第3126話 はるかな過去編 ――合流――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、はるか数百年も昔のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。その時代には幸いな事に後に、後に八英傑と呼ばれる八人の英雄の一人として名を残す過去世のカイトが存在していた。
そんな彼が魔族との戦いにより怪我を負った事を好機到来と見て、カイトを疎む貴族達やシンフォニア王国に制圧された地域の豪族達による暗躍を開始。それを察知したソラ達はそれを阻止するべく行動を開始。
その現況がソラ達が来る一年ほど前にロレインとカイトが統一したメハラ地方という小競り合いの絶えない地だった所の豪族達だと掴むと、ロレインの護衛としてメハラ地方に潜入していた。
「ロレイン様。洞窟が見えてまいりました」
「わかった……先遣隊は?」
「問題ないようです……合流可の合図が出ました」
「よし。進めてくれ」
当たり前だが先遣隊を含め、一同は今敵地のど真ん中に潜入だ。どこに敵が潜んでいても不思議はない。というわけでここまでの道中は馬車に施された迷彩機能を使って隠れて移動していたし、洞窟の周囲にはすでに先遣隊が展開し状況を伺っている様子だった。そうして竜車が洞窟の中に入って少しして停止する。
「……到着したか」
「ロレイン様。停止しました。外も大丈夫です」
「わかった」
ローゼの言葉にロレインが一つ頷くと、更にソラ達に向けて一つ頷く。そうして先に瞬達が降りる事になるのだが、そこで意外な人物と遭遇する事になる。
「おやっさん……」
「おう、お前ら。おつかれさんだったな」
「先遣隊っておやっさん達の事だったんですか?」
降り立った先で待っていたのは王都の冒険者を統率するおやっさんだ。そんな彼がなぜここに。瞬はそんな様子を露わにする。
「いや、俺らも先遣隊の一員って感じだ……ま、お前らと一緒か。今回の一件はどうしても一戦交える事にはなるだろうからな。かといって大規模な兵員を動員すると向こうにバレちまう。俺らみたいな個々での動きに長けた奴らが動員される、ってのは珍しい話じゃない」
それだけ信頼されているという事でもあるのだろう。瞬は救国の英雄の一人とも言われるおやっさんだからこそ任されているのだと理解する。そして彼らの更に後ろから、一人の壮年の騎士が進み出て瞬らの後ろから降り立ったロレインに跪く。
「ロレイン様」
「ああ……なにか問題は?」
「詳しくはあちらで。ナーディ家からの密使も来ております」
「そうか……ナーディ家はなんと?」
「詳しくは当人から聞いて頂ければ」
「そうか」
先遣隊の隊長の言葉を聞くと同時に、若干褐色に焼けた肌を持つ若い青年が暗闇から進み出る。そうして現れた人物に、ロレインが目を丸くした。
「君は……ナーディ家のアマルだったか」
「お久しぶりです。この度はお手数をお掛け致しました」
「まさか密使とは君だったのか」
深々と頭を下げたアマルという青年に、ロレインは驚いた様子でその挨拶を受け入れる。この青年はナーディ家を名乗っている通り、ナーディ家に名を連ねている。
そしてロレインが大いに驚いていた事から鑑みると、彼がかなり重要な地位に居る事は想像に難くないだろう。そうしてそんな彼が、一通の封筒を差し出した。
「当主よりの親書です。どうか、お受け取りを」
「確かに受け取った……此度の一件は君にとっても心苦しい所だろうが……」
「如何なる処罰も覚悟しております。母も領民達の安寧を願う、と。そしてこれは私一個人の願いですが……どうかあれの婚姻はそのままにして頂ければ」
「そうか……わかった。善処しよう」
「ありがとうございます」
領民達の安寧と妹の婚姻に関してを受け入れる姿勢を見せたロレインに、アマルは再び深々と頭を下げる。そうして彼と先遣隊の隊長。おやっさんは連れ立って洞窟の奥に設けられたテントへと歩いていく。その背を見送りながら、ソラがセレスティアとイミナに問いかける。
「今のは誰なんだ? かなりの大物っぽいけど」
「アマル・ナーディ……ナーディ家の嫡男です。エクウス家に輿入れするのは彼の妹ですね」
「ってことは……次期当主様かつエクウス家の次期当主の義理のお兄さんってわけか」
流石に次期当主が直々に頭を下げに来た以上、ナーディ家が裏切る可能性はかなり低そうか。ソラは密使に次期当主を寄越してきた意味をそう理解する。
「ええ……ナーディ家はこの時代のメハラ地方において最大勢力の一つ。それでもメハラ地方を統一するには力が足りていませんでしたが……すでに烏合の衆となりつつある豪族達にとって現体制側と言えるナーディ家は非常に厄介な敵と言えるでしょう」
「だからこそ彼らを動かさないように夫人の実家を抱き込んだ、ってわけか」
「そういうことなのでしょうね」
動かれると非常に厄介な相手になるのだ。動かさないようにするのは当然の帰結だった。が、それもナーディ家が次期当主を動かした事でもう終わりという事だった。というわけでもはや見えた戦いの結末に瞬がどこか興味なさげに口を開く。
「趨勢はほぼ決したようなもの、か」
「決したようなもの、ではなく最初から戦いになぞなっていませんよ。だからこそ豪族達はロレイン様の寝首を掻こうとしたわけです……が、それも失敗した以上は腹をくくるしかない。後は逃げるだけの知性があれば、ですが……」
「それはプライドが許さない、か」
領民を巻き込んでの自滅であるぐらいはわかりそうなものなのだが、そう言えないのが豪族達の悲しい所なのだろう。瞬はセレスティアの指摘に対してそう思う。
「そういうことでしょう。そんな事が出来るのなら、最初からこんな状況下で小競り合いなぞ起こしていない。民達のために、彼らは取り除くのが最良です」
どこか冷酷に、為政者としての観点からセレスティアが告げる。巫女であり平素は優しい彼女であるが、本質的には王家の王女なのだ。こういった冷酷さは存在しているのであった。と、そんな一同に声が掛けられた。
「ロレイン様の護衛の方々ですね」
「あ、はい……何か?」
「これより会議に入られます。ロレイン様より休憩用のテントの用意を命ぜられておりました……そちらの準備が整いましたので、そちらをお使い下さい」
どうやらロレインはアマルが来た事で驚いてしまったせいで、休憩用のテントの事を伝え忘れてしまっていたらしい。そうして一同はロレイン達の会議が終わるまでのしばらくの間、用意されていた休憩用のテントで休ませて貰う事にするのだった。
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