第3173話 はるかな過去編 ――翻訳――
『方舟の地』と呼ばれるレジディア王家に縁のある超古代の遺跡。レジディア王国に入国と同時にその異変の発生を知らされたソラ達はセレスティアの祖先であるレックスの要請を受けカイト達と共におsの調査に乗り出す事になっていた。
というわけで『方舟の地』への潜入を果たした一同であったが、数度のゴーレムとの交戦を経て休憩地点として利用可能そうな大部屋へと到達していた。そうして大部屋の掃討をカイトとレックスの二人が。大部屋に現れる増援をソラ達が片付けた後。カイトとレックスの二人は大部屋中に散らばったゴーレムの残骸を端に寄せていた。
「良し……いっつも思うけど後片付けが必要無いってのは良いよな」
「あー……お前片付けは苦手だよな」
「そーなんだよ。滅多にやることもないしさ」
「だわな」
レックスは王族の中でも超エリート。それこそ次期王様である。身の回りのことはほぼ全て側仕えのメイドなり執事なりがしてくれるわけだ。というわけで、片付け一つしてもやる事はないのであった。
まぁ、そう言っても外に出ればそう言ってもいられない。なので出来ないわけではないのだが、滅多にしないので苦手なのであった。
「後は家事全般は苦手だな……なーんだか手際が良くならないんだよ」
「まぁ……飯は士気に関わるからなぁ……下手に作ってもらうのも困るんだよ」
「そうなんだよ。だから飯は上手くなりたいんだけど」
専属の料理人でも連れていけば良いのでは。そう思われるレックスの発言であるが、実際戦地で毒の混入などを考えると自分で自分の食べる物ぐらいは作れる方が良いのは間違った話ではない。が、先に言った通り集団行動になると立場的に作れず、あまり上達しないのであった。そんなこんなで掃除やら片付けやらをして、二人は荷物を持っている後方の面々を招き入れる。
「おわったぞー」
『こちらも掃討完了です。まぁ、雑多な冒険者よりは使えそうですね、彼らも』
「悪い腕じゃない。悪い腕じゃ……比較対象がオレ達になると末端の騎士レベルになっちまうだけで」
サルファの言葉にカイトは笑いながらソラ達の腕に言及する。実際、この世界でもソラ達はおやっさんと戦えるレベルの猛者だ。セレスティア達に至ってはそれを超えている。十分に腕利きと呼べるだけの上澄みなのだが、その上澄みの上澄みが近くに居過ぎるのが悪いのであった。とまぁ、そんな彼らと共にサルファ、ノワールとその護衛の使い魔達が大部屋へと各種の資材を運び込む。
「良し……じゃあ、設置開始しますねー」
「あーい。オレらはいつも通り周辺の警戒してるから、何かあったら声掛けてくれ」
「はい……まぁ、もう気になる所出てますけどね」
「あははは。そうだな」
ここに到着した時点でそうであったが、『方舟の地』は周辺が赤く輝いていたりと目に見える異変が起きている。というわけでこの大部屋でもまた目に見える異変が観測されたのであった。
というわけでノワールの使い魔が中継地点の確保に動き出す一方。カイト達はカイトとレックスを中心として二手に分かれて大部屋の調査に乗り出す事にする。
「さて……セレス。未来においてここに来たって言う事だったな。この部屋は未来と比べてどうだ?」
「……いえ、もう言うまでもないと思うのですが」
「あっははははは。ってことはやっぱり一緒か」
セレスティアの返答に、カイトは目の前に浮かぶ赤い何かの警告を見る。警告には何かが書かれている様子なのであるが、古代の言語になるからか二人共読めていなかった。翻訳の魔術も通用しないのか、二人には完全に不明な言語だった。と、そんな二人と同じく赤い警告を見た瞬もまたため息を吐いた。
「エラー……なんのエラーかまでは……書いてないか。流石にこれだと何もわからんな」
「「は?」」
「ど、どうした?」
「読めるのか?」
「いや……英語に翻訳されているが」
仰天した様子で問いかけるカイトに、瞬は少し困惑しながら頷いた。そしてどうやら、それは彼だけではなかったらしい。
「私にも……英語とやらはわかりませんが。私の言語で翻訳されていますね」
「えぇ!? ノ、ノワール!?」
『あー……やっぱりそうなりましたかー』
「わかってたのか!?」
どうやら自分達の仰天している声でノワールは何があったか察していたらしい。やはり、という塩梅であった。というわけで仰天したカイトに、ノワールがなぜ彼らだけこの古代文明の言語が翻訳されているかを説明した。
『多分、未来のお兄さんはこの古代文明の言語を解読する事に成功したんだと思います。その情報がエネフィアの翻訳機には登録されていて、という感じなのでしょう』
「なんでそんな事をわざわざ」
『いえ、多分お兄さんが意図したものではないと思います。お兄さん……未来のお兄さんはこの翻訳の魔術の改良を行ったと聞いています。地球とエネフィア……二つの文明が交流するために。そしてセレスティアさんいわく、お兄さんはこの時代の記憶を一部保有している、という事です。なのでその改良時にこの世界の言語も流れ込み、それに対応してしまったのではないか……そう思われます』
これは完全に推測に過ぎませんが。ノワールは未来のカイト当人がいないため、あくまでも推測でしかないと改めて明言する。が、そんな彼は信じられない様子だった。
「オレが?」
『ええ……いえ、もちろんお兄さんが解読に成功したのではなく、誰かが解読に成功した情報をお兄さんが教えてもらった可能性はあります。ありますが……』
「レジディア王家にも伝わっていない所を見るにおそらく皆様が解析し、意図的に伝えなかったのではないかと」
『ですね。おそらく何かしらの理由によりお兄さんか本当にごく少数……それこそ私達の間ぐらいしか情報を共有せず、その情報を意図的に後世に伝えなかったのではないか。そう判断出来ます。なのでその可能性を見抜いた時点で瞬さん達の翻訳機の情報を私達の翻訳機に同期させるのはやめました』
「へー……」
もしかしたらセレスティア達の時代の歴史に伝えられているように、誰もこの遺跡の最深部に到達していないというのは嘘なのかもしれない。ノワールはソラ達の翻訳のイヤリングにのみ残っていたセレスティア達の歴史と食い違う痕跡にそう判断したようだ。
「とはいえ……読めるのか。ならここではそれを参考にさせて貰った方が良いだろうな」
『そうですね。これはあくまで推測ではありましたが……推測が確証となった以上、うまく使う方が良いかと』
現状何が起きているかわからないし、更にはこの遺跡はカイト達の総合力を上回っている可能性が高いのだ。となると、多少のずるは必要とノワールは柔軟に判断していたのであった。というわけでその判断を受け入れたカイトもまた、今回はありがたく未来の自分の力を借りる事にする。
「よっしゃ……じゃ、とりあえず。さっきの話の続きだ。瞬。エラーと書かれている……だったな。他には何かあるか?」
「いや、それだけだ。より正確にはシステムエラー……か」
「システムエラー……」
『やはり何かの動きが不具合を起こしている……というわけですか。ひとまず侵入者などではないのでそれは有り難いですが……』
「そういえば痕跡はなかったんだったか」
『はい。僕の魔眼によれば、ここ一ヶ月以内にこの遺跡に入った者は一人もいないみたいです。魔力の残滓もなかったのでゴーレムの線も無いかと』
カイトの問いかけに、実は入ってからずっと自分達以外の魔力の痕跡はないか調べていたサルファが告げる。ここは王家の管理する遺跡なので常に出入りは見張られているが、如何せん貴族社会だ。そして王族とて一枚岩ではない。賄賂などで入ってしまう事は可能であった。
『一応ここ一ヶ月の調査は親父がやってるよ。多分誰も入ってないだろうけど……そろそろ結果が上がりそうだから、また外に出たタイミングででも王都に確認取ってみる』
『ありがとうございます』
「ってことは本当にタイミング悪く、って感じになりそうか」
ここまでの所、侵入者が現れて何か悪い事をした可能性は無いというのだ。となればやはり運悪くカイト達が来たタイミングでというのが一番可能性としては高いと判断するしかなかった。というわけでひとまず侵入者の線は無しと胸をなでおろす。
「ま、それなれそれでとりあえずロレイン様や姫様を呼ぶか。兎にも角にも最低限このエラーとやらを解消しない事にはなんにもならんしな」
『そうですね……はい。ひとまず通信機の増幅装置が整いました。これで外との連絡が可能です』
「良し……じゃあ、呼んでくれ」
『はい』
カイト達が先行していたのはあくまでも先行調査のためだ。なのでここまでの安全が確保出来たのなら、後は後続の面々を呼び寄せて人海戦術で調査を行っていくだけであった。というわけでカイト達は一休みしながら、後続の面々が来るのを待つ事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




