第3161話 はるかな過去編 ――要請――
『時空流異門』と呼ばれる現象に巻き込まれ、はるか数百年も昔のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまっていたソラ達。そんな彼らは大精霊達の指示により、この当時に存在していた過去世のカイトとその幼馴染にして後に八英傑と呼ばれる事になる英雄達との会合を目指して活動する事になっていた。
というわけで、そのきっかけの一端を作ってくれたカイトの幼馴染の一人にして同じく八英傑と呼ばれる者の一人である隣国レジディア王国の王太子レックスに招かれレジディア王国に行く事になった一同であったが、その少し前からはシンフォニア王国でもかなり大きなお祭りになっていた。
「なんっていうか……本当に人気高いんっすね。カイトもレックスさんも……」
「だな……話には聞いていたが……」
ちょっとした理由で王城に出向く事になったソラと瞬であったが、そんな二人が見るのは各所で大盤振る舞いが行われている大通りだ。その名目はもちろん、隣国でレックスが結婚するという事であった。
王太子とはいえ隣国だ。それの祝い事で隣国まで祝いの席が設けられるなぞあり得ない事態であった。レックスという青年がこの国でも人気がある事の証拠であった。というわけで驚きに包まれる二人に、同じく王城に招かれる事になっていたセレスティアが笑う。
「仕方がないですよ。七竜の同盟においてレックス様の人気は非常に高かった、との事ですから……」
「そんななのか」
「ええ……この戦乱が終わった後にはレックス様、カイト様のお二人の生誕日は生誕祭として祝日が設けられる事になります。それほど、とお考えください」
「「……」」
凄まじすぎないか、あの二人。ソラも瞬もセレスティアの言葉に頬を引き攣らせる。彼らが成し遂げたのはそれほどの大偉業だと認識されているという事なのだろう。とはいえ、それそのものに関してはソラ達も覚えがあった。
「そういや……エネフィアでもカイトの誕生日は祝日扱いになってたんしたっけ」
「ああ……そう言えばそうだったか。後数日、という所だったんだがなぁ……」
一応大精霊達によれば、ソラ達が戻されるのは彼らが消えた直後のタイミングだという。これは時間軸を移動する事もあるのでそうしなければならない、との事だった。
なので一同が戻った時にはカイトが驚いた様子があるだけになっているはずで、その移動に間違いがなければ未来のカイトの誕生日数日前になっているはずだった。それを思い出し、ソラがふと目を見開く。
「あ……結局あいつの誕生祝い、どうしたもんっすかね」
「そういえば……すっかり忘れていたな。いっそこっちで用立ててみるか?」
「……それ、面白そうっすね。持ち帰れれば、っすけど」
一応、二人も未来のカイトがこの世界の記憶を一部保有している事はセレスティアから聞いている。それなら持ち帰れるのであれば何かしらをカイトに持ち帰るのは良い考えでは、と思ったようだ。というわけでどこかいたずらっぽい顔を浮かべる瞬の提案にソラもまた似たような笑顔で応ずる。
そんな笑い話を繰り広げながら王城へと歩く事少し。すでに馴染みになりつつある王城の門番に通してもらい、三人は奥にある<<青の騎士団>>の管轄にやってくる。と、そこで待っていたのは意外な人物だった。
「ああ、三人とも。来てくれたか」
「ロレインさん?」
「久しぶりだね」
<<青の騎士団>>の建屋で待っていたのは、第一王女ロレインだ。そんな彼女と一緒にカイトやヒメアまで一緒だった。とはいえ、二人だけでなく一緒なのは四騎士達まで一緒だった。というわけである意味先のメハラ地方の反乱よりも異常事態と言える現状にソラが困惑を露わにする。
「はぁ……で、どうされたんですか? こんな揃いも揃って……」
「いや、私は単にこっちに来てたら君達が来るというから一緒に居ただけだがね」
「あ、そうなんっすか」
ロレインはアルヴァに代わってシンフォニア王国軍最高指揮官として動く事も少なくない。そして当たり前だが、<<青の騎士団>>とて完全な自由行動が許されるわけではない。
なのでアルヴァの懐刀とも言える<<青の騎士団>>に王国としての指示を下す事も少なくなく、それどころかどちらかといえば彼女が指示を出す方が多いらしかった。というわけでその一環で今回は彼女がこちらに来ていた、というわけなのだとソラは理解する。が、決して今回三人が呼ばれたのと別件というわけではなかった。
「まぁ、そう言ってもここに残っていたのは君らを呼んだ案件と関わりがないわけではなくてね……ここらはカイト。君から話した方が早いか」
「はい……それで三人を呼んだ理由なんだが、その前に一つ聞いておきたい。もうそっちはレジディア王国への行き方とか調べて確保したのか?」
「いや……でも特に困りそうにないから、長期で竜車を借りようと思ってるよ。それだったら慣れてるし」
元々冒険部では独自に地竜や飛竜を保持していて、飛空艇に頼らない長期の遠征が出来るようにもなっている。何より飛空艇の方だと積載量に限りがある上、着陸にもある程度の制約がある。竜による輸送の方が良い事も多いのだ。
「そうか……でもまだ確保はしていないんだな?」
「今相見積もり取ってる所」
「相変わらずだな」
「お前に鍛えられてるからな」
「そう言われるとなんとも言えないんだが……まぁ、良いか」
相変わらず堅実かつしっかりとした運営が出来ているな。そう称賛したカイトであるが、その手腕は全て未来の彼が教えたものだ。なのでそう言われると小っ恥ずかしい物がある彼であったのだが、気を取り直して三人に告げる。
「まずソラと瞬に一考して貰いたいのは、オレ達と一緒にレジディア王国に行かないか、っていう所だ」
「お前らと? いや、お前が行くのは当然というか、そう聞いてるけど……もしかしてロレインさんも?」
「私はシンフォニア王国の名代としてだね。流石に父上が王国を留守にするわけにもいかない。かといってヒメアにはヒメアの役割がある。だから私が、となったわけだ」
「そしてもちろん、私も向かいます。私達は幼馴染として、ですね」
今回の旅路、どうやらロレインとヒメアも同行するらしい。前者は同盟国である事を考えれば誰かしらは行かねばならないのは当然だろうし、後者も今回は八人が揃うらしい事を考えれば当然だろう。ちなみに、ヒメアの口調が丁寧なのはロレインの前だからだ。というわけでそちらの人員を話した所で、カイトが改めて口を開く。
「で、その上で言うと今回の旅にはグレイスとライムが同行。ルクスとクロードは残留……まぁ、騎士としても行くのは二百名。人員がかなり少数になっちまう」
「で、集められる手札は集めたい、ってわけか」
「そういうことだな」
いくら同盟国で理解があるとはいえ、他国だ。そこに騎士団が全員で押しかける事は出来ないのは当たり前の話だろう。かといってヒメアもロレインもいる以上、腕利きは集めていきたい。が、あまり集めすぎると今度は王都の防備が手薄になる。必然、何かしらの手を考えねばとなったのであった。
「そこらを考えた際、おやっさんとお前らは良いと判断された。どちらも裏切る可能性が低いからな」
「ああ、おやっさんも来るのか」
「お前らの推薦はおやっさんの推薦だ。おやっさんの推薦なら軍部も許可を出さざるを得ん」
ってことはおやっさんも今回の警備に関しては一枚噛んでいるって所かな。ソラはカイトの口ぶりからそう理解する。というわけで、元々行く方法などを現在探していた事もあり、ソラは一度瞬とセレスティアを視線で確認。二人が頷いたのを受けて、承諾する事にする。
「わかった。こっちとしても本当に渡りに船だから、受けるよ」
「そうか。助かった……それで次。こっちはセレスに用事だ……ロレイン様。ここからは」
「そうだね。ここからは私が話をしよう」
カイトの促しを受けて、ロレインが一つ頷く。そうして、今回呼ばれた話のもう一つの本題が話される事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




