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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3124話 はるかな過去編 ――赤き草原へ――

 『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、はるか数百年も昔のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。その時代には幸いな事に後に、後に八英傑と呼ばれる八人の英雄の一人として名を残す過去世のカイトが存在していた。

 というわけで彼やその配下の騎士達、そして彼を庇護するシンフォニア王国の支援を受けながらも冒険者としての活動を開始させるソラ達であったが、カイトとその幼馴染にしてレジディア王国の王太子レックスが強大な魔族との交戦により負傷。療養するという事態が起きる事になる。

 そしてそれを好機到来とカイトを疎む貴族達やシンフォニア王国に制圧された地域の豪族達による暗躍を察知すると、ソラ達はそれを阻止するべく行動を開始。ロレインの護衛として反乱を企てた豪族達を鎮圧するべく、豪族達の本拠地であるメハラ地方へと赴く事になっていた。というわけで一同は敵の準備が完了する前に王手を掛けるべく、足の早い飛竜に乗って移動する事になる。


「ふぅむ……」

「な、なんでしょうか……」

「……少々、手を貸してもらえるかな?」

「は、はぁ……」


 ロレインの求めに対して、セレスティアは少しおっかなびっくりという様子で手を差し出す。これにロレインは金属の輪っかを取り出した。そうしてそれをセレスティアの手のひらに乗せる。


「これは……?」

「ふむ……魔力を通してみて貰っても?」

「はぁ……わかりました」


 とりあえず相手はある意味では祖先でもある――セレスティアはレジディア王家と共にシンフォニア王家の血筋も引いている――のだ。ここは素直に従っておく方が得策かと判断して、言われるがまま金属の輪に向けて魔力を通してみる。そうして金属の輪の中心に、虹色の光が生まれた。


「これは……もしかして」

「ほぉ……やはり。これは君が察している通り、『夢幻鉱』で作られた輪っかだ。君も知っているだろうが、何分王家を名乗る不貞な輩は後を絶たない。そんな時、これを使えば一目瞭然というわけさ。ま、どういうわけかカイトにも反応してしまうから彼が発見された時には大問題になったのだけどもね」

「ああ、そういえばカイト様も使えたのでしたか」

「そう。なぜだかは未だに不明だけどもね……もしかしたら知っているかもしれないけれど、彼がマクダウェル家に預けられる事になったのはそれもある。もし本当に王族に属する者だった場合、誰が彼を害するかわからないからね」


 やはりその説でしたか。セレスティアは後世で語られるカイトがマクダウェル家に預けられる事になった理由の内、最も可能性が高いのではないかと言われている学説の一つが正解だった事に納得を得る。というわけでそこらの話を語った後。ロレインが本筋に話を戻す。


「それはさておき……なるほど。確かにその特徴的な真紅の髪色。そして『夢幻鉱』に反応する魔力……実に興味深い。レジディア王家に伝わる力も使えるのか?」

「はい……一応レジディア王家、この時代の統一王家、シンフォニア王家の三つの力はまんべんなく」

「欲張りだな……君の時代では多いのか?」

「いえ……三つともとなると私だけです。二つになると、もう一人居ますが」

「二つ……それは?」

「シンフォニアと統一王家の力です」

「ほう」


 レジディアと統一王朝ならまだわかるが、シンフォニアと統一王朝か。その二つの繋がりがいまいち見えず、ロレインが少しだけ興味を覗かせる。が、すぐに彼女は首を振る。


「いや、やめておこう。興味は尽きないが……これ以上聞くと下手を打ってしまう可能性がある。そういう者が居る……程度にしておこう」

「それが良いかと」


 下手に未来を変える要因が生まれた場合、何が起きるかは未知数なのだ。しかもセレスティアの背後には大精霊が控えているとも聞いている。下手を打って彼女らの怒りを買う事になっても面倒と思ったのであった。というわけで、ロレインはセレスティアが自分達の子孫でもあると納得。ひとまずは話を終わらせて準備に取り掛かる。


「でだ……ここから足の速い飛竜で移動するわけだが。当然だが王城から直接移動しては面倒になる。少し裏口を使う事にしよう」

「裏口というと例の地下通路?」

「いや、あれはあれで見張られている。もっと原始的だが高度なものだ」


 ととん。ロレインはセレスティアの問いかけに対して地面を軽く小突く。すると唐突に空間が裂けて、どこかの草原が顔を覗かせた。その先には数体の青い飛竜と共に、数名の女騎士達が待っていた。そのうち一人が亀裂の先で跪く。


「ロレイン様」

「ああ……ああ、そうだ。紹介しておこう。彼女は私の専属騎士で、基本的に私が直接指揮を執れない場合は彼女に従ってくれ」

「ローゼ・スカーレットです。以後、お見知りおきを」

「「「スカーレット?」」」


 スカーレットといえばあのスカーレットか。一同は四騎士に名を連ねるスカーレット家の名に小首を傾げる。そして、それは正解だったようだ。


「はい。四騎士が一人グレイスは私の従姉妹です」

「なるほど……」

「元々スカーレット家は王宮守護を担う家系でもあったんですよ。そこから騎士として名を馳せた人物が何人も排出され、四騎士の一角に名を連ねる事になったわけです」

「「……」」


 その通り。ロレインもローゼも揃ってセレスティアの補足説明に無言で同意する。そうして今度はロレインの方が話を引き継いだ。


「そういうことでね。ま、後はブラム家。こちらは元々魔術師の家系が紆余曲折あって騎士となった形か……いや、正確に言うとある時騎士を婿にして、魔術と剣術共に出来るようになった結果、騎士の家系に名を連ねる事になった……という所かな」

「はぁ……」

「それは良いか……良し。じゃあ、行こうか。ローゼ。準備の方は?」

「委細問題なく。すでに先遣隊も出発しております」

「良し……じゃあ、彼らには先年の悪夢をもう一度見てもらう事にするとしよう」


 少しだけ悪辣にも見える笑みを見せながら、ロレインは一同に飛竜の横に設置されたかなり大きめの荷車への登場を指示する。そうして彼女に続きながら、ソラは小声でイミナへと問いかけた。


「先年の悪夢?」

「先のメハラ地方統一においては非常に迅速な戦術が取られてな。各地の豪族達が対処をする前に各個撃破されてしまったのだ。無論そのおかげで民草の被害は最小限に抑えられたのだが……それは逆説的に言えば再起を狙うのには十分な余裕があったというわけでもあったわけだ」

「それがここでの反旗に繋がったと」

「そう考えて良いだろう」


 確かにロレインの作戦としては自軍の被害を最小限に留められる上策と言えるものだったらしいのだが、それが全て上手く行くわけではない。

 余裕が残っていた結果として今回の反旗に繋がっているのだ。なんとも言い難い所ではあった。と、そんな小声の会話を聞いていたのだろう。馬車に乗り込んでいたロレインが口を開いた。


「そこらについては今更言っても仕方がない。それに本気で反乱の芽を潰したいのであれば、徹底的に叩くしかない……そうするとただでさえ余裕が無いこちらの戦力を大々的に割かねばならなくなる。そんな事が出来るほど、魔族共は甘くはないさ」

「主敵はあくまでも魔族と」

「それ以外無いだろう。我が国に至っては一度、完膚なきまでに叩き潰されている。それも一夜にして。反抗さえさせて貰えずに、だ。朝に目が覚めたら一年が経過していた、なぞという事を知らされ愕然とするのはもう沢山なんでね」


 これはやはり誰よりも壊滅的な被害を被ったシンフォニア王国だからなのだろう。彼らは魔族の事を決して甘く見ていなかった。故に如何にしてそれ以外の部分で被害を減らせるか。それがロレインにとっての至上命題になっているのであった。そんな彼女にソラがふと問いかける。


「そう言えば何日ぐらいで到着できるんですか?」

「ん? ああ、そう言えばそれを言っていなかったか……ざっと二日か三日だ。遅くとも三日後の朝には到着する」

「朝? ということは夜を徹して移動するんですか?」

「そうだ……まぁ、そこらの説明は面倒だ。とりあえず乗りたまえ。それで大体は説明出来る」

「はぁ……」


 兎にも角にも乗ればある程度はわかるらしい。一同はロレインに言われるがまま、馬車の中へ入っていく。そうして入った馬車の中は、とても馬車の中とは思えないぐらい非常に広かった。


「え?」

「言っただろう? 今回の一件では全員連れてきてくれると助かる、とね」

「これは……え? これ本当に馬車の中なんですか?」

「そうだ……私とノワールの特注品でね。これなら、ほぼ休み無く飛べるだろう? もちろん、入れ替わりの瞬間があるから無停止とはいかないがね。ああ、一応言うがここは単に竜達が休むスペースで、我々が休む場所はあっちだ」


 馬車に入って見えたのは、十数人の女騎士達だ。その全員が飛竜の横に居て、世話をしている様子だった。いわゆる空飛ぶ馬小屋ならぬ空飛ぶ竜小屋。そんな様子であった。そしてそんな光景を見て、ソラもなるほどと理解した。


「なるほど……これで一気に移動して敵の本丸を、と」

「そういうことさ。先年は私がこれで一気に移動し、カイトに後ろから強襲してもらったがね」

「「「うわぁ……」」」


 なんて悪夢なのだろう。一同は前には唐突に現れた冷酷無情な第一王女。背後には人類最強と名高いカイトだ。これでは矢も盾もたまらず逃げ出すしか道はなかっただろう事が容易に想像出来て揃って頬を引き攣らせる。そうしてそんな一同を乗せた飛竜は王都の誰にも知られる事なく、赤き草原を目指して飛び立っていくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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