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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3155話 はるかな過去編 ――虹降る谷――

 『時空流異門』と呼ばれる時と空間の異常現象に巻き込まれ、数百年前の過去の世界へとやって来ていたソラ達。そんな彼らは大精霊達の指示により、この時代に存在していた過去世のカイトとその仲間達を訪ねる事になっていた。

 というわけで、その一国にして一同が流れ着いたシンフォニア王国の隣国レジディア王国の王太子レックスの手助けによりレジディア王国への渡航に目処が立てられる事になった事により、一同はその返礼とその理由たるレックスの結婚式への祝いの品を作るための素材を手に入れるべく、『虹降る谷』と呼ばれる谷を進んでいた。


「っと!」


 『虹降る谷』を進んでいた一同であるが、『虹降る谷』を体感として四時間ほど進んだ頃の事だ。この日何度目かになる交戦に及んでいた。そしてこの時の敵は完全に氷で出来た上半身だけの巨大な化け物、という所であった。

 というわけで、そんな氷の魔物の口から放たれる吹雪にも似た伊吹をソラは盾一つで防ぎ切る。そうして冷気が遮断されたその裏で、瞬が問いかける。


「ソラ。問題は無いか?」

「うっす。氷も障壁の前で止まってるんで、問題ないですね」

「そうか……一瞬、障壁に穴を空けられるか?」

「了解っす。完全に覆われてからで良いですか?」

「ああ」


 吹雪が集中する事で生まれてくる巨大な氷塊を見ながら、瞬はソラがこれをある種の障壁のように利用するつもりなのだと理解する。そうして巨大な氷塊が二人を上回る巨大さになったと同時に、ソラが障壁を一部解除。それとタイミングを合わせて、瞬が地面を蹴った。


「おぉ!」


 ばりん。そんな大音を立てて氷塊が砕け散り、更に氷の巨人から吹き荒ぶ吹雪の中に瞬が突っ込む。そうして彼の周囲に雪が積もっていくわけであるが、それに対して彼は<<雷炎武(らいえんぶ)>>を応用して体温を上昇させ、瞬間的に遮断する。槍が敵にまで届けば良いのだ。この程度で十分と判断したのである。


「おぉおお! っ! くっ!」


 瞬間的な拮抗状態が生じるが、それに対して氷の魔物は更に吹雪の勢いを増す。これに瞬はわずかに顔を顰めるも、更に地面を強く蹴って一気に押し切る事を選択する。そうして吹雪の中を強引に突っ切って、彼が氷の魔物にまで肉薄。その顔面へと槍を振り下ろすようにして叩き付ける。


「はぁ!」


 がん。そんな大音が鳴り響いて氷の魔物の頭部が砕け散り、吹き荒んでいた吹雪が消失する。が、どうにもコアは頭部になかったらしい。しかも頭部そのものは飾りのようなものだったのか、半分以上砕けた頭部はそのままその腕が瞬めがけて振りかざされた。


「ちっ」


 やはりこの世界の魔物はエネフィアの魔物よりも強いな。瞬は振りかぶられた巨大な腕を余裕を持って回避しながら、一つ舌打ちする。彼が放った振り下ろしの一撃には魔力が乗っており、魔力の氷で出来た身体だろうともっと打ち砕けて不思議はなかったのだ。が、その原因は瞬も理解出来ていた。


(<<雷炎武(らいえんぶ)>>にせよ<<炎武(えんぶ)>>にせよ、体内の火属性の力を高める事で自身を強化する技法だ……やはり吹雪などの中を突っ切ると自身の強化倍率が低下してしまうのは難点だな)


 かつてカイトが解説しているが、<<炎武(えんぶ)>>は体内の火属性を増幅する事で自身の強化を成しているものだ。よってその火属性が奪われれば、どうしても強化倍率が下がってしまうのであった。これは原理的に仕方がない事であった。とまぁ、そんな事を考えつつもその場を飛び退いて回避した彼と入れ替わるように、巨大な氷の腕が通り過ぎた所へイミナが割り込む。


「ふぅ……はぁ!」


 だんっ。力強い踏み込みと共に、彼女がアッパーカットのようにして通り抜けた氷の腕を打ち据える。それは丁度肘のあたりに大きなひび割れを生じさせると、更にそこを狙い定めてイミナが拳打を叩き込む。


「はっ! セレスティア様!」

『はぁああああ!』


 イミナが片腕を砕いたと同時。上空から飛来したセレスティアは落下の勢いと自身の微々たる体重、更に今回の強襲で利用できると着用した大鎧の重さを加算した斬撃を放つ。

 それは彼女の降下を見て取った氷の魔物の片腕の防御さえ打ち砕き、そのまま瞬が打ち砕いた頭部の残骸へと直撃。全身を粉々に打ち砕いた。


「見えた!」


 粉々に打ち砕かれ舞い散る氷の欠片の中。青白いコアがわずかに輝くのを瞬は見る。というわけでそれが舞い散る氷の欠片を集め氷の魔物が再生するよりも前。瞬は今度は雷を纏って、引き寄せられていく氷に自らも混じって突撃した。


「はっ!」


 段々と体積を増していく氷塊ごと貫くようにして、瞬は思い切り炎を宿した槍を突き出す。それは青白いコアを包む氷塊を貫いて、中のコアを串刺しにした。


「はぁ!」


 手応えを感じると共に、瞬は気合を入れて槍に宿る炎の勢いを増す。そうして青白いコアは内側から炎に焼き尽くされ、消し飛んだ。


「……ふぅ」


 これで終わりだな。瞬は引き寄せられていた氷の欠片が力なく舞い散っていくのを見て、魔物の討伐を理解。肩から力を抜く。これで戦いは完了というわけであった。そして彼同様に魔物の討伐完了を見て、一同もまた肩の力を抜いた。


「なんとかっすね。割りと手強かった」

「ああ……カイトは……」

「ん?」


 今回、この巨大な上半身だけの氷の魔物三体と遭遇。内二体をカイトが一人で受け持っていたのであるが、やはり流石は人類最強を謳われるカイトという所だろう。

 自分達の討伐完了を見てそちらに視線を向けた瞬であったが、そちらにはこちらを楽しげに水筒片手に観察していたカイトの姿があるだけだった。もちろん、氷の魔物は跡形もなかった。


「はぁ……こっちが一体片付ける間にそっちは二体か。わかってはいたが、相変わらずの圧倒っぷりだな。この言葉が正しいかはわからんが」

「この程度で苦戦しちゃいられないんでな……ま、とりあえずお疲れ様」


 呆れ半分の瞬の言葉に笑うカイトであったが、ひとまずは一同の労をねぎらう。そうして周囲の安全が確保された事で一同は更に進んでいくわけであるが、丁度夕刻に差し掛かった頃には周囲一面が銀世界であった。


「はぁ……流石にここまでになると、吐く息が真っ白だな……」

「流石にここらにまで来ると北の帝国の冬並の寒さになっちまうからな……っと、そろそろ夜を明かせる場所を見つけないと厳しいな」


 瞬の言葉に自身も息を大きく吐いてみて同意するカイトであったが、それに伴って空を見上げた結果時間が野営地を設営するには丁度良い頃合いだと気付いたらしい。彼は周囲を見渡して良い場所は無いかを確認する。


「……ああ、あそこなら良さそうだ」

「あれは……白い木?」

「あれが『水晶の木』だ。流石にまだ中央には少し遠いから、『虹の枝』が出来るほどではないが」

「あれが……」


 確かに水晶と言われれば純度の低い水晶で出来た木のようにも見える。瞬は若干光沢を帯びた表面を持つ純白の木を見てそう思う。その一方、そんな木を見てソラがそう言えばと思い出した。


「『結晶樹(けっしょうじゅ)』みたいだな……」

「『結晶樹』?」

「ああ。エルフ達の国の最奥にある、数万年の寿命を持つっていう木。でも『結晶樹』のような透き通るような感じは無い……かな」


 あそこで見た『結晶樹』はもっと透き通っていたし、得も言われぬ神気のような物を感じた。ソラは自身が見たままを口にする。それにカイトもなるほどと納得する。


「なるほどな……確かに聞く感じ『水晶の木』と似た様子だが……もっと奥に行けばお前もわかると思うが、この木はもっと沢山集まった所で神気は感じられない。とはいえ、何百年も昔からあるという事だから似てはいるんだろう」

「そんな昔からあるのか?」

「あるらしい……少なくともマクダウェル家やら四騎士の家が興った時にはすでにこの『虹降る谷』で訓練した記録が残っているからな」


 それ以上昔になると王国の歴史にもほとんど残っていないからいまいちわからないけどな。ソラの問いかけにカイトはそう告げる。というわけで一同はぽつんと生えていた『水晶の木』の下まで移動して、そこで今日の夜を明かす準備を行ってこの日の活動を終える事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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