第3140話 はるかな過去編 ――乱戦――
『時空流異門』と呼ばれる現象に巻き込まれ、数百年も昔のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは幸運にも後に八英傑と呼ばれる八人の英雄の一角として名を残す過去世のカイトと遭遇していた。そうして彼や彼が当時仕えていたシンフォニア王国という王国から支援を貰いながら冒険者としての活動を重ねていたわけであるが、その最中。カイトの負傷を好機到来と見た貴族達の動きを知らされると、一同はその阻止に向けて動き出す事になっていた。
というわけでシンフォニア王国第一王女ロレインの要請を受けた一同は貴族達と共謀する一年ほど前にカイトが制圧したメハラ地方という地方の豪族達の鎮圧に向け、メハラ地方に潜伏。その本拠地への潜入ルートを調査すると、そのまま首謀者達の鎮圧に向けて動き出す事になっていた。
「「「……」」」
カンカンカン。けたたましく鳴り響く鐘の音を遠くに聞きながら、シンフォニア王国の別働隊は音もなく地下水路から街へと潜入していく。そうしている内にもその鐘の音を聞いた兵士達の怒声が遠くで聞こえてくる。
「水路に敵が潜り込んでいる!?」
「水路の連中は何をやってたんだ!? 寝てたのか!?」
「東だ! 守りを固めろ!」
「北の大井戸にも注意しろ!」
ソラ達は巡回が厳重過ぎてそこまでたどり着けていなかったのだが、この街には幾つか井戸がありそこから水路に降りる事も出来たらしい。というわけで巡回の兵士達は大挙してこの隠し通路ではない場所へと押しかけており、相対的に一同が出てくる出入り口には人気が引く事になっていた。というわけで遠ざかる兵士達の声を聞きながら、ロレインは険しい顔で呟いた。
「ここまでは想定通り、か……」
「ロレイン様。潜入した冒険者達が号令を待っております。もう打ち上げても?」
「いや、待ってくれ……戦いが始まると乱戦になってしまう。アルダート。外はどうする? 先に移動しておきたいか?」
「……移動出来るなら」
「良し……それなら君達は内部に入り込んだ冒険者達に合図を送る前に動いてくれ。3分だ」
「へい……ソラ。お前さんらに半分預ける。全体の統率は俺が執るから、なにかがあったらすぐに報告しろ」
「はい」
ロレインの言葉を受けたおやっさんは即座にソラに伝えるべき事を伝え、彼と同様にもう一隊を率いる冒険者に向けても同じ事を告げる。そうして諸々の伝達が終わったと同時に、ソラ達は作戦開始となる。
「先輩。先陣は任せて?」
「もちろんだ……が、なるべくは被害が出ないように注意しておこう」
ソラの問いかけに瞬は一つ頷きつつ、自身を自制するようにそう告げる。まだあくまでも街の中なのだ。戦うなら街の住人に被害が出ないようにしなければ後味が悪い事この上なかった。というわけで瞬が気合を漲らせて、同じくもう一隊を率いる側の準備も完了となった所で戦いが開始される事になる。
「おやっさん。こっちはいつでも」
「こっちもだ……」
「良し……ロレイン様。ウチの連中や先に入ってる奴らに連絡を」
「わかった」
おやっさんの返答を受けると同時。ロレインが通信機を起動して、先に街に入り込んでいた冒険者や密偵達に特定の符号を伝達する。すると、街の各所でまるで打ち上げ花火のように信号弾が打ち上がる。
「良し、行け!」
「ふっ!」
おやっさんの号令と共に、瞬が地面を蹴って宙へと舞い上がる。そうして彼が宙へと舞い上がると同時に、ソラ達もまたその後ろに続くように宙へと舞い上がった。
「なんだ!?」
「冒険者!? だが、あの方角は……」
「っ、攻撃! 敵襲!」
ロレインの合図と共に、街の各所に集結していた密偵達が慌てふためく兵士達に向け攻撃を加えていく。そうして各所で引き起こされる戦いを横目に、瞬は一目散に外へと向かっていく。
「っ! こいつら敵だ!」
「街に入り込まれていた!? どうやって!?」
「おぉおおおお!」
バレた以上はもはや遠慮する必要なぞない。そう判断した瞬は着地点付近に居た兵士達を威圧するように雄叫びを上げて舞い降りる。そうして彼が威圧した直後。可憐な雄叫びが響き渡った。
「はぁああああ!」
どぉん。そんな轟音と共に、セレスティアが大剣で地面を打ち据える。そうしてまるで大地震にも似た揺れが兵士達へと襲いかかり、トランポリンに弾かれたかのような勢いで宙へと舞い上がった。
「ふっ」
舞い上がった兵士達に向け、こちらは音もなく着地したイミナが拳打を叩き込んで大きく吹き飛ばす。そうしてある程度減らした所で更に後ろの冒険者達が着地して、それを見届ける事なく瞬は再度大跳躍。街の外を目指して移動する。
(む……すでに外でも戦いが起こっているな)
街の中もそうなのであるが、街の外でも戦いは起きている様子だった。しかもここまで街の中心付近まで敵に入り込まれているとは思っていなかったからかかなり混乱している様子で、街の救援を行えば良いか裏切った豪族達の兵士に対応すれば良いかわからず右往左往している様子だった。
(ラート家の軍は……あれか)
幸いなことに、ラート家の軍勢は旗を掲げていた。なので上空からも見つけやすく、その状況もわかりやすかった。というわけで上空からすぐに見つけ出した瞬に、ソラが念話を飛ばす。
『先輩! ラート家、どんなもんっすか!?』
『左右から攻められているみたいだ……話には聞いていたが、かなり悪評高いみたいだな』
ラート家は良くも悪くも軍事力は高く、しかもそれを背景に高圧的な態度を取っていたという。結果としてその軍事力を上回る軍事力を有する所が出た瞬間、あっという間に裏切られたというわけであった。と、いうわけでそんなラート家を目指しながら移動する一同に、セレスティアが教えてくれた。
『歴史によるとラート家はかなり悪評高い家だったとの事です。なのでこの戦いにおいてラート家は身内からも離反者が出て、大混乱に陥ったそうです。そして大勢を立て直す事が出来ないまま、迂回したシンフォニア王国の別働隊により背後を攻められたと……まぁ、まさか迂回ではなく街から出ていったとは思っていませんでしたが』
ある意味では迂回で良いのかもしれませんが。セレスティアはこの後のラート家の歴史についてを語る。そうしてそんな事を語りながら散発的に戦いを繰り広げ、一同はいとも簡単に街の外にまでたどり着く。
「良し……確か街の外に到着したら信号弾を打ち上げろ、だったな」
「ええ……それで攻撃を本格化させる、という事でしたが……」
「無意味そう……ではあるな。が、背後に敵が居るとわからせる事には意味があるか」
現状、ラート家は左右から攻撃されて完全に二方面作戦を取らされている所だ。なのでこの上背後からシンフォニア王国の別働隊が来たとなれば完全に包囲されているような状況に見えてしまうだろう。兵士達の士気を挫くのであれば、良い手と言えた。とはいえ、完全にメリットだけかというとそうではない。
「まぁ、その代わりこっちの存在もバレちまいますんで痛し痒しですけど」
「やるなら一気に、しかなくなるというわけか」
「うっす」
「アマシロ。俺達は当初の作戦通り、当主に近付く兵士達を足止めする。その間にお前らはラート家の当主を捕まえるなり殺すなりしてくれ」
「ああ……あくまで足止めで良い。頼む」
一同に預けられた冒険者の言葉に、ソラが一つ頭を下げる。先に言われている通りこのまま向かった所で多勢に無勢。なので外から内通した兵士達が攻めると共に、冒険者達が本陣に戻ろうとする兵士達を牽制。その間にソラ達がラート家の当主を確保する、というわけであった。というわけで最後の打ち合わせが終わった所で、瞬が一つ頷いた。
「ソラ」
「うっす……っ!」
ぱんっ、ぱんぱんっ。瞬の言葉を受けたソラがおやっさんから与えられた信号弾を打ち上げる。そうしてそれを受けて、ラート家を左右から攻め立てていた兵士達から鬨の声が上がって一気に攻勢を強める。そして同時に、ラート家の兵士達はこの状況での背後からの襲撃に完全に浮足立つ事になってしまう。
「後ろ!?」
「早い!? もうここまで!?」
「本陣を守れ! 引くぞ!」
「だめだ! 後ろを見せれば狩られる! 今は前の敵を!」
当主が危険。そう判断した者は取って返そうとするが、同時に左右の豪族達の兵士がそれを許すわけがない。というわけで進むも戻るも出来ないまま、兵士達は討ち取られていく。
「居たぞ!」
「こっちだ!」
「良し……やるか。おぉおおおおおお!」
信号弾の発射と共に当然だが瞬達の存在は見つかる事になる。というわけで自分達に向け敵意を向ける兵士達に少しだけ牙を剥くと、瞬は鬼の雄叫びを放つ。そうして、彼の雄叫びを起点として彼らの戦いがスタートする事になるのだった。
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