第3178話 はるかな過去編 ――決断――
『方舟の地』。それはセレスティアの属するレジディア王家に所以のある超古代の遺跡だ。そんな遺跡に起きた異変を彼女の遠いご先祖様にして過去世のカイトの幼馴染の一人であるレックス・レジディアから聞かされたソラ達であったが、彼らは異変の解決への協力を要請されたカイト達に依頼されそれに同行。『方舟の地』に赴いていた。
というわけでカイト達と共に『方舟の地』に赴いた一同であるが、その調査の最中。未知の領域の発見と共に、他愛もない雑談の中から地球の情報をベースに何かに気付いたセレスティアが意識不明に陥る事となり、調査は一時中断となっていた。というわけで、明けて翌日。一同は新たに見付かった地下への調査に赴く事になっていた。
「ご迷惑をお掛けいたしました」
「大丈夫よ。流石に今回の一件は私も想定していなかったけれど……なにはともあれ治療するのが私の仕事だもの」
「ありがとうございます」
ヒメアの返答にセレスティアが深々と頭を下げる。彼女が倒れて一晩。どうやら流石は歴史上有数の防御系・治療系の魔術の使い手というだけの事はなかった。
夜半には自然とカイトの手を離しており――当人はほぼカイトと同衾状態だった事は知らない――目を覚ます頃には何事もなく、それどころかぐっすり安眠という塩梅であった。というわけで、そんな彼女が少し離れた所で腰掛けていたカイトにも頭を下げる。
「カイト様も申し訳ありませんでした」
「良いよ。オレも迂闊に聞いてしまったからな……まさかこうなるとは」
「申し訳ありません……私も迂闊でした。未来の情報は本来安易に開陳するべきではありませんでした」
「そうだな……オレも色々と話せていたから、そこまで注意しているわけではなかったが……」
どうやら今まで話している範囲はあくまでも問題がなかっただけで、やはり未来の知識については安易に話すべきではないのだろう。カイトもセレスティアも単に自分達が今まで幸運だったのだと再認識する。
「まぁ、とりあえず。今後は迂闊に未来の情報は聞かない事にしておくよ」
「そうして頂ければ」
「ああ……で、今日だが。行けそうか?」
「……」
ぐっぐっ。セレスティアは両手の指を握りしめ、自らの感覚を確認する。単に長い時間眠っていただけなので不調を来す事は無いはずだったが、今回ばかりはその原因が原因だ。何が起きているかわからない事もあり、確認は必須だった。
「大丈夫そうです……が、一応お付き合い頂けますか?」
「良し。そう言えるなら大丈夫そうだが。姫様」
「わかりました。許可しましょう……ただし、私も同席します」
見た所問題はなさそうだ。セレスティアの様子を見たヒメアはカイトの問いかけに許可を下す。というわけで三人は医務室を後にして、朝の鍛錬に臨む事にするのだった。
さてセレスティアが目覚め朝の鍛錬に臨み、として暫く。彼女の復帰の報告を受けたロレインとレックスは改めて調査の進行を決定。これについてはそもそも彼女の昏倒は調査とほぼほぼ関係の無い所であったことから当然の流れであったのだが、カイトが動けなくなったのが痛かった。というわけで彼が改めて動けるようになった事で二人は改めて今後の進行に関する話し合いを行っていた。
「さて……今日からは地下という事になるのだが」
「どうします? 上へのルートもそのまま使える様子ではありましたが」
「それだね……人員は限られている。元々の予定であれば、上の調査に赴きたい所ではあるのだが……」
そもそもの話であるが、ここにロレイン達が来るのは予定されていた話だ。そして予定では上層階の調査に赴くはずだったのだが、そこで地下への昇降機の発見だ。異変を解消する事がレジディア王国からの要請であること。状況から地下に異変解決の糸口がある可能性が高そうである事を考えれば、どうするべきかは悩みどころであった。というわけで悩ましげなロレインがため息を吐く。
「この状況下では上の調査はしておきたい所でもあるが」
「上の封鎖エリアの様子……ですね」
「ああ。上の閉鎖されて誰一人として入れていないエリア。そちらが開いている可能性は十分にあり得る。が、あちらにまで調査を伸ばそうとすると、今度は地下の調査にどれだけ時間と人員を取られるかが未知数である事がネックになってくる」
閉鎖されているエリアの広さはわかっているが、問題はそこにたどり着くまでに何度も守護者と交戦しなければならないことだ。
勿論、そこにたどり着くまでにも障害は幾つもある。知識や技術を要求される物もあるので必ずしも戦いだけではないのだが、そちらはそちらでこの状況下でどう変化を遂げているかわかったものではなかった。というわけで、ロレインが判断を下した。
「……上層階は諦めよう。おそらくこの状況下でしか地下階が見つからなかった事から、異変は地下にある可能性が高い。勿論、上層階にはそれらを統括するコントロールエリアがあるかもしれないが……どちらかしか選べないのであれば未知数な地下の方が可能性は高いだろう。後は、広くない事を願うだけだが」
どこまで広いかに応じては今回の調査は諦め、人員を更に増員して再調査するしかない。が、兎にも角にも少しでも情報が無い限りはその判断も出来ないのだ。そして幸いな事に今ここにはカイトとレックスというこの世界最強クラスの人員が整っている。戦力の面で手を出せないわけではなかった。
「そうですね……ひとまず地下を覗いてみて、場合によっては上層階の調査でも良いかと」
「そうしておこう……となると君と私は残った方が良い気はするが」
「戦力の分散はやめた方が良いでしょう」
「だろうね。いつもなら地上と上層階で通信も繋がるが……今回はどうなることやら、という所だ。一緒に行くべき、だろうね」
危険は承知であるが、カイトという最大戦力の片割れを出した限りは下手に各個撃破されても困る。そしてカイトが撃破されればレックスも同様に撃破される。そこにサルファ達の支援の有無なぞ大差はない。状況が未知数なればこそ、戦力を集中して事態に当たるべきだった。
というわけでこの中継地点を破棄して全員で地下へ向かう事になるのだが、流石に物理的に昇降機に全員が乗れるわけではない。なのでカイトが先陣を切る事になるわけであるが、そこに同行する面子にソラ達も含まれる事になる。
「というわけで地下へ向かうわけですが」
「存在しないはずの地下……ですか」
「ああ……はてさて何が待ち受けている事やら」
昨日たどり着いた地下への昇降機の前までやってきて、カイトは手を回し準備運動を行いながら今後の戦いに備えていた。というわけで人員と物資搬送の支度が行われるのを尻目に、ヒメアが告げる。
「カイト。ひとまずお姉様の指示どおり、入り口付近を確保。後続の面子が到着するまで確保しておいて」
「ああ……まぁ、入り口付近の確保もできそうになければ速攻で引き返すさ。死ぬつもりはないからな」
「よろしい」
そもそも昨日はああも泣き喚いたヒメアであるが、カイトの生還に対する強い意思は知っていた。未来に託すなぞというお題目で死にに行くつもりは一切なく、意地汚くも生きて帰るつもりはあるのだ。その上で無茶をするから泣かされているだけである。というわけでもし万が一危険であれば逃げ帰るつもりで、そこは彼女も信頼していた。そうして彼女の指示に頷いたカイトに、今度はレックスが告げる。
「カイト……通信機の増幅装置を昇降機に乗せておく。役に立つかはわからないが……だが」
「わかってる。役に立てば、いつもどおり降りたと同時に連絡を入れる。戦いが起きなければ、だが」
「ああ。また可能な限りサルファによる千里眼と同行するノワールの使い魔による遠隔からのサポートは行う。無理はすんなよ」
「あいよ」
天高く伸びるこの塔の地下に何があるかははるか先の未来でさえ誰も知らないのだ。何が起きても不思議はなく、警戒はし過ぎて困る事はなかった。というわけで諸々の防衛用の魔導具やらを一緒に載せて、カイト達の乗った昇降機は地下へと降りていくのだった。
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