第3165話 はるかな過去編 ――入国――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、はるか数百年昔のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまっていたソラ達。そんな彼らはこの時代に存在していた過去世のカイト達に要請され、レジディア王家と関わりの深い『方舟の地』と呼ばれる遺跡の調査に協力する事になっていた。
というわけで彼らと共に遺跡に向かう一団に加わる事になった一同はレジディア王国に向かう支度やこの時代のカイトの幼馴染にしてレジディア王国王太子レックスの結婚式をしながら、久方ぶりに遺跡調査の準備を進めていた。
そうして暫く。レックスの婚礼の儀への贈り物などを整えた一同はシンフォニア王国側が用意した竜車に荷物を乗せると、カイト率いる護衛部隊と合流。彼らが用意してくれていた地竜に乗って出発する。
「なんていうか、本当に軍なんだなー」
「そりゃそうだろう。オレら軍人なんだから……いや、騎士だから軍人って言うとそれはそれで軍部の連中が嫌がりそうなんだけど」
「あははは……」
自身の言葉を受けたカイトが少しの苦笑を浮かべるのを見て、ソラが笑う。彼の言う通りカイト達は騎士。一応軍人といえば軍人なのであるが、軍部に属するかというとそうではなく貴族という側面もある。
なので指揮系統としては王族直轄の近衛兵に近いため、軍と一緒にされるのを嫌がる者や一緒にするのを嫌う軍人もいるそうなのであった。とはいえ、そこらはカイトは気にしていないらしい。すぐにどうでも良さげに投げる。
「ま、んなもんどうでも良いか」
「良いのかよ」
「良いさ。オレはオレの道を進むだけだし……それはそれとして。そう言えば『方舟の地』って結局そっちの時代で最深部まで到達出来たのか?」
「まだですね……一応第5階層までは到達」
「は? 第5? 嘘だろ?」
セレスティアの返答を遮って、カイトが信じられないような顔を浮かべる。が、これにセレスティアは申し訳無さそうだった。
「申し訳ありません……如何せん第5階層の突破が不可能になってしまいましたので……」
「何があったんだ? 少なくともオレが見ている限りでも、セレス達の腕があれば第5階層の突破は出来て然るべきはずだ。出来る限りなら助言するが?」
「……」
常識的に考えればそうなのだ。セレスティアは自分達が楽々到達している階層にさえ到達出来ていない未来の子孫達の状況に納得が出来ないカイトにそう思う。しかし、これには言えない事情もあったらしい。彼女が申し訳無さそうに頭を下げた。
「申し訳ありません。有り難いお言葉ではあるのですが……こればかりは御身であれ如何とも出来ないかと」
「……わかった。だがもし何か疑問があるなら言ってくれ。可能な限り協力しよう」
「ありがとうございます」
どうやら自分達には言えない上、手助けも難しいと判断出来る事らしい。セレスティアの様子からカイトはそう読み取ったようだ。というわけで、彼はこの話題はこれでおしまい、と笑った。
「ま、今回は大船に乗ったつもりで居てくれ。オレがなんとか出来るだろうからな」
「はい」
そうさせて貰おう。セレスティアはカイトの言葉に眉間のシワを解いて頷く。というわけで少し真面目な話が終わった所で、今度はソラが問いかける。
「そう言えばここからレジディア王国の王都まで竜車で半月ぐらいなんだろ? まぁ、かなりゆっくり目って感じでもあったけど」
「かなりゆっくりだな。早馬とかならこの半分ぐらいで移動出来る。最速だと一日も可能だな」
「ホントの最速だとお前だろ」
「まぁな」
今回の旅路はロレインはともかくとして、その性質上どうしても非戦闘員も多く連れている。その彼らに無理をさせるわけもいかないため、かなりゆっくりのペースで進む事になっていた。というわけで、カイト達にはあり得ないほどに時間を掛けて行軍する事になっていたのである。
「あはは……ああ、それで。関所で一泊って聞いてるんだけど、関所での審査ってやっぱ時間掛かるのか? 一応身分証は持ってるけど」
「いや、流石に今回はそうはならんよ。そもそもロレイン様と姫様が一緒だしな。身分証明も出来る状態だし、もちろん関所には何時到着するとかも全部伝えてある。警備も万全にするように命じてもいるしな。が、如何せん道中の状況によっては何時到着出来るかもわからん。一泊しておくのが安全ってわけだ」
「あ、なるほど……」
毎度の事であるが、この世界もエネフィア同様に何時到着出来ると厳密な時間指定が出来るわけではない。魔物の影響から街道の状況等様々な要因によって一日二日程度のズレは折り込むべきで、先にソラが言っていた半月もそれを織り込んだ上での日程だ。なのでうまく進めばかなり短縮されるとの事であった。
「ま、道中の魔物については任せておけ。一秒も無駄にはせんよ」
「一秒かぁ……保てば良いよな、それ」
「あっははは。少し長かったかな?」
少しじゃなく長いだろうなぁ。ソラは笑うカイトにそう思う。なにせ今回の護衛はカイト率いる<<青の騎士団>>の精兵達だ。話に参加していないだけでグレイスもライムもいるし、なんだったら黒き森の一団の中にはサルファやノワールもいる。一秒保てば本当に良い方だった。
そうして一同はその後も色々な事を話しながら、和気あいあいとした雰囲気の中でレジディア王国を目指して進んでいくのだった。
さて一同がシンフォニア王国の王都を出発してからおよそ5日。道中のトラブルに目立ったものはなかったおかげで、予定より少し早めに関所にまで到着する事が出来ていた。
「「「……」」」
わかっていたけれども。ソラ達は厳戒態勢を敷かれながらも割れんばかりの喝采で出迎えられるカイトを見て思わず唖然となっていた。そもそもレックスがシンフォニア王国の王都に来るのでも同じ様な喝采を浴びるのだ。彼の唯一無二の親友にして唯一同格と言われるカイトであれば、何をか言わんやという所であった。というわけで関所を守るレジディア王国側の総監とカイトが笑いながら話をしていた。
「今回は、関所をお使い頂けましたな」
「あははは……いつも使わず申し訳ない。使えれば良いとは思うのですが」
「はははは。逆に卿がいちいち並ばれてはその度、関所の機能が停止する。今後とも、使わずにいてくだされ」
あははははは。カイトと関所の総隊長は楽しげに笑い合う。すでに言われているが、カイトは基本国境を顔パスで通過出来る。なので関所を使う必要が無いといえば無いのであるが、使う方が良い事に違いはない。
というわけで本来は不要不急でない限り関所を使うべきなのだろうが、彼が関所を使えば行く先々でご覧の有様だ。関所の機能が維持出来なくなってしまうので、どういうわけか逆に使わないでくれ、と頼み込まれているのであった。そうしてひとしきり笑いあった後。関所の総監が真面目な顔に戻る。
「ふぅ……それでは改めて。よくおいでくださいました。殿下が来たらすぐに報せてくれ、とご命令でしたが」
「やめておいた方が良いでしょうね。あいつは王子の癖にフットワークが軽すぎる。ここまで来かねない。いくらまだ婚礼の儀まで日があるとはいえ、です」
「ですな」
すでに色々な所から使者が来ている事だろう。『方舟の地』へ赴くという事でかなり早めに入国させて貰っていたシンフォニア王国、黒き森の一団であったが、それでも一番乗りではないらしい。
というのも、今回はレジディア王国が国を挙げて行っている。非常に多くの参列者が参加予定で、場所によっては非常に遠いので余裕をみてすでに到着していたりしていたのであった。
「とはいえ、報告せぬのも問題でしょう……」
「どうされました?」
「と言ってるそばから来てる奴がいるかよ……」
がっくり。関所の総監と話していたカイトであったが、どうやら彼らが考える程度の事はお見通しだったらしい。ひらひら、と遠くから自身に向けて手を振る真紅の髪の青年を見つけて盛大にため息を吐いていた。そしてこれに、関所の総監が目がこぼれ落ちんほどに驚いた。
「殿下!?」
「ああ。任務、ご苦労……まぁ、二人の懸念もわかる。実は私が来たのは決して勝手をしたわけでもなくてな……彼らはもう通しても?」
「む、無論問題ありませんが……休んで頂かなくて大丈夫ですか?」
「ん……それもそうか。カイト。確か予定だと今日は関所で一泊だったな?」
「ああ……審査は無いとはいえ、ここに何時つくかもわからなかったしな」
レックスの問いかけに、カイトは今日はこのままここで休む事にしていた事を明言する。ここらの予定に関してはレジディア王国側にも伝えている事だ。なのでレックスが知っていて不思議はなかった。
「例のあれ、使えるか?」
「そりゃ出来るが……何か急ぎか?」
「少しだけな……っていうか、でなけりゃ俺だって今このタイミングで来るかよ」
さしものレックスも今の自分を取り巻く現状は理解していたようだ。なので報告は貰っても来るつもりは半々だったらしい。半々なので時間があったら来るつもりだったらしいのだが、今回はその別口の用事で来るしかなかったとの事であった。
「だわな……だがどうやって今日来る事がわかったんだ? 予定より早かったと思うんだが」
「ベルの術式だよ。今いろいろと試してもらっているんだが、その中にお前やグレイス達の安否を確認する術式があったんだ。それが反応した、っていうことで俺に連絡があってな」
「なるほど……例のアレか」
「そういうこと。で、さっきお前らが話している間に駆けつけたってわけ」
こんな和気あいあいとした雰囲気であるが、実際には今は戦国乱世の時代だ。なので何時何があっても不思議ではなく、遠隔から重要人物の安否を確認する方法の開発が求められていた。
というわけでレジディア王国もその開発に乗り出しており、今回その試験を行っていた所で偶然カイト達が入国したため、レックスが慌てて駆けつけたというわけであった。
「そうか……ああ、そうだ。さっきの話だな。ロレイン様に」
『聞いているよ。レックスくん。久しぶりだ』
「ロレインさん。お久しぶりです……一度全員を集めて話し合いをしたいのですが」
『そして時間は限られる、と……わかった。許可しよう』
どうやらロレインはここで立ち止まって聞くより、道中で話しながら移動。そこで生じた歪みに関しては何か手があるらしいので、それを使う事で帳尻を合わす事にしたようだ。というわけで、その判断にレックスが頭を下げる。
「ありがとうございます……可能であればセレスちゃんとかにも参加して貰いたいのですが」
「わ、我々ですか?」
「ああ……少しでも情報が欲しいんだ」
「……わかりました」
何があったのかは定かではないが、未来の知識に近い部分の知識も必要とされるほどの事態らしい。セレスティアは普段ならあり得ないレックスの言葉に少しだけ考えた上でそう判断する。そうして一同は当初の予定とは異なりこのまま関所を素通りし、この日はそのままレジディア王国の王都への道のりを進む事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




