第3146話 はるかな過去編 ――招待――
『時空流異門』と呼ばれる時と空間の異常現象に巻き込まれ、はるか過去のセレスティア達の世界へとやって来ていたソラ達。そんな彼らはこの時代に存在していた過去世のカイトの縁から、現地政府の一つであるシンフォニア王国の支援を受けながら冒険者としての活動を重ねていた。
そんな中でカイトの負傷をきっかけとして発覚した貴族達の暗躍やそれに共謀するある地方の豪族達の反乱の鎮圧を行う事になったわけであったが、それも終わり今はシンフォニア王国の王都へと戻ってきていた。
というわけで、王都に戻ってきて半月ほど。今回のメハラ地方の反乱鎮圧の一件で支払われた報酬を見て、ソラが僅かに笑みをこぼす。
「おー……」
「すごかったのか?」
「いや、すごいっすね。ホームの改修費用の残額を支払っても全然余るぐらいっす」
流石に反乱の鎮圧で主力の一角として働いただけの事はある、という事なのだろう。今回シンフォニア王国から支払われた報酬は並の冒険者であれば一年は暮らせるだけの額だったそうで、ホームの改修費用を賄うには十分過ぎた。というわけで、それを聞いた瞬がそれならと口にする。
「ならもう迷宮に潜らないでも良さそうか」
「大丈夫っすね。ついでにいうと、しばらく旅に出ても大丈夫っぽいって所で」
「まぁ、どうにせよ出れないがな」
「そっすねー」
瞬の言葉にソラはホームから持ち込んだカレンダーを見る。今日から数日後には改修の終わった拠点の引き渡しの予定が書かれていた。というわけで下手にドタバタとしたくない事もあったし、そろそろこの仮拠点の片付けもせねばならない頃合いだ。大きな依頼は受けないように注意していたのであった。
そしてそういうわけなので、今日は二人も片付けに奔走したり預けていた大きな荷物の引き渡しについて専門の預かり業者に相談しに行ったり、とする予定で朝からのんびり出来ていた。というわけで朝からのんびりとしていた一同であるが、そこでセレスティアが驚きを浮かべる。
「これは……」
「「ん?」」
「ああ、ごめんなさい……この記事をリアルタイムで見れるなんて、と」
「「記事?」」
なにか有名な出来事が書かれた記事がちょうど乗っている新聞だったらしい。二人は優雅に新聞を読んでいたセレスティアの言葉に小首をかしげる。
「はい……レックス様のご結婚に関して詳しく書かれた記事です。私達の時代ではこの記事がギルドの書庫に残っていた事で、この時代について詳しく知る事が出来たのです」
「へー……あ、そっか。レックスさんってご先祖様だっけ」
「そうですね」
それでどこか感慨深い様子もあったのか。ソラはセレスティアの様子からそうも思う。と、そんなこんなを話していると、だ。先日同様に来客があった。といっても、仮拠点に来る人物なぞ限られる。言うまでもなくカイトであった。そんな彼は先日とは異なり全員揃っている事に目を丸くする。
「おーう……って、今日は全員揃ってるのか」
「おう。そろそろ拠点の引き渡しになるから、こっちもこっちで準備しておかないといけないからな」
「なるほど。拠点を動かすのは大変だからな」
「あはは……で、どうしたんだ? というか戻ってたのか」
「ああ。ちょうど昨日の昼間にな」
つい一週間ほど前にレックスの治癒を行うヒメアの護衛としてレジディア王国に渡ったカイトであったが、ここに居るということはつまり治療が終わったという事に間違いないのだろう。というわけで、そんな彼はいつも通り来客用の椅子に腰掛ける。
「で、どうしたんだ? 朝早く……ってわけでもないが」
「ああ。少し前に発表のあったんでもしかしたら知っているかもしれんが……」
「それはもしや……」
「ああ、ちょうど読んでいた所だったか。こっちだと数日遅れてたのか」
セレスティアの提示した新聞を見て、カイトが笑う。どうやら要件はレックスの婚約に関する話だったようだ。
「その新聞にある通り、レックスの結婚式の日取りが発表されてな。それについてで来た」
「レックスさんの結婚式で?」
今更であるが、レックスの結婚式は隣国レジディア王国で執り行われるものだ。それについてソラ達が関われる事はほぼなかったし、それ以前としてレジディア王国へ渡る方法を探している所でもあった。が、これにカイトが笑う。
「ああ……前に言ったが、基本的にレジディア王国へは行けん。行けんが、招待状があれば話は別になる」
「ってことは……」
「招待状、必要だろう?」
おおよそを察して目を見開くソラに、カイトが笑いながら問いかける。とはいえ、流石に招待状が出されるわけではなく、要不要を聞きに来た形だったようだ。
「ああ。貰えるなら是非欲しい……でも良いのか?」
「レックスの奴が気を回したんだよ。ちょうど今参列者のリストを作っている所らしくてな。礼ならオレよりあいつに直接言ってやってくれ」
「絶対に言うよ……ってことはこれでレジディア王国に行けるってわけか」
一番のネックだったレジディア王国への渡航許可はこれで手に入れられた。ソラはカイトの言葉に胸を撫で下ろす。
「ああ……丁度この間の一件でロレイン様からの任務も請け負っていただろ。それもあって許可を出せそう、って話らしい」
「はー……もしかしてロレインさん、そこらも考えて下さってたのかな」
「さてなぁ……が、あの方なら考えて下さってても不思議はないだろうさ」
これがどうかというのはロレイン達にしかわからない事だろうが、ソラ達が大精霊の指示で動いているというのは知っている。ならそれに助力出来るような形で動いていたとしても不思議はなかった。
「っと、それなら近々レックスに会うから、またその時リストに含めるように言っておこう」
「でも良いのか? 俺たち冒険者だぞ?」
「おやっさんも呼ばれるぞ。冒険者だろうと功績があれば普通に呼ばれる……末席にはなっちまうけどな」
「それでもすごい事なんだろ」
「だろうな」
何度目かになるが、カイトはシンフォニア王国騎士団長及びレックスの幼馴染でもある。立場としても格としても招待されて当然であり、彼については参列者席の最前列どころか一番目立つ席が用意されているそうらしかった。が、それ故にこそ彼は招待される事が当然の立場で、ソラ達が招かれる事の凄さがいまいち理解出来なかったようだ。
「ま、それはそうとして……今回は結婚式。祝いの席だ。基本的に武器の類は一切封印された上で参列する事になる。普通の封印だと面倒そうだ、って物に関しちゃ予めどうするかレジディア王国の大使館との間でやり取りをしておいてくれ」
当然であるが一国の王太子の結婚式となるとその警備は非常に厳重になる。武器や防具の類は一切封印される事になるのであった。というわけでカイトはそこらを伝えに来てくれたというわけであった。そんなわけでレックスの結婚式について話す一同であったが、そこでふと瞬が気になった事を口にする。
「そう言えばレックスさんの結婚式だろう? どんな方が来られるんだ?」
「ん? ああ、それか……まず陛下は参列されるし、その護衛としてオレ達も全員参加だ。黒き森からは大神官が来る。というより、結婚式の取り仕切りは彼女がする事になっている」
大神官というのは言うまでもなくスイレリアだ。黒き森は同盟を結んでいる相手でもある。なのでハイ・エルフの大神官であるスイレリアに儀式の取り仕切りをお願いするのは不思議な話ではなかった。
「後は……上げ始めるとキリがないな。銀の山からも人は来るし、何より使われるティアラとかはあそこの作になるからな」
「あれを直に見れるんですね。レプリカは見た事があったのですが……」
「え? あ、そうか。セレスなら見た事があっても不思議はないのか」
どこか前のめりになったセレスティアに、カイトが僅かに驚きながらも納得を露わにする。彼女は未来のレジディアの王族だ。レックスの結婚式で使われたティアラなどの装飾品類に関しては見た事があっても無理はなかった。
「はい……後はレックス様即位の時に使われた王冠も見た事が」
「へー……あいつの王冠か。それは少し興味があるな」
一体どんな物なのだろうか。基本そういった装飾品に興味を持たないこの時代のカイトであるが、流石に親友の使う事になる王冠には興味が湧いたらしい。とはいえ、それについて詳細を聞く事はしなかった。
「あ、言わないでくれよ。楽しみはその時に取っておきたいから」
「はい」
「ま、良いや。そういうわけで。レックス達の結婚式に関しては色々と来る人が多いから、城下町はお祭り騒ぎになっているだろう」
やはり王太子にして国最大の英雄の結婚式が執り行われるというのだ。レジディア王国は国を上げてお祭りとしたい所だったのだろう。今からそれが予想されているそうであった。というわけで、一同は拠点の移行に並行してレジディア王国への渡航の準備にも取り掛かる事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




