第3149話 はるかな過去編 ――ベルナデット――
『時空流異門』と呼ばれる異なる時空間に飛ばされてしまうという異常現象に巻き込まれ、現代のエネフィアから数百年も昔のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは幸いな事に、この時代に存在していたという過去世のカイトと会合を果たす事になっていた。
というわけでそんな彼との会合を経て冒険者としての活動を開始させたソラ達であったが、活動開始から数ヶ月。カイトの幼馴染にして唯一彼が同格と認める英雄にしてセレスティアの祖先であるレックスの結婚式に末席ではあったが招かれる事になっていた。というわけで招かれた以上、というか流石に招かれてその相手の事を知らないのはどうか、という事になり子孫であるセレスティアからレックスについて改めて聞く事になっていた。
「なぁ、そう言えばレックスさんと……その結婚するベルさん? ってどんな人なんだ? 俺ら時々レックスさんが来るぐらいしか知らないんだけど」
「どう……ですか。どう、と言われましても……」
「知らないのか?」
「いえ、そんな事はありません」
僅かに驚いた様子のソラの問いかけに、セレスティアは大慌てで首を振る。イミナもそうであるように、祖先であるレックスの事はかなり詳しく教え込まされていた。特にセレスティアはカイトに対応した巫女であった事もあり、レックスについてはレックスに対応する巫女同様に教え込まされていた。
「レックス様……レックス・レジディア様。私の祖先にして、レジディア王国第一期において最高の王様とされている方です。それは軍事だけでなく、政治学にも多大な功績を残したと言われております」
「政治学、ってことは政治にも明るかったのか」
「ええ。この第一統一王朝の崩壊から続く復興期において、彼の手腕がなければ復興は更に五十年を要しただろうと言われるほどの手腕を発揮されました。その分野は多岐にわたり、食糧事情の改善や他大陸との交易など……無論この影には後の八英傑の皆様の活躍がありましたが」
元々カイトは持っていないと言われている政治的な視点であるが、この時代でもレックスは持っているとは言われていたのだ。というわけでセレスティアの言葉は誰もがほとんど疑わずに受け入れられる。そうしてそれを見て、彼女は更に続ける。
「後の世において、第二統一王朝が発足するにあたりレジディア王国が基礎となったのもそれ故という所が大きいですね」
「シンフォニア王国は基礎になっていないのか?」
「基礎にはなりましたが……我々の時代では一歩遅れを取っている、と言う所です。シンフォニア王国は一度内乱によりかなり荒れてしまった事も大きいですので……無論、その後はカイト様指導により復興はしておりますが、若干レジディア王国に比べ国力が衰えてしまっていたそうです」
ここらはどうしてもセレスティアにとって過去の歴史になっているからだろう。あくまでも伝聞という形でしか彼女も把握していなかったようだ。とはいえ、こういった国力に関する話はどうでも良いのだ。というわけで彼女は話を切り替える。
「まぁ、そこらは良いでしょう。兎にも角にもレックス様は政治などにも明るい方で、同時に武芸者としてもカイト様に並ぶ猛者と言われております。それでその妻となられるベルナデット様はこの時代にあった統一王朝の第二王女であらせられます」
「第二? ってことはお姉さんが居たって事なのか?」
「ええ……二男二女だったそうです。ただ……王太子であらせられたお兄君は統一王朝崩壊の折り、魔族達の侵略により父王と共に死亡。残る二人についてはほぼ我々の時代に情報は残っていません。が、ベルナデット様が七竜の同盟による統一王朝の継承の正当性となっていた以上、この戦乱の中でお亡くなりになられているというのが一般的な見方です」
やはり王太子と後に大陸で最高の英雄と言われる男の妻となったベルナデットについては情報が詳しく残っていたらしい。が、それ以外の二人についてはこの戦乱でどうなったかほぼ語られる事がなかったらしく、そこから死んでいたのだろうと言われているとの事であった。というわけでベルナデット以外の消息を語ったセレスティアであるが、そのままベルナデットについてを語る。
「それでベルナデット様ですが、元々は統一王朝の首都とも言えるセントラルにあった神殿の神官をされていたそうです。これについては神官をされていた、とも政争から離され神殿に預けられていたとも言われておりますが……」
「とりあえずは神殿に預けられていた、と」
「はい。そこで様々な魔術……特に儀式を用いた大魔術について非凡な才能を見出されたそうです。特に長けていたのは他者の強化。それも地脈などを用いた強化ですね」
地脈を用いた強化というのがどういうものかはわからないが、おそらくこの強化というのも自分達が想像する規模とは桁違いなのだろうな。一同はセレスティアの語るベルナデットの魔術をそう理解する。
「ですので多くの大将軍級との戦いにおいては彼女もサポートに出ていたとの事です。カイト様からの話を聞くに、先の一件では出ていなかったご様子ですが……」
「出たら違っていたのか?」
「おそらくは。少なくともヒメア様かベルナデット様のどちらかがいらっしゃれば、圧勝とまでは行かずとも先の反乱は起こせぬ程度に収められたのではと思われます」
どうやらほぼ実力が伯仲しているという大将軍級の魔族達とカイト達が戦ってほぼ確実な勝利を得られるように出来るぐらいには、ベルナデットの魔術というものはすごいらしいかった。というわけでそこらを理解して、ソラが口を開いた。
「そしてそうなると必然、あんまりレジディア王国は外に出したがらない、と」
「それに何より彼女こそがこの大陸において覇者となる際の正当性を有する唯一に近い存在でもありますので……」
本当に今回レックスさんが気を回してくれなかったらいつ会う事が出来たんだろうな。一同はレックスの配慮に本当に頭を下げるしかなかった。と、そこらを考えていた一同だったが、そこでふと瞬が口を開く。
「……そうだ。そう言えば一応参列させてもらっているんだから、なにか贈り物かなにかを送った方が良いんだろうか」
「「「……あ」」」
今回、一同はレックスが気を回してくれたとはいえ正式な参列者として招待されているのだ。そうなるとなにかご祝儀のようなものを渡すべきなのだろうか。瞬はそう考えたようだ。
そしてそんな彼の指摘で、一同もどうなのだろうかと思ったらしい。というわけでセレスティアに再度視線が集まるのであるが、これには彼女も困り顔だった。
「ど、どうなのでしょう……一応、私達の時代にはご祝儀のようなものはありましたが……今回のような事例でどうするべきかは流石に……」
「……一回、調べた方が良いか。ソラ。渡航の調査とかは任せて良いか?」
「なにかあてでもあるんです?」
「いや、確かおやっさんも招待されているという事だっただろう? ならおやっさんに聞いてみるのが一番良いか、とな」
確かに立場としては今の瞬達はおやっさんと同じ冒険者だ。なのでこういう場合にどうするのが良いか、というのは立場もあって彼が一番知っていそうではあっただろう。
「あー……たしかにそれはそうっすね。まだ時間としちゃ暫くありますけど……必要なら今から用意を整えないと行けないでしょうし……」
「だろう。丁度次の依頼をどうするか、とかで支部には向かうつもりだったからな。一度聞いておこう」
「頼んで良いっすか?」
「ああ」
ソラの問いかけに瞬が一つ頷く。そうして一同はレジディア王国への渡航に向けた準備と共に、結婚式のご祝儀などについての調査も行う事になるのだった。
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