第3182話 はるかな過去編 ――調査再開――
『方舟の地』。それはセレスティアの属するレジディア王国の王族達に縁のある超古代の文明が遺した天高く伸びる塔型の遺跡だ。
セレスティアのご先祖様にして過去世のカイトの幼馴染、後のレジディア王国国王となるレックス・レジディアからレジィディア王国への入国と同時にそんな超古代の遺跡に起きた異変を知らされる事になったカイト達に要請され、ソラ達もまたその調査に同行する。
というわけで『方舟の地』に赴いていた一同はそこで未来にも情報の無い地下階へと続く昇降機を発見。地下階の調査に赴くカイト達と共に地下階の調査に乗り出していた。
「ふむ、なるほど……影の人とはよく言ったものだ。これは確かに影で出来た人形と言うしかない」
「ええ……しかも中々に強い」
「そのようだ。ふぅむ……戦った所感、どんな感じだったかね」
「複数体と同時には戦いたくない……そんな所でしょうか。守勢ならば良いですが……攻勢ならば些かやりあいたくはない。マクダウェル卿やスカーレット卿ならば何十と攻めてこようと問題にはならないでしょうが」
ロレインの問いかけを受けて、彼女の要望で拠点の準備中に現れた新たな影の人とタイマンを張る事になっていた彼女の護衛の女騎士の一人が感じたままを告げる。
彼女らとしても護衛の任務にあたってこの未知の相手がどれほどの力を持ち、どのような手札を持っているかは身を以て知っておきたい所ではあったようだ。その要望に応ずる形で戦っていたのであった。
というわけでそんな女騎士はロレインを見ながら、もしこの相手と戦うならという想定で現状考えうる最善の策を口にする。
「もし何十と攻めてこられたのなら、おそらく我々が防いでいる間にロレイン様が横合いから倒していくのが安全かと」
「守るだけならば何十でも相手には出来るか」
「限度はありますが……少なくともこの通路を覆い尽くす量になったとて問題は無いでしょう。無論、それは現状わかっている手札だけでという話にはなりますが」
「そうだね。流石に不測の事態は想定に入れられないが……ふむ……」
どうしたものかね。ロレインは自身の周囲を浮かんでいた小さな球状の機械のような魔導具をまるでバスケットボールのように指先でくるくると回しながら、ひとまずの対策を考える。なお、この小さな球状の機械のような魔導具が彼女秘蔵の魔導具である『星の鼓動』だ。
「まぁ、守勢を保つ限りはこの子があればなんとかはなるか」
「かと。最悪『星の鼓動』で薙ぎ払えばある程度は殲滅も可能かと」
「だね。後はカイト。君らの救援を待つ事にしよう」
「そうして頂ければ」
下手に無理して倒そうとしたり背を向けて逃げたりされるより、ガッチリと守りを固めておいて貰った方が危険は無いのだ。その間にカイト達が駆けつけて敵を一網打尽にした方がよほど効率的かつ安全だった。
「良し……これでひとまずの方針は定まったが。考えるべきは今後の方針か……む」
「また来ましたね。これで最後……でしょうか」
「そうだね。そろそろ最後の便で不思議はない。となると乗っているのは……」
今回の状況において、一同が何より優先したのはこの昇降機の確保だ。というわけで昇降機の上下に簡易の拠点を設けて万が一でも封鎖されないようにしていた。
といってもこれは珍しい方法ではなく、カイト達のみならずセレスティア達の時代でも、未知のエリアが新たに見付かった際や到達している最上階の階層に臨む際には必ず取られる手法らしかった。というわけでおそらく最後となる輸送便に乗っていたのは、地上階側で陣地設営の指揮を担っていたレックスだった。
「おまたせしました。外の連中にも連絡を取って、増援を追加で出すように指示しています。その分若干外の守りが手薄になってしまいましたが……」
「仕方があるまい。さりとてこの階層の調査を疎かにするわけにもいかない……父君には?」
「連絡はつきました。近隣から部隊を回す事の承諾も得ています」
「それが良いだろうね」
「で、それが……」
「ああ。さっき話になっていた影の人だ」
レックスの問いかけに、ロレインは改めて先程交戦で氷に閉じ込めた影の人を見る。といってもこの影の人を延々と閉じ込めておくつもりはなく、レックス達が確認したらさっさと破壊して安全を確保するつもりだった。
「……これ以外には?」
「現状はこいつだけだ。が、おそらくこれ以外にも色々とはいるのだろうね。それとも、こいつがベースに何か色々と付け足されているのか」
「もしくは、この階層のどこかで異常が起きているか……ですか」
先にロレインも確認しているが、この階層のどこかではこの影の人のものではなさそうな物音が響いている。これがこの影の人と同じ別個体がそういったオプションを有しているかはまだわかっていないが、少なくとも自分達がまだわかっていない何かがある事だけは確実だった。
「そうだね……ああ、それと幸いな事にこいつらがいきなり後ろからひょっこりという事はこの直線ではなかった。またいつものように大量の増援というのもね」
「そいつは有り難いですが……」
「してこないか出来ないかは、聞かないでくれよ。それはこれから調べる事だ」
「あはは」
自身の表情から思考を読まれたか。レックスは楽しげに笑うロレインの指摘に笑うしかなかった。レジディア王国が建国されてから数百年。その間にこの『方舟の地』には何百という調査隊が派遣されている。その中でもレックスを主軸とした調査隊は今までで最高の成果を上げられているのであるが、この猟奇の情報は全くない。調べる事、考える事ばかりであった。というわけで笑った彼であるが、すぐに緩んだ表情を引き締める。
「もう一回待ってもらう事、出来ますか?」
「それは我々より君達側が待つ事が出来るか、という所だね」
「ありがとうございます。こちら側でも一戦交えてから、調査に入りたい所です」
「了解した。カイト、君も異論は?」
「ありません。我々はすでに二度交戦を経ている。フォローも可能です」
現在までレックス率いる<<赤の騎士団>>は地上階の簡易拠点の設営に携わっていたため、この影の人と実際に交戦した者は一人としていないのだ。今後に備え<<赤の騎士団>>側の四騎士にも交戦経験を積ませてこれからに備えようと考えていたのであった。
「良し……ああ、そうだ。サルファくん、ノワールくん」
「なんでしょう」
「はい?」
ロレインの声掛けを受けたサルファとノワールが小首を傾げる。そんな二人にロレインが問いかけた。
「即興になって申し訳ないが、簡易で良いから術式を組む事は出来るかね。より具体的に言うのなら無効化を無効化出来るフィールドを展開する魔術……という所だが」
「それ、大魔術に属しますよー」
簡単に言ってくれますねー。ロレインの問いかけにノワールが楽しげに笑いながら告げる。まぁ、楽しげに笑って言える時点で彼女にとってだから何なのだという程度にしかならないのだろう。そしてこの時点ですでに、方法も見えていた。
「出来なくはないですねー。サルファの支援があれば、ですけど」
「なるほど。僕が攻撃のタイミングで無効化を見抜いて、それを即座に術式へと反映。即興劇で無効化を編むわけか……巫山戯ているな」
「出来るでしょう?」
「それは君より僕のセリフだと思うがね……並の魔術師なら出来る芸当ではない」
なぜ自分より難しい事をする側に問わねばならないのだろうか。サルファは楽しげに笑うノワールの問いかけに対して笑いながらそう思う。そしてそんなぶっ飛んだ連中というのが、後の八英傑なのであった。
「というわけで出来ると思いますよ。ただあまり部隊は分けられなくなってしまいますが……」
「最大二つで良いさ。流石にこの未知の領域かつこれほど強い個体が出てくる場所で部隊を幾つも分けると、各個撃破の恐れがある」
「ですねー。お兄さんやレックスさん、グレイスさん達ぐらいならそれこそ一人になっても、そして相手が蟻塚並みに群れてきても問題は無いでしょうけど。流石に一般の兵士になると各個撃破されちゃいますね」
ロレインの指摘にノワールもまた同じ懸念を有していたようだ。というわけで一同はレックス達が再度現れるだろう影の人の出現を待つ間にも今後の方針を話し合う。そうして十数分。拠点設営の休憩を兼ねて待っていた一同であるが、ついに次の影の人が現れる。
「あれが、か」
「誰がやるんだ?」
「どっちでも……ん?」
カイトの問いかけにどっちでも良いと告げようとしたレックスであるが、姿を見せた影の人のすぐ後ろから更に新たな個体が出てくるのを見て僅かに眉をひそめる。そんな彼に、四騎士にしてお目付け役の騎士が小さく口を開く。
「……二体目ですね」
「……丁度よいか。一人一体で頼む。連携を取るか否か。何か別の行動が出てくるか……調べるには丁度よい」
こちらの実力としてはほぼ確実に勝てるだろう札を切っているのだ。手に入れられる情報は手に入れておきたかった。そうして<<赤の騎士団>>側の四騎士二人が影の人との初となる集団戦――というには小規模過ぎるが――に臨み、その情報を基にしながら地下階の調査がスタートするのだった。
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