第3136話 はるかな過去編 ――地下水路――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、数百年も過去のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らであったが、その時代には幸いな事に後に八英傑と呼ばれる八人の英雄の一人として名を残す過去世のカイトが存在していた。
というわけで紆余曲折を経て彼と彼の仕えるシンフォニア王国からの支援を貰う事に成功し、元の時代に戻れるまで冒険者としての活動を開始する事になる。が、その最中。カイトの負傷とそれをきっかけとした貴族達の暗躍を掴む事になると、一同はその阻止に向けて動き出す事になっていた。
そうして貴族達と共謀してシンフォニア王国の影響力の排除を狙っていたメハラ地方と呼ばれる一年ほど前にカイトが制圧した地方の豪族達の鎮圧に乗り出す事になったわけであるが、ソラと瞬の二人はシンフォニア王国第一王女であるロレインの要請を受け、豪族達が集まる街への潜入ルートの調査を行う事になっていた。
「「……」」
カツカツカツ。そんな足音が響く水路にて、ソラと瞬の二人は息を潜めていた。地下洞窟を出た二人であるが、やはり水路にまでたどり着けば巡回の兵士達が見回りを行っていた。
そしてもちろん、二人は豪族達に依頼されてこの水路の調査に来ているわけではない。見つかれば一巻の終わり。そしてなるべくは戦いは起こしたくはない以上、息を潜めてやり過ごすしかなかった。というわけで息をひそめる事数分。軍靴の音が遠ざかっていくのを理解し、二人はほっと胸を撫で下ろす。
「はぁ……やはり兵士達の見回りがかなり頻繁だな」
「そうっすね……出てからこれでもう三回目っすかね」
「そんな所……だったか。これはどうやって地下から出るか考えないとだめそうだな」
巡回の兵士達はやはり戦いが近い事もあってスリーマンセルで動いていた。それだけ豪族達もこの地下水路に敵が入り込まれると厄介と判断している証拠だと言えるだろう。そしてそうなれば出入り口がしっかり見張られている事は想像に難くなかった。
「やっぱ地下水路を馬鹿正直に通るルートはだめそうっすね。入り口の兵士を纏めて排除できるなら、なんとかなるでしょうけど……」
「おそらくそれは考慮されているだろうな」
「でしょうね。多分街の方からも入り口の兵士達が見張られているはずです。こっちが街にたどり着くよりも前に、向こうがこっちの潜入に気付くでしょうね」
それがどういう手段かまではわかりませんけど。ソラはあくまでも推測ではあるがと口にしつつ、間違いなく見張られている事は明言する。というわけでそんな事を話しながら移動する事しばらく。更に数度の遭遇を経ながらも二人は地下水路の出口までたどり着いていた。
『……これはだめそうだな』
『っすね……10……20……いや、30人ぐらいは居そうかな』
出入り口にたどり着いて曲がり角から外を確認する二人であるが、そんな二人が見たのは簡易の詰め所のような建物とその周囲にて警戒する数十人の兵士達だ。力量としては二人よりはるかに下なので制圧は容易だが、潜入に使える規模ではなかった。
『もしやるとすると即座に鎮圧して成り代わるぐらいか?』
『それはありっすね……でも問題はもし万が一向こうがなにかの符号を持ち合わせていた場合、こっちはそれを掴まないと即座に警戒されてしまう、っていう所でしょうね』
『なるほど……この程度なら誰でも考え付く。ならそれへの対策もされていると考えるべき、か』
ソラの指摘はもっともだ。瞬は自身の考えに対するソラの意見が正しいと判断。この手はなかった事にする事にする。そして二人はこの場にこのまま留まるのは危険と判断して、来た道を引き返す。そうして再び数度の兵士達との遭遇を掻い潜り、二人は再び地下洞窟との境目まで戻ってくる。
「さっきの地下水路の出入り口がここだから……今は地上だとここらあたりか。どこかに上に上がれるポイントがあれば、だが……」
「多分あると思いますよ。いくらなんでも地下水路への出入り口があれ一つ、ってわけないでしょうし……何よりこの地下洞窟を見つけた奴らが見つからず出るには隠れた出口があるはずでしょうから」
「それならそれを探したい所だな」
「ええ……」
問題はどこにその地上への出口があるか、という所だが。二人は地図を見ながらどこにその出入り口があるかと考えるわけであるが、そこでふと瞬が気が付いた。
「そう言えば……この地下洞窟を見つけた奴らは目印を残しているよな? となると、見つからず出れる出入り口に繋がるルートにも目印を残しているんじゃないか? そうじゃないと誰かがドジを踏んでこの地下洞窟が見つかっていても不思議はないだろう」
「なるほど……それは有り得そうですね」
瞬の指摘を聞いて、ソラもそれは有り得そうだと判断する。というわけで二人は改めて出入り口の目印を探す事にするわけであるが、それを考えるためにもう一度目印をしっかりと確認する事にする。
「ふむ……む?」
「どうしました?」
「いや、これ……ほら、ここ。文字が刻まれていないか? 目印に注意していてさっきは気付かなかったが……」
「あ、本当だ……」
先程までは暗かった事とその中で輝く目印の明かりにばかり気を取られていて気付かなかったのだが、どうやらレンガの扉を指し示す目印の下にはこの目印を残した者の物と思しき文字が刻まれていた。というわけで二人は改めてそれを確認してみる。が、そうして二人はすぐに自分達が失敗している事に気が付いた。
「何度も言ってるが間違ってもこの扉は開くんじゃねぇぞ、ボケナス共……なんとかしてくださいよ……賄賂も安くはねぇんだよ……そ、そうか」
「あ、あららら……」
どうやら本来、このレンガの扉を開いて外に出るのではなかったらしい。誰かと誰かの会話でそう理解する。そして言われてみれば、と二人も理解する。
「ロックが掛かってたのってそういう事だったんっすね」
「まぁ、向こうから開かないようにする意味合いもあったんだろうが……良く考えれば向こうに出た以上鍵が無いと閉じられないよな」
「た、たしかに」
自分達はこの扉の存在を知っていたから出入り出来ただけで、ここに戻ってきた時には鍵は開きっぱなしになっていた。が、出る時には鍵が掛かっていた事を考えると、誰かが何かしらの方法で外から鍵を掛けられなければならない事になる。その方法までは二人は気付いていなかったのだ。というわけで二人は再度レンガの扉の鍵をしっかりと閉じると、改めて周囲を見回す。
「ふむ……この扉が外れとなると、どこかに出れる扉があるという事か……」
「といってもここが終点である事に違いは無いんっすよね……」
「ふむ……」
ここまでに一切曲がり角がなかった事は間違いない。そして目印がここ以外になかった事もまた間違いない。ということは、ここから別の目印が見つけられるという事に他ならなかった。というわけで二人は周囲を見回すわけであるが、目を凝らしてみてようやく次の目印が見つかった。
「ん? これは……」
「なにかあったか?」
「ええ……これ……取っ手? 引いてみます」
「ああ」
ソラが見つけたのはちょうど目印のすぐ近くにあった取っ手だ。というわけでソラはそれを引いてみるわけであるが、するとガコン、と小さな駆動音が鳴って上から光が溢れてくる。
「これは……」
「はしご? 上に出られたのか」
「そうみたいっすね。行ってみましょう」
とりあえずここから出られるのなら出るだけだ。二人は注意しながら上へと昇っていく。そうして外に出る直前。ソラは上に乗っていた木箱だか樽だかを押し上げて注意深く周囲を見回す。
「蓋は……なんかの樽とかっぽいっすね。それで偽装してるっぽいっす」
「なるほど……大丈夫そうか?」
「ええ……先輩」
「っと、すまん」
どうやらここを見つけた者たちはここが見つからないように偽装工作をしてくれていたらしい。出たのは街の裏路地のかなり奥まった所で、人気はなかった。というわけで二人は改めて自分達が出た出入り口を見ると、そのすぐ横にレバーがある事に気が付いた。
「なるほど……これを引けば元通りというわけか」
「というわけなんでしょうね……よっと」
おそらくそういう事なのだろう。そう判断した二人がレバーを引くと、案の定蓋が閉じて地面に偽装されていく。そこに元々置いてあった木箱を乗せると、一見すると誰にもここに地下通路への秘密の抜け道があるとはわからなくなった。
「良し……ここから潜入出来そうか」
「そうっすね……幸い上水道らしいんで、匂いも大丈夫みたいですし……うん。多分大丈夫」
「難点は……ここまで時間がかかりそうという所か。後は幾つか難所もありそうか」
「っすね……とりあえず一度宿に戻って今の調査結果を纏めますか」
報告する前に一度調査結果を纏めないと話にならない。二人はそう話し合うと、改めて宿に戻ってこの日は急いで調査結果を纏める事にするのだった。
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