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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3187話 はるかな過去編 ――影の根源――

 『方舟の地』というセレスティアの属するレジディア王家に縁のある超古代文明の遺跡。そんな遺跡に起きた異変を知らされたソラ達は調査を要請されたカイト達と共に、『方舟の地』へと赴いていた。

 そうして『方舟の地』で未来には情報が失伝してしまっていた地下階の存在を見つけ出したわけであるが、それと共に謎の影の人と交戦を経つつ調査を進める事になる。というわけで地下階第一層の通路部の調査を一通り終えた一同は発見された幾つかの部屋の調査に臨む事になり、溢れ出した影の人と思しき根源を見つけるに至っていた。


「「「……」」」


 影の主とそれが率いているらしい精兵達とカイト・レックスが率いるシンフォニア・レジディアの連合軍は封印が解除されて数秒。動く気配を見せなかった。

 襲ってくるならまだしも、襲ってこない上に魔力の蓄積も見受けられないのだ。下手を打って痛い目に遭う危険性を考えれば、当然の事ではあっただろう。というわけでにらみ合う両陣営であるが、その最前列に立つレックスが冷や汗を掻きながら口を開く。


「……向こうも動かないな」

「こっちも動けてないがな……おっそろしいな。あれがなんだかはさっぱりだが、魔族共なんて目でもないレベルの戦闘力がありそうだ。特にあの最奥の奴ら……あれは別格だ」

「……先手、取るか?」

「無理だろ。先手を取ろうとした瞬間、下の連中にフルボッコだ」


 最奥の影の主とその取り巻き達の腕が尋常でない事は容易に見て取れるが、その前に控える影の兵団も決して雑魚とは言い得ない。カイトやレックスでさえ少しは本気を出すレベルだ。

 その実力は、おそらく自身の騎士団とほぼ互角。余裕で勝てようと油断して良い相手ではない。それがこの戦いの後のカイトとレックスの言葉であった。と、そんな二人にグレイスが提案する。


「……団長。殿下……こちらで道を切り開く。最奥の連中が動く前に仕留めてくれ」

「……それが一番か。行くか」

「おう……おい」

「はっ……こちらでも支援します。スカーレット殿。左翼をこちらで。右翼をそちらで受け持って貰いたい」

「かしこまった」


 カイトの問いかけにレックスが一つ頷き、それを受けた彼の陣営の四騎士の一人がグレイスへ提案。それを了承する形で話が纏まる。というわけで<<青の騎士団>>と<<赤の騎士団>>の両陣営が左右の敵を抑え込み、その間にカイトとレックスの二人が敵の首魁を討ち取るという一同にとっての本気を選択。容赦なく揉み潰す事にする事を決めた一同は敵が動きを見せないのを良い事に、ゆっくりと隊列を組み替える。


「ソラ、瞬……聞こえているな?」

『おう……なんか無茶苦茶ヤバい所に来ちまった感』

「あははは……っぽいな。すまん。この領域が来るとは思ってなかった。が、あの最奥の連中やその手前ぐらいの連中を相手にしなければ死にはしないだろう。身を守る事に徹しろ」

『おう』


 これはそうさせてもらう方が良いだろうな。ソラはカイトの指示に有り難く従わせてもらう事を決める。敵の本隊はカイト達とは逆に弱い順に強い者ほど後ろに控えていた。

 いや、これは本来はこちらの方が正しく、カイトとレックスという総大将二人――しかも四騎士がそれに追従する形――が最前列に立っている彼らがおかしいのだ。

 これはひとえにカイトとレックスという最強の剣を如何にして敵の総大将へ迅速に叩き込むという目的のための陣形で、未来のカイトもよく選択する陣形だった。というわけでそんな彼が初手を担う者へと告げる。


「サルファ」

『はい……すでに。後は顕現だけです』

「良し……やるか」

『了解です……あたらないようにはしていますが、当たりには行かないでくださいね』

「あいよ!」

「おぉおおお!」


 どんっ。サルファの言葉を聞くと同時に、カイトとレックスの総身から闘気が立ち上る。そしてそれを合図として、サルファの目が緑色に光り輝く。


「さぁ……これでどうだい?」

「へ?」


 楽しげに笑うサルファの近く。比較的後ろの方に配置されていたが故に全貌を目の当たりにしたソラが素っ頓狂な声を上げる。そんな彼の上には、無限遠に続くかに思えるほどに広がる天を覆い尽くすほど矢がいきなり顕現したのである。

 しかも凄まじいのは、これは別にカイトがよくやる魔力で編んだものではないという所だろう。しっかりとした存在感、言ってしまえば本当にそこに実在する実在感のような物があったのである。

 魔力による構築ともまるっきり異なる、ある種の神業の一端であった。そうして、サルファの魔眼により生み出された無数の矢が一気に降り注ぐ。


「ライム!」

「ええ!」


 これで牽制は打てた。ならば次は有効打を叩き込んで二人の道を切り開く。グレイスとライムは自分達にとって一番の本気とも言える陣形で自身の為すべき事を理解している。故にただ名前を言うだけで、息を合わせられた。そうして迸る猛火と吹雪であるが、そんな二人が息を呑む事になる。


「っ!」

「ちっ!」


 降り注ぐ無数の矢の嵐に対して、影の軍勢はまるで避ける事さえしていなかった。それは正しく、この行動が無意味だと一兵卒に至るまで理解しているかのようであった。

 そして、それは正しかった。グレイスとライムの二人が猛火と吹雪をぶつけ敵陣営を切り裂こうとした、その直前。唐突に無数の、正真正銘無数としか言いようのないほどの武器の嵐が吹き荒んで、降り注ぐ矢を打ち砕き、こちらに肉薄してきたのである。


「読まれた!?」

「いや、違う! これが奴らの戦術か! サルファ殿下!」

「やっている! が、強度が高い! おまけに速度も速い! 消し飛ばす前に着弾してしまう! こちらで相殺はするが、全てとはいきそうにない!」


 無数に降り注ぐ武器の嵐に対して、サルファは自身に油断があったと認め更に魔眼に注ぎ込む力を強くする。すると一方的に打ち砕かれるだけだった矢は光り輝く虹の矢へと変貌を遂げ、無数の武器の嵐と激突。虹を撒き散らしながら消滅していく。


「兄さん、ごめんなさい! 援護は出来そうにありません!」

「しゃーない! ちっ! まさか同じ戦術か!」

「なら隊列も同じにしてくれってな!」


 お互い考えていたのは一緒のようだ。カイトもレックスも武器の嵐の投射と共に駆け出した敵先陣と切り結びながら、思惑を外された事に笑っていた。


「殿下もカイト殿も、笑っている場合ではありませんよ! どう致します!?」

「どうするもこうするもない! なんとか突破するしかないだろ!」

「だよ……な!」


 どんっ。自身のお目付け役の言葉に、レックスは大剣を叩き付けて衝撃波を生み出す。そうしてその衝撃波により、影の兵士達が消し飛んでいく。が、それは最後尾にいる影の主に届くはるか前に、獅子のたてがみを思わせる髪を有する巨大な偉丈夫の影により叩き潰される。


「……ちっ」

「敵さんの主力か……やるな」


 近くに味方も多かったし、何よりこの遺跡を倒壊させるわけにもいかないのだ。レックスの一撃は確かに本気の一撃ではなかった。なかったが、それでもそれを一息に叩き潰せるというのは現在の人類側に早々出来る事ではなかった。

 というわけで楽しげに舌打ちしたレックス同様、カイトもまた少し楽しげだった。そして敵の主力に攻撃が届いた事で、二人は次の流れを察していた。


「……動くな、奴らも」

「だな……二人共」

「ああ……総員、巻き込まれるなよ!」

「……」


 敵の主力が動くのだ。そしてその主力はこちらの騎士でも幹部クラスでないと相手になりそうにない。ならば、四騎士達の出番だった。というわけでドレスのように猛火を羽ばたかせ気迫を漲らせるグレイスに対して、ライムが無言で吹雪を迸らせる。

 それに対して、影の兵士達の中からは先程の巨大な偉丈夫の影と長い髪を有する影が方や轟音を轟かせながら。方や音もなく二人へと肉薄する。


「大将! こっちでなんとか受け持ちますんで!」

「殿下は先へ!」

「任せる! って、お前らに一人一体か!」


 中々にヤバい領域の敵を引き当てたらしい。レックスは自身の率いる騎士団の四騎士二人に対しても一人一体を差し向けてきた向こうに思わず驚愕を露わにする。

 確かに見た所グレイス達にも勝ててしまえるかもしれない程度の相手だろうが、一対一であればこちらの四騎士の方が強そうな感じはあった。

 とはいえ、それならそれで早々に片付けて貰って他の敵を倒してもらうだけだ。なので二人は四騎士達に敵主力と思しき影の討伐を任せ、更に他の騎士達に雑魚を任せて最奥に控える首魁とその側近らしい三体の影まで攻め上る。


「よっしゃ……」

「こいつらは……オレのとことお前んとこの四騎士並……か。」

「だな……まさかこの領域の敵まで出せるのか。もっと上、怖いな」


 今の今までこの『方舟の地』に十数回も挑んできた二人であるが、言われているように最上階までは到達出来ていない。そこに至るまでにこの領域の敵が平然と出てくるかもしれないというのだ。空恐ろしいのも当然だろう。というわけでそんな敵の首魁達の前にたどり着いた二人は、相変わらず動きを見せない敵の首魁達を確認する。


「……デカいハルバート持ち1。剣と盾の騎士タイプ1。魔導書と短剣持ち1……そして総大将は鎧無しの剣士か。バランスめっちゃ良いな」


 熟練の冒険者のような印象があるな。カイトはそう独りごちる。攻撃力の高い重戦士一人に、機動力の高い戦士が二人。しかもその二人共おそらく得意分野が異なる。そして味方を守る事の出来る力を持つだろう騎士だ。おおよそいかなる状況にでも対応出来るだろう構成で、冒険者が最終的に目指す構成と言えた。そうしてにらみ合うこと数瞬。先に仕掛けたのは、敵だった。


「「!?」」


 速い。カイトもレックスも影の主の尋常ならざる速さに思わず目を見開く。しかもここで想定外だったのは、今までの傾向から影の主が動くのはこの側近達を打ち倒すなりしてからだと考えていたことだ。ここでもまた完全に定石を外された形だった。


「ちっ!」


 きぃん。カイトの刀と案の定刀だったらしい影の主の漆黒の刀が激突。金属同士が衝突する澄んだ音が鳴り響く。そしてそれと同時に、レックスの側にも側近達が襲いかかった。


「っと! 分断するつもりか!」

「そっち、行けそうか!?」

「問題無し!」


 単体の戦闘力が高い影の主と、一体一体は四騎士並の個体が三体。どちらを相手にする方が大変かと言われればわからないが、少なくともどちらもなんとかはなりそうという所であった。そうして、異変を引き起こしている可能性が高い原因との戦いがスタートする事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 敵方の編制になんか見覚えが
[一言] あれ? この影たちの武器は……
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