第3129話 はるかな過去編 ――潜伏――
『時空流異門』と呼ばれる時間と空間の異常現象に巻き込まれ、数百年も昔のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らであったが、その時代は戦国乱世と呼ばれる時代であった。
そんな普通であればかなり難局を極める時代であったのだが、その時代には幸いな事に後に八英傑と呼ばれる八人の英雄の一人として名を残す過去世のカイトが存在している時代でもあり、そんな彼の支援を受けながら元の時代に戻るまで冒険者としての活動を行っていた。
そうして冒険者としての活動を重ねる中。一同の元に入ってきたのは、カイトが怪我をした事により彼を疎む貴族達が暗躍を開始したという情報であった。
というわけでシンフォニア王家や王都を中心とする冒険者達と共にその阻止に向けて動き出した一同であったが、貴族達の鎮圧は復活したカイトにまかせて共謀するメハラ地方という一年前に制圧された地方の豪族の討伐に向けて動く事になっていた。そうしてメハラ地方に潜伏して数日。豪族達の間で裏切りの連鎖が始まった頃だ。その頃におやっさんが一同の元へとやって来ていた。
「おう、お前ら。元気か?」
「おやっさん。どうしたんですか?」
「そろそろお前らにも一つ仕事を頼みたくてな。お前らもずっとこんな辛気臭い洞窟に閉じ込められてきついだろ」
「あははは。ソラは結構やる事があるみたいで喜んでましたけどね」
おやっさんの言葉に瞬は<<地母儀典>>片手に唸るソラを横目に見る。<<地母儀典>>は土属性に長けた魔導書だ。洞窟の中は土属性の魔力がかなりふんだんにあるらしく、<<地母儀典>>の訓練にはかなり有意義な時間を持てたらしかった。
そして当たり前だが洞窟に籠もるチャンスなぞ早々あるものではない。これ幸いと<<地母儀典>>の勉強を進めている様子だった。というわけで、そんな彼を邪魔しないようにとおやっさんも少しだけ声のトーンを落とす。
「ほぉ……よいこった。兎にも角にも有意義に使えてるならそれで良い。が、仕事は仕事だ。頼めるか?」
「大丈夫です。それで仕事とは?」
「おう……ちょいとあの机借りるぞ」
どうやらおやっさんは地図を持ってきていたらしい。手頃な机を見つけると、彼はその上に地図を広げる。それは街とその付近を書き記した地図だった。
「こいつはここから南西に半日ほど歩いた所にあるビルカという街の地図だ……手っ取り早く言うと豪族共の本拠地でもある」
おやっさんはこの地図がどこのものかを説明すると、持ってきていたらしいなにかの駒のような物を色々な所においていく。
「現在街を中心にして北東に豪族共の兵力が勢ぞろいしているところだ。ま、烏合の衆だからそこまで気にする必要も無いがな。で、この街の中心……大会議場だ。これが豪族共の中心だな」
「会議場?」
「メハラ地方の豪族達が揃って会議するための場所だ。それを使ってる、ってわけだ。シンフォニア王国がメハラ地方を制圧した際、メハラ地方の豪族達との調印式でも使われた由緒ある会議場だ」
「なるほど……良く知ってますね」
「俺も同行してたからな」
おやっさんなら知っていても不思議はないかもしれないが。そんな様子で問いかけた瞬であったが、おやっさんが知っていたのはこの調印式とやらにも参列していたからだったそうだ。とはいえ、彼は王都の冒険者を取り仕切る一番偉い存在でもあるのだ。色々と任されていても不思議はないだろう。
「ま、そりゃ良い。とりあえず重要なのは豪族共は今ここに集まって対応を協議してる……協議してる、って言えば良いが、どうせ裏切りが発生しないか見張ってるって所だろうぜ。もう裏切り者なんて出まくってるんだがな」
「そうなんですか?」
「おう……てか敗戦濃厚なのに裏切り者が出ない方がおかしいだろ」
「それは……そうですね」
国力であればシンフォニア王国が圧倒的なのだ。それこそカイトを考えなくても兵力の半分も必要なく、メハラ地方は制圧できる。そのシンフォニア王国に喧嘩を売った以上、逃げ出そうとする者が出て不思議はなかった。というわけで先のマタル家を筆頭になんとか伝手を探して降伏しよう、情報を売って少しでも減刑を、とロレインに泣き付く豪族は後を絶たなかったのである。
「で、仕事ってのはロレイン様が入る前にこの街に入って事前調査。俺達本隊に情報を提供して欲しい。つってもすでに現地には先に俺が差し向けた冒険者が入っているから、そいつらからある程度の情報は貰ってくれ。その上で、俺らが入れるだろうルートを探すってわけだ」
「潜入工作……という所ですか」
「そんな所だ。入れそうな地下通路やらそんなのに似たなにかがあれば良いんだが……そこらは現地の冒険者達に話を聞いて、直に確認してくれ」
なにかラエリアの攻防戦を思い出すな。瞬はあの時も古代の文明が遺した地下通路を通って潜入したのだったなと思う。とはいえ、あの時と違うのは今回はこちらがその情報を入手しなければならないことだろう。というわけでそんな事を思い出していた瞬に、おやっさんが話を続ける。
「潜入ルートが見つかった後だが……ああ、そうだ。すまん。そう言えば言い忘れていたんだが、お前らの内誰かはこっちに残ってくれ。確かお前らさんら、特殊な魔道具持ってるんだろ? それを使って連絡を取り合いたい」
「なるほど……確かにあれなら敵に掴まれにくいかもしれないですね」
「ロレイン様もその見込みを立てている……で、流石に使い方もわからんし下手に触ってなにか面倒になっても困る。お前らの内誰かが残ってくれ、ってわけだ」
「わかりました……」
そうなると小鳥遊が最適かもしれん。瞬は今回の一件が潜入工作となる事から、万が一の場合に弓兵として外から支援も可能な由利を残すべきと考える。そこらを考える彼であったが、一旦は思考を切り上げた。
「あ、続けてください」
「おう……で、潜入ルート発見後だが、俺ら本隊の潜入に際して必要に応じて支援をしてくれ。支援つっても潜入ルートで可能であれば合流って感じだな。無理なら街の中で落ち合う……ってな具合で良いだろう」
「わかりました……それ以外には?」
「まだ調整してるから、合流した後に話す。まぁ、そこからは荒事メインになるだろうけどな」
「わかりました」
どうやらこの後に関してはどれだけ兵員を密かに寄越せるか、という所が現状問題になっているらしい。それ次第で動きが変わってくるらしく、まだしばらくは調整が必要との事であった。というわけで瞬はおやっさんから更に詳しく情報を聞くと、人員の選定やらを行って夜闇に紛れて洞窟を後にするのだった。
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