第3172話 はるかな過去編 ――大部屋前――
『方舟の地』。それは地球ともエネフィアとも異なる全く別のセレスティア達の世界において、セレスティアの属するレジディア王家に縁のある超古代文明の遺跡だった。
そんな遺跡に生じた異変の調査をセレスティアのはるか遠いご先祖様にして過去世のカイトの幼馴染兼唯一の好敵手であるレックス・レジディアから依頼されたソラ達であったが、彼らは同じく要請を受けたカイト達と共に『方舟の地』の中へ入るとゴーレム達より襲撃を受けながらもなんとか先へと進んでいた。
「うーん……」
「何か分かりそうか?」
「むーりですねー……前にも言ったと思うんですけど、『方舟の地』の内壁。一部に吸魔石を使ってると思うんですよ。敵対者の解析を防止するのと同時に、内壁の破壊を防ぐ目的です……しかもその上で意図的な流路を拵えて、この施設全体に魔力が流れるようにしている可能性が非常に高い。諸々の技術で今の文明上回ってます。吸魔石を利用された場合の解析魔術の開発は急いでいますけど……」
「難しい、か。特にこの遺跡の性質上」
「ですねー。これを専門の施設とかに持ち帰れれば、話は違ってくるんですけど……持ち出そうとした途端、何かしらの防衛システムが働いて回収されてしまいますから」
カイトの言葉にノワールは深い溜息を吐きながら首を振る。ここらは先に交戦した逆関節の脚部を持つゴーレム達と同じだ。この『方舟の地』から何かしらの遺物を持ち出そうとしても、外に出た途端に回収されてしまうらしい。さりとて素材を回収するために『方舟の地』を破壊するのも本末転倒だろう。何よりレジディア王家が許すはずもない。というわけで正攻法は難しいと判断したカイトはサルファを見る。
「そこら、なんとかできそうにはないのか?」
「できればとっくの昔にやってますって」
「だよな」
カイトの問いかけはあくまでも現状の再確認に過ぎない。先にも言っているが、この遺跡に彼らが来るのは一度目ではないのだ。試せる手は試していた。
「どーしたもんかね……ま、良いか。それはそれとして……おーい!」
「あー!?」
「外の様子どうだー!?」
「とりあえず大丈夫っぽいなー! ロレインさんからも今のところ大丈夫だ、って連絡来た!」
カイトの問いかけに、外のロレインらと通信を繋いでいたレックスが声を張り上げる。別に無駄にここで呑気に話しているわけではなく、単に交戦が終わったので外に何か異常が起きていないか確かめていたのであった。というわけでずっと声を張り上げるのも疲れたのか、レックスがこちらに歩いてくる。
「ふぅ……とりあえずさっき言った通り、外は問題ないって。ただまぁ、まだまだ遺跡としても様子見って所だろう……とかなんとか」
「だろうな……本番は第一階層最深部の守護者か」
今しがた一同が戦っていたのはあくまでも侵入者を迎撃するためのゴーレムだ。敢えて言えば露払いと言っても良い。というわけで次の階層に進むために階段を守るゴーレムを倒さねばならないのだが、これは先のゴーレム達とは段違いの性能を有していたようだ。
異変が起きた状態でそれを倒してどうなるか、というのは完全に未知数だったしロレイン達が警戒しているのは正しくそれだった。そしてその懸念を抱いているのはレックスも同じだったようだ。
「ああ……それまでの間にひとまずこの階層は全て踏破するべき……だろうな。この先の分岐点を確保できりゃ話は早いんだが」
「オレら揃ってるのにやれない事は無いだろ……問題はやれない事は無いってだけで何が待ち構えてるか未知数って感じなだけで」
「そこな」
人類最強、それこそ三つの世界を含めてさえ最強の二人が揃っているのだ。基本負ける事は無いはずなのであるが、相手が相手ゆえに油断して挑めるわけではない。
準備はしっかり整えているし、中継地点は設けて補給も休憩も取れるようにしていたのである。そして今カイト達が進んでいるのはそこまでの道のりの確保を目的としたものだった。というわけで、一同はそれから更に数度の交戦を経て中継地点と思しき所にたどり着く。
「……ソラ。何かあるか?」
「ぶっちゃけ、あの部屋のちょっと前ぐらいからバリバリセンサー張り巡らされてるっぽい」
今までの調査で今回の中継地点として選ばれていた大部屋にたどり着く直前の曲がり角。そこの影から大部屋を覗いていたソラであるが、大部屋の直前の通路に張り巡らされた赤外線センサーの数々に半笑いだった。そんな彼の表情に、カイトも嘘ではないと理解する。
「マジか……ってか、そのサークレットから出てる変なガラス板。それでも視れるのな」
「おう……そういう機能もある。まぁ、俺以外見れないから集団行動だとあっちの方が良いんだけどさ。あ、後一応言っておくとこれで視てるわけじゃなくて、サークレットのここに小さなカメラがあるからそれを介してる」
カイトの問いかけにソラは頭に取り付けたサークレットから片目を覆うように伸びるモニターを覗きながら笑う。そもそも彼の鎧はオーアらが作ったものだ。
スマホ型通信機に備わっている幾つかの機能は備わっており、赤外線や紫外線のセンサーも取り付けられていたのである。そしてその言葉にカイトも納得する。
「なるほど……ってな具合で。オレらが唐突に襲撃される理由の一つが判明したな」
『いや全く……なるほど。そりゃ俺らもこんな気配も無いし見えもしない、おまけに引っかかったからって何かが起きるわけでも……いや、敵来るけど。そんなトラップ見付けられるわけないわ。今までは突っ込んでたから入り口かと思ってたけど。入り口より前の段階からか』
「当然っちゃ当然だな。入られる前に察知できれば入り口に集中砲火で防げるんだし」
あくまでも侵入者がここに来たと知らしめているだけのセンサーだ。警報音が鳴る事もなかったし、引っかかった感触もない。どれだけ鋭敏な感覚を保有するカイトやレックスだろうと無理なのであった。そしてそうなれば次は認識出来ない罠をどうすれば良いのか、という疑問が出る事になる。
『そうだな……で、分かったは良いんだけど。どうやって罠を突破すりゃ良いんだ?』
「あ……えーっと……やってみないとって所は多いんですけど。入る前にも言いましたけどあくまで光は光なんで。光を通り抜けられれば問題無いと思いますよ」
『なるほど……技術的には後でノワールに頼む事にして。サルファ』
ある事がわかった上に対応がわかったのなら、後はそれを如何にして普及するかはノワールの役割だ。が、それには当然時間が掛かるわけで、瞬間的に対応するのは専らサルファの役割らしかった。というわけでレックスの要請を受けたサルファが一つ頷いた。
『わかりました。とりあえず光に当たらなければ良いんですね……レックスさんの方で良いですか?』
『良いよ』
「いや、オレが行くわ。オレが集めて裏からお前が連撃で数を減らした方が効率良い」
『なるほどな。確かに……じゃ、カイトの方で頼む』
『はい』
「え? お前一人で行くのか?」
「問題は無いからな」
仰天半分困惑半分のソラの問いかけにカイトは軽い調子で手を振りながらも、サルファの魔眼の力により完全に透明化する。どうやら光という概念、しかもソラ達から教えてもらった目に見えない光を含めて除外する事により、赤外線や紫外線さえ除外する事に成功したらしい。
存在さえ認識出来てしまえば後は意識するだけで詳しい理論を知らずとも対応出来るのは魔眼の明確な強みと言えただろう。というわけで足音さえさせずカイトは一人大部屋まで歩いていく。その一方。残されたソラの横にはレックスが移動してくる。
「カイトが出たと同時にこっちから攻撃を仕掛ける。ソラ達は多分来るだろう後ろからの敵を頼む」
「資材は……問題無いっすね」
「あははは。ノワールにせよサルファにせよ、お前ら以上だからな」
自分達の更に後ろに控えるサルファやノワール達を見て呆れたように笑うソラに、レックスもまた笑う。というわけで大部屋のゴーレム達はカイトとレックスの二人だけで片付け、背後から現れるだろう増援のゴーレムをソラ達で片付けるという流れで決定。一応ソラは念のため最後尾を守っていた瞬に視線を投げかける。
「大丈夫っすか?」
『問題はない……実質敵を討伐するだけのようなものだからな』
「それはそうっすね」
先にソラも認めているが、今回持ち込んでいる資材はサルファとノワール――そして彼女が率いる使い魔達――によって守られている。実力は言うまでもなくサルファ達の方が高いため、いっそ迫りくるゴーレムを食い止め、サルファやノワールが遠距離から数を減らしてくれる流れでも問題なかった。というわけでざっと流れの確認が終わるとほぼ同時。大部屋へと忍び込んでいたカイトが姿を露わにする。
「はぁ!」
カイトの大声と共に斬撃が放たれて、大部屋に居た何十ものゴーレムが一撃で消し飛んだ。そしてそれと同時に、レックスが目にも止まらぬ速さで大部屋へと突撃。カイトに気づき彼を包囲せんとしていたゴーレム達を背後から強襲する。
「相変わらず無茶苦茶だわ、あの人ら……」
「ソラ! こっちも来るぞ!」
「っと、うっす! 砲撃はこっちで防ぎます! 遠慮なく近接戦闘仕掛けてください!」
瞬の声掛けに、ソラはその場で盾に力を込める。やはり一発一発が無視出来る程度とはいえ、何十発も砲撃されてはたまったものではない。数度の交戦を経てソラが砲撃を防ぎ、その他の面々で近接戦闘を仕掛け倒す方が良いと決まったのであった。そうして、ソラ達は大部屋の相当をカイトとレックスの二人にまかせて後ろから迫りくる増援の対処に入るのだった。
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