第3127話 はるかな過去編 幕間 ――その頃の彼ら――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、はるか数百年も昔のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。その時代には幸いな事に後に、後に八英傑と呼ばれる八人の英雄の一人として名を残す過去世のカイトが存在していた。
そんな彼が魔族との戦いにより怪我を負った事を好機到来と見て、カイトを疎む貴族達やシンフォニア王国に制圧された地域の豪族達による暗躍を開始。それを察知したソラ達はそれを阻止するべく行動を開始する。
というわけでロレインと共にメハラ地方という小競り合いの絶えなかった地方へと赴いたソラ達の一方。自身とロレインを害そうとした貴族達の鎮圧に向け、カイトはシンフォニア王国北西部へと赴いていた。
「全く……我々が寝ている間に好き勝手してくれたものだ」
「だから手緩いっていつも言ってるのよ。ま、今回はそう言ってもいられないでしょうけど」
「そうだな……目にもの見せてやる事にしよう」
殺気立ってるなぁ。ルクスは口調こそいつも通りだがいつもより口数の多いライムやいつも苛烈だがいつも以上に物騒な発言が目立つグレイスにそう思う。
先にロレインも言っているわけであるが、<<青の騎士団>>では男以上に女達がかなり物騒だ。そしてこの二人である。本当に二人だけで貴族達の連合軍を壊滅させられかねないのが怖い所であった。というわけで、そんな物騒な女騎士二人から目を背けてルクスはカイトへと顔を向ける。
「で、団長。大丈夫は大丈夫なんですか?」
「大丈夫は大丈夫だ……流石にお前ら四人を一気に相手に出来るほどは回復してないけどな。それでも軍団長級の魔族が来てもなんとかは出来るだろう」
「後は今回の一件の裏で大将軍級が動いていなければ、という所でしょうか」
「そうだな……とはいえ、先の今で向こうがそんな大規模な戦力を裂けるとも思わんがねぇ」
先にヒメアも言っているが、カイトがここまで急速に復帰出来ているのは彼女がいればこそだ。その実レックスでさえまだ動けるほどには回復しておらず、その点においてはヒメアとベルの間では明白な差が存在していると言ってよかった。
「それに何より、今回の一件は貴族共だろう。魔族が裏で居る事がつかめれば一気に解決出来るが……居ない限り対症療法を打っていくしかない」
「その点、やはり魔族共は厄介ですね。立ち回りが上手い」
「それは嫌というほど理解させられている……クロードとの合流地点までは?」
「後少し……という所です。あちらも何もなければ良いのですが……」
メハラ地方がそうであるように、こちらの貴族達も今頃事の露呈がわかって大慌てで対処を考えているはずだった。となると先にロレインが言うように取れる手は二つ。黙って頭を差し出すか、悪あがきをして反旗を翻すか、だ。と、言うわけで反旗を翻した場合のクロードを危惧するルクスに、グレイスが口を開く。
「なにかがあっても問題はないだろう。クロードとて四騎士の一人。雑兵に負けるようなやわな鍛え方はされていない。気にするべきがあるとしたら、行った時点で終わっていたという方だな」
「貴方じゃないんですから、勝手に戦い始める事なんてありませんよ。クロードの場合は特に素直で良い子ですし」
「それはまるで私が素直でないような風に聞こえるが」
「おっと……これは失敬」
少し冗談めかした様子で眦を決するグレイスに、ルクスが楽しげに笑いながらまるで貴族の優男のように優雅に頭を下げる。そんな様子に、ライムが盛大にため息を吐いた。
「似合うわね……団長。わかっていると思うけど、今回前に出るのは無しだから」
「はいはい……まぁ、けが人ですからね。後ろに引っ込んでます」
ここで前に出て後で痛い目に遭うのは自分。カイトはこの十数年の四騎士達との付き合いでそれを嫌というほど理解していた。というわけで彼は本当に今回はあまり戦うつもりはないのであった。そして何より、彼が前に出れない理由もある。
「それに何より怖いお目付け役もいる。前には出ないさ。本来の仕事もある。姫様が同行されている以上、前には出られんよ」
「そうですね……まぁ、そんな事を言ってしまえば本来なら我々が出るべき話でもないのかもしれませんが」
「どうだろうな、そこは」
今回カイトが狙われたという事と貴族達がカイトの怪我が故に起きた事だ。なので彼が動ける所を見せるだけで変わってくるということもあり、彼が動いているのであった。というわけで殺気を内に秘めながらそれを見せず進み続けることしばらく。
一同は先遣隊として先に出ていたクロードが設営した野営地へと到着する。そこではすでにスカーレット家やブラム家などの四騎士の実家からの戦力も集結しており、かなりの戦力が整っていた。というわけで、そんな様子を見ながらカイトが苦笑した。
「こりゃ壮観だな……こっぱ貴族共の討伐とは思えん」
「四騎士の家から戦力まで来ているとなると、小国程度なら楽に落として帰れるだろうな。そんなものを内部に向けて差し向けねばならん状況に私は頭が痛い」
「それはそうだが……かといってこれをメハラ地方に出すとなると割りと面倒だ。こっちに、というのはしゃーない」
グレイスの言葉にカイトが苦笑を深める。ちなみに、メハラ地方との境目に展開されている兵力は機動力の高い兵力が中心で表向き急いでかき集めた風を見せている。
なお、本当に開戦した場合に備えて更にその背後にはエクウス家を主軸とした貴族達の連合軍も控えており、こちらが寡兵と見て攻撃を仕掛けようものなら大打撃を与えられる寸法だった。それはさておき。そんな野営地の中から<<青の騎士団>>に所属する騎士が現れる。
「団長! おかわりなさそうで何よりです!」
「おう。おかげさまでな……なんかとんでもないな」
「あはは。皆、やる気は十分です。そのやる気が振るわれねば良いのですが」
「いや、全くだ……やる前に逃げてくれないかねぇ」
間違いなくこの場に揃っているのはシンフォニア王国でも有数の精兵達だ。そんな兵士達を相手に戦いを挑むなぞ愚行も良いところとしか言い得なかった。
しかも、この上に四騎士まで勢ぞろいしているのだ。魔族達には四騎士の復活をアピール出来るだろうが、だからと兵力をいたずらに消耗したくはなかった。というわけで笑いながらそんな事を口にするカイトであったが、すぐに気を取り直して問いかける。
「で、状況は?」
「すでに向こうは離反者も多数という状況です……流石に我々とその背後を相手にする気は連中にも無いでしょう。団長が不在だからこそかと。それとサルファ殿から密使が来て団長が復活している噂を流すように提案が」
「あらら……バレてたか」
これは言ってしまえばシンフォニア王国にとって身内の恥なので黒き森には伝わらないように注意していたのであるが、どうやら輸送隊が狙われた時点でサルファは察知していたらしい。というわけでそんな状況にカイトは再び苦笑を浮かべる。
「それについてはその通りにしてくれ。オレが来ている事は事実だしな。それで避けられる戦いがあるのなら、避けよう」
「は。すぐに手配に取り掛かります」
カイトの指示を受けて、伝令に来た兵士が駆け足で野営地へと戻っていく。そうしてカイト達はクロードの待つ野営地に入り、一旦はメハラ地方との足並みを揃える事にするのだった。
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