトの影なのであるが、これは言うまでもなくソラ達やセレスティア達にとっては見慣れた白い――影なので黒だが――ロングコートに刀だ。それに対して今のカイトは鎧を身に纏って双剣を帯びている。
確かに未来のカイトも双剣士なので双剣を使うが、最初からということは滅多にない。何よりまだ彼自身が神陰流で完璧に双剣を使えるほど習熟出来ていないのだ。仕方がない理由もあった。
「確かにそれだけは違和感ありますね。兄さんが戦場で鎧を着ていないというのは」
「面倒くさい、とは言いながらも絶対に着ますからねー、お兄さん」
「父さんからさんざん鎧の重要性を説かれてるからなぁ……」
やはり歴史と伝統のある騎士の名家だ。騎士の正装とでも言えば良いか鎧に対してはかなり重要視しているらしく、マクダウェルの騎士たるカイトもまた鎧を双剣同様に大切に扱っている。
それを手放し、ロングコートという彼からすれば巫山戯ていると思える格好を選ぶようになった未来の自身に対して思う所があったようだ。というわけで彼は屈伸をしながら続けた。
「ま、大して意味があるかはわからないが……騎士と鎧の重要性を忘れちまったなら叩き込んでやりますかね」
「立場が変わった以上、仕方がない気もするけどな」
「それはそうだけどな」
カイトもレックスもソラ達から未来のカイトは騎士ではなく政治家や為政者の立場が近いと聞いている。騎士でない男に騎士の装い云々を説くのは間違いとはわかるし、立場によって戦い方が異なるのもまた理解出来ている。が、騎士の心まで失ったのであれば話は別とカイトは考えている様子だった。
「良し……サルファ。先と同様に武器の投射はそっちで頼む。オレとレックス、ノワール、姫様の四人で叩く」
「わかりました……未来の兄さんです。おそらく一番危険性をご自身が理解していると思いますが……御武運を」
「あいよ」
なんで大将軍級の敵と戦った後の強敵が未来の自分なのだろうか。カイトはそんなことを笑いながら、サルファの激励に気を引き締める。そうしてそうこうしていると、ロレインの側の準備が整ったらしい。
『みんな。聞こえているね』
「はい」
『うむ……今回はカイト以下レックスくん達も未来のカイトとの戦いに臨むことになる。先程以上に大変な戦いになってしまうが……頑張ってくれたまえ』
今回の戦いでは未来のカイトの仲間の内、ルクス、バランタイン、ウィルの三名は四騎士達がなんとか抑え込む予定だ。そうなると残り一人が余るのだが、未来のカイトが呼び出している影には本来は生きているラカムらまで含まれていた。
これがなぜなのかは問われたソラ達にもわからなかったが、彼らの実力を鑑みればいくら四騎士とて楽に勝利は得られないことは明白だ。各個人の奮闘に期待となるのも無理はなかった。そうして一同が準備を整えた所で、再戦スタートとなるのだった。
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