第3184話 はるかな過去編 ――地下探索――
『方舟の地』と呼ばれるレジディア王家に縁のある巨大な塔の遺跡。そんな遺跡に起きた異変の解決のため、カイト達と共にソラ達もまた『方舟の地』へと赴いていた。
というわけでカイト達と共に『方舟の地』の調査に乗り出していた一同であるが、そこで一同は未来の世界にさえ情報が残っていなかった地下の階層を発見する。そうして影で出来た人などとの戦いを経て地下階の調査を開始する一同であるが、問題と言える問題は今のところ起きていなかった。
「……ふむ……今のところ一つの通路につき扉二つという所か。かなり広い……のかもしれないねぇ」
「この中がみっちり部屋になっているのであれば、ですが」
ロレインのつぶやきに先頭を進むカイトはそう口にする。レックス達と別行動を開始した一同であるが、ひとまずは当初の予定の通り大通路から分岐する十字路の一つ目に入っていた。
というわけでその端を目指して歩いていたわけであるが、案の定というか扉は一つではなかったようだ。一つ目の通路ですでに二つの扉が見付かっていた。そんな彼女のつぶやきに、別方向を調べているレックスが同意する。
『こちらも同じく二つありますね……今のところ概ねそちらと対照になるように設計されているのかもしれません』
「それは十分にあり得るだろう。構造上、その方が安定するだろうしね……ふむ……ノワールくん。一つ聞きたいのだが、この構造材は上と同じだろうか」
『おそらくは同じではないかと。別にする意味は……無いとは言えませんが、絶対的に必要な事かと言われるといまいちその理由は思い当たりません』
「あるとすると、地中に適応した素材というパターンか。だがその場合でも仕切りに使う必要はなさそうか」
『ですね。その場合は土に触れる施設外壁で十分のハズです。少なくとも内部の壁に関しては同様と考えて良さそうかと』
やはりこの地下階は今回の調査で新たに発見された領域なのだ。素材から何から全くの未知で、調べたい事は山程あった。というわけでノワールと推測を重ねるロレインであるが、そんな彼女は地下を見ながら訝しんでいた。
「にしても……敵が上とは違う以外この地下に隠さねばならないような物が見当たらないのは気になるね。てっきり今の今まで隠されていたのだから、もっと表に出せないような……そうだね。巨大魔導炉の一つや二つ並んでいても不思議はないと思っていたのだが。いや、部屋の中という可能性も無きにしもあらずだが」
『そうですね……今のところ広いだけで特別何かおかしな点は見当たりません』
「……瞬くん。一つ聞きたいが、何か扉の周辺に記載は無いか? 文字でもなんでも良い」
「文字……ですか」
ロレインの問いかけに、瞬は目の前の扉の周辺を見てみる。そんな彼に、ロレインが推測を口にした。
「ここが古代文明の遺跡であるのなら……いや、これは確実なのだが。兎にも角にも何も目印が無いとは思えん。無論経時変化による劣化により看板などが破損してしまった可能性は十分に考慮するべきであるが、見た所そういった物が置かれていた様子はない。古代の文明とて何も目印も無い部屋を幾つも用意するとは思えんのだよ」
「なるほど……確かにそれはそうですね……」
ロレインの言う事は至極当然の事だ。この遺跡を作った何者かがどういう意図でこの施設を作ったか――おおよそ軌道エレベーターで確定だろうが――は分からないが、この施設全域を熟知した者だけがここに来るわけではないだろう。ならば案内の一つでも記載して不思議はないとロレインは思ったのである。そうして瞬が色々と周囲を見てみると、扉ではなく別の所に記載があった。
「……む?」
「どうしたね」
「少し離れて良いですか? あの文字盤を見たいのですが」
「構わんが……カイト。誰か護衛を」
「グレイス」
「了解だ」
何を見つけたかは定かではないが、何かを見つけたのは確実なのだ。そして悲しいかな、エネフィアでもこの世界でも上位層の実力者でもこの場での瞬は実力であれば下から数えた方が早い。護衛を、というわけでグレイスが横に就く事になったようだ。というわけで瞬が気になったらしい文字盤の近くまで移動した所で、グレイスが問いかける。
「何か気になる事でもあったのか?」
「……」
グレイスの問いかけに答えることなく、瞬は文字が幾つにも変化していく文字盤を観察する。その幾つかは例えば上層階で彼が見たシステムエラーだったり、はたまた彼にはよく理解できない何か専門用語らしい記載だったりするのであるが、その幾つかの内一つがもしかしてと思ったのだ。
「……なるほど。このB1は……地下一階……か? となるとこの横はハイフンで……地下一階のA通路……というわけ……なのか」
「というわけのようです」
『なるほど。あの文字盤に本来は表示される……というわけか。あり得るね』
何かの推測を重ねていた瞬の様子から、グレイスはこれはあたりっぽいぞと思ったようだ。通信機を使って瞬のつぶやきをロレインに流していた。というわけでこれはおおよそあたりなのだろうな、と思ったロレインが通信機を介して瞬に問いかける。
『何かしらは理解出来た、ということかね?』
「あ……すみません。えっと……この文字盤に地下一階を示す文言らしい物が見えたので、もしかしてと……おそらくここの……出た。ここから表示されているのはB1……地下一階A通路異常観測……という所です。それ以外は少し専門用語が混じっていたりエラー表示だったりとよくわからないのですが……」
『ふむ……文字盤にどこで異常を回復出来るかとかはあるかね』
「いえ、そこはおそらく」
『まぁ、そこまで優しくはないか』
下手をするとこの異常を引き起こしているのは、この遺跡の創造主達に害意ある存在かもしれないのだ。どこで異常の回復が出来るかなどをあからさまに表示しておくことが必ずしも良いわけではなかった。
「そう言えば一つ聞いても良いですか?」
『何かね?』
「この遺跡で書物などは見付かっていないんですか? そこに何かコントロールルームなどの記載があったりとか……」
『あれば地下がある事にびっくりなんてしていないさ。残念ながら、この施設には紙媒体の資料はなくてね。幾つか、おそらく情報保存のための物と思われる非常に微細な金属やら不思議な素材で出来た物体は見付かっているがね。どうにも情報が暗号化されているらしく、専用の魔導具がいるみたいでね。その暗号化も普通の暗号化じゃないようだ。中の情報を取り出す事は今の今まで一度も成功していないよ』
このぐらいのね。ロレインは人差し指ほどの大きさの小さな筒状の形を指で形作る。それは丁度パソコンで言う所のUSBメモリのような形状で、瞬が話を聞く限りでもそんな印象を受けるものだった。
「そうですか……ああ、ありがとうございます。ただ気になっただけですので……」
『そうか。とりあえずありがとう。ひとまず、この文明の者たちもきちんと道案内を遺してくれているという事はわかった。もしかしたら動力室などの記載があるのではと期待したんだが……なるほど。番号と記号で割り振っているという所なのかもしれない』
何が何を示しているかさえわかっていれば、別に固有名詞を使わなくても情報の伝達は可能なのだ。無論それもある程度前提となる情報の共有が出来ている事が前提になるが、一同のように何も情報の無い者たちが来る事は想定していないだろう。この施設を作った者たちには問題はなかった。というわけでひとまず情報が無いわけではない、と前向きに捉える事にして再び瞬は最前列まで戻る事になる。
「ああ、ありがとう……とりあえずこの通路が地下一階のA通路になる……という所か。後は部屋番号は……おそらくどこかには刻まれているのだろうが。安牌近い所から順番に1、2、3……となるのだろうね」
「おそらく。そしてもし記載があったとしても本来はあれらの文字盤なのではないかと」
「だろうね……ノワールくん。便宜的にそのように割り振ってマッピングに記載しておいて貰って良いか?」
『もうやってます。記載とかは統一しておいた方が良いでしょうから』
「流石だ……では引き続き任せるよ」
『はい』
今回のノワールであるが、部屋の調査を開始するまでは昇降機前に設営された簡易の拠点にて情報の集約と拠点防衛の切り札としての役割を担う事になっていた。
というわけで二つの部隊が得た情報は彼女に集められ、彼女が作っている地図に記載されるのであった。そうして、一同は文字盤の表示を気にしながら再び調査を進めていく事になるのだった。
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