第3171話 はるかな過去編 ――方舟の地――
『方舟の地』。それは地球ともエネフィアとも異なるセレスティア達の世界において、セレスティアの属するレジディア王家の者しか扉を開く事の出来ない古代の文明の遺跡だ。
そんな遺跡に起きた異変を調査するべくセレスティアのご先祖様にて過去世のカイトの幼馴染の一人であるレックス・レジディアの要請を受けたソラ達は過去世のカイト達とともに、『方舟の地』へと潜入。『方舟の地』を守るゴーレム達との戦闘となっていた。
「はぁ! っ! こいつら、ちょこまかと!」
「奇妙な形状だが、存外理にかなっているのかもしれん!」
斬撃を後ろに飛ぶ事で回避したゴーレムに対して苛立ちを露わにしたソラに対して、瞬が笑いながらそう告げる。一同が『方舟の地』で出会ったゴーレムであるが、一見するとその見た目は人型の特に変わり映えしないゴーレムだ。
が、その脚部の関節は人体の関節とは逆。くの字に折れ曲がるという俗に言う逆関節と呼ばれる形状になっていた。しかもそういう形状だからかそれともバランスを保つためか最初から若干折れ曲がっており、それがデフォルトであるものだからほぼ予兆もなく跳躍して回避されるのであった。
というわけでソラの攻撃を跳躍で回避したゴーレムはそのまま壁まで移動。壁に足を付けると、筒状の両椀をソラへと向ける。
「っ」
来る。ソラはゴーレムの両椀の先端に宿る赤い光を見て、最初に行われたレーザのような攻撃が放たれる事を直感的に理解する。そうして彼が攻撃の予兆を認識したと同時。案の定、若干白みがかった赤い光条が迸る。
「っと」
攻撃そのものは鈍足と言われるソラでも十分に避ける程度の速度。軽装備の瞬でも防げる程度の威力だ。というわけで彼は敢えて避ける事を選択せず、迸る赤い光条を受け止める。そうして僅かに生まれた閃光の中へとゴーレムが壁を蹴って跳躍。ソラとの距離を詰める。が、それこそがソラの狙いでもあった。
「はっ!」
このゴーレムの俊敏性はかなりのもので、攻撃の直後にカウンターを叩き込んでもかなりの高確率で回避される。ソラは敢えて誘い込んで、着地を潰すように攻撃を叩き込もうと考えたのであった。というわけで、閃光の中へと突っ込んだゴーレムは着地と同時にその頭部へとソラの刺突を受ける事になる。
「良し……っ!」
攻撃を叩き込めた確かな手応えに僅かに満足げな声をこぼしたソラであったが、どうやら倒し切るにはまだ足りていなかったようだ。
ゴーレムの両椀に宿っていた赤い魔刃がこちらへと伸びてくるのを見て僅かに目を見開く。が、これに彼は即座に左手の盾に宿した魔力を伸ばして振り払うと、そのまま盾を引く。
「おらよ!」
引いた盾の先端をゴーレムの胴体に押し当てると、ソラは慣れ親しんだ動きで魔力の杭をゴーレムの胴体へと叩き込む。そうして轟音とともに衝撃が迸り、ゴーレムの胴体が砕け散って壁まで吹き飛んでそのまま動かなくなる。
「ふぅ……」
『僅かに油断したな』
「うるせぇよ」
<<偉大なる太陽>>の茶化すような言葉に、ソラが恥ずかしげにそっぽを向く。どうやら彼も自覚はあったらしい。こういった古代のゴーレムと戦うのはかなり久しぶりだったので、コアや核を砕いても暫くは動く事をすっかり失念してしまっていたようだ。
と、そんな彼であったがその直後だ。鋭敏化した感覚が危険を察知し、身体が自動でそちらに向けて盾を振り抜かせる。
「なんだ!? はぁ!?」
「あぁ、来たみたいだな! この遺跡! 厄介な事に壁からも砲台が出てくるんだ! が……」
「どした!?」
「いや、えらく遅いんだ! いつもならゴーレム達と同時に出てくるはずなんだが……」
ソラの問いかけに、違和感を感じていたカイトが僅かに顔を顰める。ちなみに、こちらはゴーレムに避けさせる事さえさせず完全に一振りで数体まとめて撃破していた。おまけに壁からの砲撃に至っては特にダメージにもならないのか、完全に無視していた。そしてそれは彼のみならず、レックスも同様だった。
「やっぱ異常が関係してるんだろ! ノワール!」
「駄目ですね! ここからだと何もわかりません! やっぱりどこかにあると思われる制御室に行くしかないかと!」
「あいよ!」
どうやら『方舟の地』がいつもと違う事はカイト達には一目瞭然だったらしい。が、相手はノワールでさえ完全には及ばない超古代の文明だ。こんな通路から遺跡の状況を掌握する事は出来なかった。
というわけで、改めて異変が起きている事を認識した一同は先に進むべくまずはこの戦いを終わらせる事にする。そしてそれに並んで、ソラも改めて目の前の戦いに集中する事にした。
「ふぅ……」
これは割りと厄介かもしれない。ソラはシュッと小さな音が鳴るとともに壁のどこかが開いて現れる手のひら大の超小型の砲台を見てそう思う。この砲台であるが、どこが開くかは完全にランダムらしい。そういう亀裂があるわけではなく、開く瞬間に開く部分が僅かに光ってそこが蓋になるようだ。
(音もかなり小さい……事前察知はほぼ不可能。さっきはゴーレムと戦ってなかったから気付けたって所かな)
交戦中に様々な音の中であれだけ小さな音を聞き分けるのはかなり難しいだろう。ソラは出来なくはないが、生半可な腕では出来ないとも理解していた。と、いうわけで壁の砲台の厄介さを認識した彼の眼前へと再びゴーレムが迫りくる。
「そしてお前らも素早い!」
このゴーレムの基本的な移動であるが、逆関節を使って歩くわけではない。足の裏に取り付けられているらしい超小型の噴出孔――飛翔機ほどの飛行能力はないらしい――から魔力を放出してホバークラフトのように浮かんで移動していた。
交戦の際に踏ん張るためにのみ地面に接地し、更には噴出孔に魔力を溜めて先にソラの攻撃を避けたように即座の跳躍が出来るようにしていたのである。
というわけでほぼほぼ平行に移動してきたゴーレムの魔刃を<<偉大なる太陽>>で受け止めると、彼はカウンターとばかりに盾で殴りつける。が、これは先程同様に跳躍で回避される。
「っ」
どうせこうなる事はわかっていたさ。ソラは僅かにこみ上げる苛立ちを押し流して、跳躍した先で迸る赤い光条を盾で防ぐ。そうして生まれた赤い閃光の中へと、再度ゴーレムが突っ込んでくる。
「待ってた……はぁ!?」
『ほう……学習能力が備わっているようだな』
「ちっ、面倒クセェ!」
先程と同じく着地した瞬間に攻撃を叩き込もう。そう思ったらしいソラであるが、その攻撃に対してゴーレムは着地点を彼の攻撃範囲からズラしていたらしい。僅かに手前で空を切った斬撃にソラは苛立たしさを隠せなかった。そうして無事着地したゴーレムはぐっと関節を折りたたんで、ソラに向けて突撃する。
「くっ!」
がんっ、という大きなとともにのしかかるゴーレムの重さに、ソラは僅かに顔を顰める。そして彼が足を止めたと同時だ。カシュッという非常に小さな音が鳴り響く。
「っ」
やっぱ連携は取れるよな。ソラは自身の重量でこちらの足を止めたゴーレムと遺跡の砲撃システムが連携している事を実感として認識し、盛大に顔を顰める。これにソラが雄叫びを上げた。
「おぉおおおお!」
どんっ。そんな音と共にソラの総身から魔力が放たれ、ゴーレムを吹き飛ばして放たれた幾つもの砲撃がかき消える。そうして吹き飛んでいくゴーレムに向け、ソラは魔力の放出を利用して一気に肉薄。そのまま<<偉大なる太陽>>を突き立てて、そのまま切っ先から魔力の光条を放射。一息にゴーレムを飲み込んで消し飛ばす。
「……ふぅ」
『まだ終わっておらんぞ』
「わかってる」
カイトやレックスがいるおかげでかなり減ってはいるが、まだ何体ものゴーレムが動いていた。先に進むにはこの全てを倒し切らないとならないのだ。というわけで、ソラは改めて気を引き締めてゴーレムの討伐に臨むのだった。
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