第3167話 はるかな過去編 ――方舟の地――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、はるか数百年昔のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまっていたソラ達。そんな彼らは過去世のカイトと遭遇すると、彼を起点として大精霊達からこの世界での指針を受け取る事になっていた。
というわけでこの時代に存在していたという八人の英雄、通称八英傑にしてカイトの幼馴染達との会合を目指して動く事になった一同であったが、その最中。八英傑の一人にして一同が流れ着いたシンフォニア王国の隣国レジディア王国の王太子レックスの要請を受け、レジディア王族に縁のある『方舟の地』へと赴く事になっていた。そうして予定を変更してレックスの要請を受けて王都レジディアに赴く前に『方舟の地』へと向かう事になった一同は会議を終えて少しの休憩を挟み、改めて地竜やらに乗って移動を行っていた。
「『方舟の地』……か。方舟っていうぐらいだから、何か船があるのか?」
「おそらく、という所です。誰もわかっていないのです」
「わかっていない?」
「ええ……カイト様らが仰られていましたが、まだ最下層まで誰も到達出来ていないのです。無論カイト様達ですので、ありとあらゆる障害を破壊して突き進むという選択肢も取れたのでしょうが……」
「そ、それはまぁ……」
彼らなら出来ただろうな。瞬は自分達なぞ遥かに上回る戦闘力を有しているカイト達を思い、それはまた別の話と納得する。
「ええ。その選択肢を取らないわけですから、地道に遺跡を攻略していくしかない。かといってこちらの技術レベルを遥かに上回っており、武力だけでなんとか出来るものではないのです。もちろん、武力が求められないわけでもない。知力、武力……様々な物が求められる遺跡です」
「なるほど……さしものカイト達も武力ならまだしもそれ以外を求められると手の打ちようがなかった、というわけか」
「そういうことですね。カイト様達が最下層にたどり着けなかったのは、武力以外が求められてしまったが故です」
常日頃最強と言われるカイトであるが、それはあくまでも戦闘力に関しての話だ。確かに高度な教育を受けているので知力の面でも高いわけであるが、そもそもの問題としてその高度な教育とてかつての文明の義務教育レベルにさえ到達していたかと言われると定かではない。
この時代の最高水準がかつての文明の要求する水準に到達出来なければ太刀打ちできない、と言われてしまえばそれまでなのであった。というわけで、この話を聞いていたソラが確認と問いかける。
「んー……ってことはさっきの会議だとカイト達はセレス達が第5階層? までは到達出来てて不思議ない、って言ってたって事はその第5階層までで求められるのは戦闘力って事なのか?」
「そうですね。第5階層までで一番求められるものは戦闘力でした。もちろん、戦闘力以外にも求められるものは多かったですが……少なくとも私やイミナレベルの能力があれば突破は容易でした。ある時期に起きた問題により、それも難しくなってしまったのですが……」
「問題?」
「ええ……原因は推測という所ですが、第5階層で出るゲートキーパー……ああ、各階層にはゲートキーパーと呼ばれる守護者がいるのですが、それが課す課題……とでも言いましょうか。そういうものを突破せねばならないのです」
「その第5階層のゲートキーパーとやらが一気にレベルが跳ね上がっちまった、と」
「そういうことですね」
遺跡そのものの調査が進んでいないが故に、この原因は定かではない。セレスティアは改めてそう口にする。とはいえ、それは未来の話だった。というわけで、瞬は改めて問いかける。
「だが今は問題ない……のだろう?」
「ないはずだった、という事でしょう。これが我々の時代に繋がるトラブルの原因になるのかどうか、というのはわかりかねますが……」
「そうか。レックスさんが来たのも問題発生だから、だったな……」
どうやら今回の調査は一筋縄ではいかない可能性がありそうだ。瞬は改めて気を引き締める。というわけで遺跡調査に関しての鉄則などを思い出したりしながら『方舟の地』調査のための準備に勤しんでいた一同であるが、唐突に行軍が停止する事になる。
「ん?」
「なんっしょ……あれ? レックスさん?」
「っと! 悪い悪い。連絡が届いてないって聞いたから急いで来たんだ。冒険者集団にも軍にも属していないからな」
どうやら止まった理由は他の所では教えられていたらしいのだが、立ち位置の特殊性があり一同が乗り合わせていた竜車にまでは連絡が入っていなかったらしい。というわけで、レックスが手早く何があったかを教えてくれた。
「ほら。さっきの会議でカイトがシンフォニアに戻るって話していただろ? それの時間がそろそろだからな。ちょっと状況確認って所」
「あー……そう言えばもうそんな時間っすか」
会議やら色々な話し合いやらをしていたせいで気付かなかったが、言われて時計を見てみればカイトが指定した三時間が経過しつつあった。というわけで一度彼に状況を確認するべく行軍を停止したのだろう。というわけでそこらを考えたソラがレックスに問いかける。
「でも念話でそんな遠くまで届くもんなんっすね」
「ああ、違う違う。ヒメアの契約を介して話すってだけ。流石に念話であんな遠くまで……いや、俺達ならやれるかもだけど、流石にそんな疲れる事はしないさ」
「へー……」
シンフォニア王族が持つという騎士との契約。それを使う事で特殊なパスが成立するらしく、念話に似た会話も可能との事であった。というわけでその話を待つ間、レックスはする事もないのでこっちで待つ事にしたらしい。そんな彼にふと瞬が問いかける。
「レックスさん……そう言えばそういう力はレジディア王家には無いんですか?」
「ん? ああ、王族と騎士の契約か……いや、一応はあるよ。俺はしてないけど」
「してない?」
「あははは……カイトから聞いた? 俺があいつとつるむようになった理由」
「いえ……詳しくは。ただ幼馴染だとは聞いていますが」
「そーそー。俺ら八人は全員幼馴染。まぁ、王侯貴族だ。つるめる奴なんてそうはいないからな。なんだかんだ俺ら八人仲が良いってわけ……って、そりゃ良いんだよ」
そこらは話の本筋ではない。レックスは楽しげに笑いながら話していたが、すぐに気を取り直す。
「その頃の俺、まぁその時代の貴族達の例に漏れず騎士道物語にハマっててさ。流石に騎士は、という所だったんだけど英雄になるんだ、つってやんちゃばっかしてたんだ。で、騎士の叙任に関しては俺自身が英雄になる、つってやらなかったんだよ……いや、これまじやらなきゃならないんだけど、なんだかんだやる機会逃したっていうか……」
『え!? レックスさん、騎士の任命やる気あったんですか!?』
「あ! 聞いてやがったな!?」
どうやらいつものようにサルファはこの一団の周囲の状況をくまなく確認していたらしい。そこでレックスの話も視ており、驚いたような様子だった。というわけで彼のツッコミに照れくさそうに頬を染めながら、レックスはそういうわけと告げた。
「そういうわけで……本当なら専属騎士の任命はしないといけないんだけど、なんだかんだやってないってわけ。ま、俺だし。弱いやつを盾に出来るほど性根が腐ってるわけでもない。今思えば、なくても良かったのかもな」
「は、はぁ……」
それで良いのだろうかと思う瞬であるが、同時に彼ほどの戦闘力の持ち主だ。未来のカイト同様に護衛こそが足手まといになる事は理解は出来たようだ。と、そんな事を話しているとヒメアの側でも話が終わったらしい。
『レックス。カイトから返答。全部終わってるって』
「おう。じゃあ、頼む」
『ええ……来なさい!』
レックスの同意を得ると、ヒメアは右手に力を込めて自らの騎士を召喚する。そうしてそんな召喚を受け、ヒメアの正面にカイトが召喚される。
『ふぅ……はい、おまたせー』
「おーう。なんか異変とかあった?」
『いや、ついでに向こうでも聞いてみたけど、関連しそうな遺跡の異変は今のところ無いって。ただ陛下に報告したら、気になるから調査隊を派遣するって』
「そっか……わかった。じゃあ、暫くはこっちの異変調査に専念出来そうかな」
これはソラ達は知らなかった――セレスティア達は知っていたが――のだが、レジディア王国だけでなくシンフォニア王国にも『方舟の地』と同様超古代の文明は幾つか眠っていたらしい。その中で最大の物が『方舟の地』というわけなのであった。そしてその最大の地が異変を来している以上、他の所に影響が無いとは言い切れないだろう。
というわけでカイトと再合流した一同は再び『方舟の地』へ向けて出発。翌日には合流したレジディア王国の護衛隊に文官達を預け、速度を上げて進む事になるのだった。
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