第3147話 はるかな過去編 ――引き渡し――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、数百年前のセレスティア達の世界へとやって来ていたソラ達。そんな彼らは過去世のカイトとの会合を経て、この世界での冒険者としての活動を開始させる。
そうしてカイトの負傷をきっかけとするメハラ地方での豪族達の反乱。拠点改修を行うための資金調達などに奔走していた彼らであったが、その甲斐あって改修された拠点の引き渡しを受けていた。
「よぉ、お前ら! 色々とあったみてぇだな!」
「あははは……」
拠点の改修を取り仕切ってくれていたオリクトというドワーフの言葉に、ソラが困ったように笑う。この二ヶ月。色々とあったと言われれば本当に色々とありすぎた。笑うしかなかった。
「で、グイオンの奴、今日はギルドの方で説明やるって話は聞いてるか?」
「はい。昨日丁度支部に行ったらグイオンさんに会って、例の部屋以外にはもう荷物を運び込んでおいて大丈夫と聞いてます」
「おう……さて。例の部屋に関しちゃ奴から詳しい使い方は聞いてくれ。流石に魔導具の調整やらは奴が行った仕事だ」
ついてこい。オリクトは自分達の仕事以外の仕事についてはグイオンに、と告げるとそのまま一同に向けて背を向ける。そうしてソラは出来上がったばかりの家に入る事にした。
「まずお前さんらの要望通り、家には土足厳禁って事で土間を用意した。靴の類はその横に入れられるようにしてある」
「おー……あー……」
落ち着く。ソラは久方ぶりに靴を脱いで家に上がれるからか、少しだけ嬉しそうだった。土足厳禁にしたのは魔物の返り血などが靴裏などに付着し、後始末が面倒になるのを防ぐ意味が強い。特に今は掃除をしてくれる付喪神達も居ないのだ。なるべく手間を減らそう、というわけであった。と、そんなソラにオリクトは自身も靴を脱いで、拠点へ上がる。
「ははは……で、基本的な間取りは変わってないから使い方そのものに関しちゃ変わってないはずだ。ああ、廊下は滑りやすいから気を付けろ。で、えーっと……ああ、トイレか。それについちゃお前さんらの考案通り、ウォシュレットトイレ? とやらになってるはずだ。あと洗面台も自動で水が出る奴……あれ、すごいな。俺らも今後家を建てる時はあれにするわ。グイオンの奴に頼むのは嫌っちゃ嫌だが……便利だわ」
「あははは。ご自由に」
エルフに頼むのは些か癪に触るというドワーフ特有の心情は見えていたが、それを抜きにしてもかざすだけで手洗いが出来る洗面台とウォシュレットトイレの二つは非常に良いものだったらしい。
なお、この結果完成の祝いに来たカイトがウォシュレットトイレの便利さを理解してシンフォニア王国全土に広まり、最終的にはこの大陸全土で採用される事になるのはまた別の話である。
「っと、それはそれとして……トイレに関しちゃお前さんらの要望通り上と下の両方に一個ずつ。シャワー室が上に一つと下に風呂場付きで一つ。外にも簡易の物を一つ。要望通り、外のは返り血の処理に問題にならねぇ仕組みにしてる。ああ、それと説明を忘れてたが、外に蛇口も用意してるからそっちで防具のも流せる」
「ありがとうございます」
やはり魔物の討伐などをしていると一番困るのは返り血を浴びてしまった際だ。街の出入りはこういった世界なので門番の兵士達に事情を告げると通してもらえるのだが、その後始末が大変なのであった。というわけで今回の改修に際して、外で流せるように簡易のシャワー室のような物を作ってもらったのであった。
「おう……で、リビングなんかについちゃ変わってねぇ。水回りの使い方に関しちゃグイオンの奴に聞いてくれ」
基本的にオリクト達ドワーフが携わったのは魔導具の絡まない部分や魔導具が絡んでも簡単な部分だ。というわけでこの日一日、一同は基本的な間取りの変更点などを聞いてその後は業者による荷物の運び込みを指示。その後は更に一日掛けて荷ほどきを行う事になるのだった。
さて明けて翌日。この日は朝からグイオンが携わった各種の魔導具の話を聞く事になっていた。というわけで、一同はリビングに集まっていた。
「さて……それで例の部屋に続く場所は言った通り塞いでいないな」
「大丈夫です」
「良し……では付いてこい。まずこの食器棚の側面のここにコンソールがある。そこを開いて……こうだ」
グイオンはそう言うと、備え付けの食器棚の側面に隠されていたカバーを開けて中のコンソールを叩く。すると食器棚の下側が小さな音を立てて移動。そのまま半分に分かれて左右に開いて、食器棚の下に隠れていた秘密の階段が顔を覗かせる。というわけで、秘密の階段を降りて一同は今回新造された地下室へと移動する。
「これが要望のあった地下の監視室……とでも言おうか。ここからこの拠点の各所の監視が出来るようになっている」
地下室にあったのは、この拠点の各所に密かに設けられた監視カメラの映像を確認するための幾つものモニターだ。といってもこの監視カメラは敵の襲撃に備えるためのものなので、別に自分達を監視するためのものではなく、一部リビングやダイニングを除いた室内は除外されていた。
「でだ……この監視カメラには暗視カメラ機能と反射? を利用したセンサー機能なども備わっている。完全に暗闇状態での使用も可能だ」
「操作はどこで?」
「操作はそこの中央にあるコンソールだ……使い方は後で詳しく説明しよう。今はまず新しく作られた部屋の説明をしてしまおう」
グイオンはそう言うと、入ってすぐの監視室から続く更に先の部屋へと入っていく。そうして続く部屋は、監視室より少しだけ大きくリビングほどの広さがあった。
「ここが作戦会議室だ。ここからも監視室から見れる映像と同じ物が見れるようになっている。ただし、ここにはスペースの関係でモニターは一つだからコンソールで切り替えてくれ」
グイオンは少しだけため息を吐きながら、次の部屋に続く扉を開く。そうして入った中には、何もなかった。
「ここが魔導具専用の倉庫……要望通り、部屋全体に簡易の結界を展開して魔導具を封じておけるようにしてある。一応概念で封じられるようにしてあるが……何かトラブルがあったら都まで来てくれ。調整は行おう」
どうしても魔導具には相性がある。その相性のせいでうまく封印が出来ない事は極稀にだが起き得る事らしく、その後のフォローをするのは職人の仕事だった。というわけで今は何も無い倉庫を見ながら、瞬が呟いた。
「ふむ……これで今後古代の魔導具やらを手に入れても保存しておけるな」
「そうっすね……あ、古代の魔導具とかも大丈夫ですよね」
「概ねは問題無いはずだ。ただし古代も超古代かつ未知の性能の物になると保証はしかねる。さっき言った通り、その場合には然るべき魔術師に個別の封印を依頼するか私に連絡を取ってくれ」
ソラの問いかけに対して、グイオンは改めて個々の魔導具の相性についてを口にする。そうして一同はそれからしばらくの間。新たに作られた拠点に備え付けられた各種の防御機能についての説明を受ける事になるのだった。




