第3186話 はるかな過去編 ――影の根源――
『方舟の地』と呼ばれるセレスティア達の世界に存在する古代文明の遺跡。その遺跡に起きた異変の調査に協力する事になったソラ達であるが、そんな彼らを含めた調査隊は本来存在しない地下階を発見。その調査に乗り出していた。
そんな地下階に存在していたのは『方舟の地』の倒壊を防ぐ要石と呼ばれる制震に重要な役割を果たす魔導具で、通路が通常は出てこない事から隠されたのではと考えられる事になっていた。
というわけで要石のあるエリアを含め地下階の情報は封印する事となり、一同は改めて地下階の残りのエリアの調査に乗り出す事になっていた。
「さて……この要石のエリアはもう立ち入る必要は無いが。そうなるとやはり四方の四部屋が重要な役割を果たす部屋になりそうかね」
「となると、後は二つですか」
「そうなるね……さて、どうしたものか」
当初の予定では両軍で揃って調べるのは数部屋だけとしていた。そしてその中の一つとして先の要石に通じる階段の部屋となっていたわけであるが、その残りは四方の部屋とするつもりだった。
というわけでどちらを先にするか、と考えるわけであるが、特に決め手となる情報も無いので一同は仕方がなしに瞬やソラが教えてくれた通路の順番に従って若い方から調査する事にする。が、それは初手で躓く事になる。
「……む?」
「開きませんね……」
「おや……レックスくん」
「了解です……俺でも……一緒ですね。まぁ、元々セレスちゃんでも無理だったんだから何を当たり前なな話でしかないですけど」
若い方の番号の部屋に入ろうとした一同であったが、どうやらこの扉は反応はするものの何かしらの事情でロックが掛けられているらしい。レックスとセレスティアがパネルに触れるもアラーム音が鳴り響くだけで、開く様子がなかった。
「ふむ……だが何か表示は出ているんだよね。そうなると……瞬くん」
「はい」
「また頼むよ。なんて書いてあるんだい?」
「はぁ……」
パネルに触れると共に現れたのはアラーム音だけではなく、丁度顔の横あたりの高さに何かしらの表示が現れていた。これは今までほとんどなかった事で、このタイミングで現れるのであれば開かない理由が書かれていると考えて良さそうだった。というわけで近くに居たから、という理由で呼ばれた瞬は現れた表示にかかれている文字を読む。
「えっと……この先動力室。ゲストの入室には管理者権限を有する者が発行するカードキーを使用してください」
「ふむ? 動力室と……確かにそれなら追加で鍵が必要になるのは無理もないかもしれないが……」
そうなると今までレジディアの一族のみがこの遺跡を開けるのはなぜなのだろうか。ロレインは瞬の読み上げる言葉を聞きながら、その理由を考える。
「ふむ……その秘密が分かれば、この遺跡の調査が進むのだが……ノワールくん。調べたりする事は出来るか?」
『出来るかとは思いますが……それについてはレジディア王国が建国して以来、秘密裏に調査しているはずです。普通の調査では難しいのではないかと』
「それは確かに……とはいえ、何かはあるのだろうね。我々には察し得ない何かが」
『それは間違いなく』
それをどうすれば探す事が出来るのだろうか。現代の技術では難しい事は承知であるが、それを知らない事にはこれ以降の調査はままならないのだ。
「……まぁ、良い。動力室はここにある、と。やはり未来でこの階層の情報……いや、今回の調査を封印したのは私達だろうね。この階層を探そうとして下手を打たれると危険も過ぎる」
『かと。更には影の存在もある。そしてこの階層が現れる理由などがわかりませんが……下手に馬鹿げた調査をされないために隠した可能性は高いです……というより、隠すべきでしょうね』
「だろうねぇ……で、隠したは良いがその知る者が何かで情報を伝えないまま死んだかな」
おそらく私達が全部を隠したまま死んだのではなく、一部には知っている者は居たのだろうがその一部の者が何かしらの事情で情報を次代へ伝える前に死んだのだと考えるのが自然だろう。
ロレインもノワールも未来のレジディアの王族――しかも直系かつ重要な役割を有する――であるセレスティアにさえ伝わっていない地下階の情報に対してそう推測する。そうしてある程度の推測を立てると、二人は時間も無い事もあり正反対にあるもう一つの扉に向かう事にする。
「さて……この扉も開くかどうかはかなり微妙な所ではあるが」
『まぁ、開かなければ重要度が高いと考えて良いというだけでしょう……次の調査の見込みも立たないですが』
「それを考えれば、是非今回の調査で一気に調べたい所ではあるんだがねぇ」
『まぁ、数百年後だかに私達のほうでなんとかしておきます』
「そうしてくれたまえ。流石に結婚式の前に花婿連れて長々、とはできんよ。立場的にもね」
今回は諦めるしかないか。二人共今回ばかりは時間も無い事もあり、諦める事にしていた。というわけで雑談もそこそこに、先程同様にセレスティアが扉の横のパネルに触れる。
「……む?」
「これは……今までにない反応……ですね」
「うむ……少なくとも私もロックが解除されながらこの警告が出るのは見た事がない。レックスくん」
『ロックが解除された後だと、俺も無いですね……』
カシュッという空気が抜けるような音と共にロックが解除されたらしいのであるが、同時にパネルには警告文らしい文章が表示されていた。というわけで、動力室同様に瞬が呼び出される事になり、彼がその文章を読み上げる。
「現在不具合発生中。メンテナンス担当者か警備責任者が認可した者以外立ち入り禁止。またもしメンテナンス担当者が同席していない場合、入室は禁じられています。メンテナンス担当者は事前にエラー内容に関してシステム管理者から情報を入手し、作業従事者の安全の確保を行ってください」
「なるほどね……この先に不具合が起きている原因がある、と」
それが何かは入ってみない事にはわからないだろう。出来ればシステム管理者がどうやって情報を手に入れているかなど知りたい所であるが、そもそもそのシステム管理者とやらがどこで仕事をしているのかも全くわかっていない。今回はぶっつけ本番でやるしかなかった。
『そして危険があり得ると……それならそれで権限無しで入れないようにしておくべきなのでしょうが』
「何かがある……というわけなのだろうね。それも相当な何かが」
下手をすると作業従事者の安全云々というのは建前で、この作業従事者に関しては使い捨てるつもりだったのかもしれない。ロレインもノワールもこの施設の闇と思しき匂いに対して僅かに顔を顰める。
「とはいえ、我々は行かねばならないのだろうね。この異変を止めるためには」
『ですね……みなさん、十分に注意を』
「だ、そうだ……カイト」
「了解」
どうやらここからは本格的な戦闘になりそうだ。話を聞いていたカイトはそう判断する。というわけで一同は少しの小休止を挟んだ後、隊列を組み直し。カイトを先頭として改めて入室する事にする。
「……」
「……」
先頭に立ったカイトが最後尾に移動したロレインに視線を送り、それに対してロレインも無言で頷く。そうしてカイトが警戒しながら扉を開いた。
「……っ」
『何かあったかね』
「次元と空間が歪んでいます。おそらくこの中にいる何かしらを封じているのだと思われます」
『そうか……十分に注意してくれ。もしかするとこの中の何かは、この遺跡を作った者達が想定した異常の可能性もある』
「はい」
この部屋の横にある警告から考えるに、本来はこの異変はこの部屋だけで留められている可能性があった。それが外にまで溢れ出すという、超古代の文明さえ想定されていなかった事態が考えられたのである。というわけでカイトが意を決して中へと入る。
「……これは……」
「また堂々としているな」
「二重に封印……それでなお、この圧力。中々に凄まじいものが封じられているみたいね」
結界の中に入ったカイトとそれに続いたグレイスとライムが見たのは、外に溢れ出た影の人とはまるで違う圧力を持つ何体もの影とその最後方。まるで王者のように佇む一体の影だ。
その影は前にいるどの影よりも凄まじい圧力を有しており、この影こそがこの異変の元凶だと考えられた。そうしてその彼らの後ろから、その他の面々も順次入ってくる。
「カイト。状況は?」
「……見ての通りだ」
「これは凄いな……なんだ、あいつは」
何時動くかもわからない影の主に警戒するカイトに、レックスは少しだけ苦いものがこみ上げる。やはり流石は自身の祖先の作り上げた文明の遺跡。凄まじい存在を人工的に生み出せたものだと感心半分、呆れ半分だった。そんな彼を横目に、カイトが問いかける。
「さて……ノワール。どうすれば良い」
『あの横のコンソールが安全圏……でしょうね。あの一角に追加で結界が展開されています。更には我々とあちらを隔てる第二の結界もまたあれを起点としている様子です』
「なるほど……」
「そうしよう。流石に君らの戦いには足手まといになってしまうからね」
ノワールの言葉を聞いたカイトの視線を受け、ロレインが肩を竦めながらコンソールの方へと移動する。この異変を解決するために専門職はいるのだ。それが戦闘可能かどうかと問われれば疑問がある所で、安全圏が設けられているのは不思議のない話であった。というわけでロレインが安全圏へと退避する。
『……ああ、そのようだ。どうやらここから結界を解除出来るらしい……うむ。これは私でも操作可能なようだ』
「頼めますか?」
『ああ……だが少し待ってくれ。何か情報があれば……駄目か。解除か否かしか出来そうにない』
どうやら情報無しのぶっつけ本番でやるしかないらしい。一同はそう覚悟を決める。そうしてカイトとレックスがそれぞれの騎士達に最終確認の意味で視線を巡らせ、戦いが開始される事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




