第3123話 はるかな過去編 ――草原へ――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、はるか数百年も昔のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。その時代には不幸な事に戦国乱世と呼ばれる時代であったが、同時に幸いな事に後に後に八英傑と呼ばれる八人の英雄の一人として名を残す過去世のカイトが存在していた。
というわけで彼やその配下の騎士達、そして彼を庇護するシンフォニア王国の支援を受けながらも冒険者としての活動を開始させるソラ達であったが、カイトとその幼馴染にしてレジディア王国の王太子レックスが強大な魔族との交戦により負傷。行動不能に陥るという事態が起きる事になる。
それを好機到来とカイトを疎む貴族達やシンフォニア王国に制圧された地域の豪族達による暗躍を察知すると、ソラ達はそれを阻止するべく行動を開始。ロレインに呼び出された王城の北東の棟にて急遽復活させられたカイトと再会し、作戦会議に参加する事になっていた。
「あ、そうだ……一応聞いたんだけど。見舞いの品、ありがとな」
「あ、おう。こっちも色々と世話になってるからな。見舞いの品ぐらい持っていくよ。そこら、お前に口酸っぱく言われてるし」
「オレか」
「お前……経費で落とすから領収書持って来いとかこういうのでケチるなとか色々」
「オレか、本当に?」
確かに見舞いの品を持っていくのを忘れるなは言っても不思議ではなかったカイトであるが、同時にその後に続いた色々な言葉は自身のものとは思えなかったようだ。苦笑が一転困惑に変わっていた。
「うん。後は領収書の処理は締め日があるから早めにしろとか色々言われる」
「お、おぅ……」
「なるほど……鍛えれば出来るのか」
「やりませんよ!? 今でさえあっぷあっぷしてるってのに!」
それは良い事を聞いたぞ。ロレインは未来のカイトが為政者として普通に振る舞えそうな事務方の才能を見せている事を知って、どこか楽しげな様子を見せる。それにカイトは非常に嫌そうだった。それはさておき。ロレインとてこんな事で時間を費やすつもりはない。単に久しぶりに目覚めた男への冗談という所だった。
「そうだな。今やるべきではない……今やるべきなのは、君が寝ている事で起きてしまった事態への対処だ。資料は用意しておいた。まずはそれを読み込んでくれ」
「了解っす」
兎にも角にもカイトは目覚めたばかり。状況は理解できていないのだ。というわけで、ひとまずは彼のために用意しておいた資料を読み込んでもらう事にする。そうして、しばらく。読み終えた彼が盛大にため息を吐いた。
「メハラ地方はまぁ、仕方がないとして……はぁ」
「ああ……さらに裏にはおそらく、という所だろうが。そちらは証拠を残していないだろうね」
「オレ、そこまで恨まれるような事しましたかね」
「輝く星はその時点で恨めしいものさ」
自身を害そうとする勢力に対して疑問を呈するカイトに対して、ロレインは苦笑気味に笑うだけだ。
「時代が君を求めている……その時点である程度の厄介は覚悟していた方が良いのだろうね」
「求めてほしくなかったんですが」
「そういうな。騎士の本懐だろう。国を、姫を、民を守るというのは。かつて君の血の繋がらぬ祖先がそうしたように」
「まぁ、そうですが」
それでもやっぱりオレは平和な方が良い。カイトの言葉にはそんな色合いが滲んでいた。とそうして一つ愚痴ったカイトであったが、どうやら諦めも付いていたようだ。
「どうします? どっちもある程度の荒事は起きるでしょう。が、下手に二方面作戦なんて見せた瞬間、向こうは一気に勢い付く。やるなら同時かつ素早く。向こうに情報が回る前に仕留める必要がある」
「だろうね……貴族達の方は君に任せる。どうせ彼らは使い捨ての駒だ。更に裏に居る奴らは今頃逃げている頃だろう。何より、君と君の騎士団に加え四騎士の家を動かせば戦力としてはなんとか出来るだろう」
「四騎士達も動け、と」
「彼らの方はもう完全復活している。そろそろ、君が害されそうになっていたという話があちらの耳に届く頃だ。スカーレット家は王族にも繋がる家。情報網であれば一番だろう。しかもグレイスはそういった隠し事には目ざとい女の子だ。家が隠しても無駄だろう」
言われていた事であるが、怪我の度合いであれば一番ひどかったのはカイトだ。彼がこの通り動ける十分に程度には回復している時点で、四騎士達も完全復活を遂げていたらしい。
なのでカイトが不在の間になにか起きていないかと四騎士達も情報収集に動き出す頃合いで、今回の暗闘が耳に入るのも時間の問題だった。そしてそうなればどうなるかは、ソラも聞いていた。それは何より、カイト自身が理解していた。
「で、暴走する前に動けと」
「そういうことだね。君の所は男達は聞き分けが良いんだが、女の子二人が聞き分けがない。が、君が統率を取る限り暴走はしない。あの騎士団は全員が君に忠誠を誓っている。君が目覚めた以上、好き勝手はしないさ」
「寄り合い所帯の痛い所ですか」
「そうだね」
<<青の騎士団>>と一つになっているカイトの騎士団であるが、その実は四騎士のエリート達に加えてシンフォニア王国から選りすぐりの騎士が集まった集団だ。なのでカイトというかすがいを欠くと若干連携を欠く所があり、状況次第では勝手に動く事が起きてしまうのであった。
「ま、それはわかった上でそうせざるを得なかったし、君なら出来ると判断されたから君の所に集まったんだ。今回は指揮官としての仕事に注力して貰う事になるだろうし、それがわかっていればこそ騎士達も奮起するだろう。士気の高い騎士ほど厄介な事は誰でもわかる。戦わずしてある程度はなんとかなるだろう」
「わかりました。なるべく交戦は避けるように指示しておきます」
「そうしてくれ。こんなくだらない事で戦力をいたずらに減らしたくない。ああ、今回の沙汰に関しては追って通達すると伝えてやってくれ」
「わかりました」
これで貴族達の方については片付いたかな。ロレインはカイトとの話に一区切りつける。そうしてそちらを終わらせた所で、今度はソラに向き直った。
「さて……それで我々の方だが。我々はメハラ地方へと潜入。一気に本丸を仕留める。本丸の目処もある程度は付いているのでさほど苦労はしないはずだ」
「大丈夫なんですか? 多分襲撃が失敗した事は伝わっている頃だと思いますけど」
「ま、それは伝わっているだろうね。おそらく今頃はこちらがおおよそを察知したと悟って各所から戦力をかき集めている頃だろう」
事が露呈してしまった以上、先にロレインが言っている通り出来る事は頭を差し出すか徹底抗戦しかない。頭を差し出すならまだしも、徹底抗戦になれば兵力や食料などを準備しなければならないのだ。今頃大慌てである事が察せられた。
「が、同時にそうなると集まって会議もせねばならない。そうしないと足並みが揃わないし、離反者が出ると困るからね」
「そこを一気に、と」
「そう……もちろんこちらも兵力を動かしはする。そうする事で一箇所に敵を集める事も出来るからね。とはいえ、こちらも急いで用意して向こうが完全に準備を整える前に叩く必要がある。出発は三日後。兵力に関してはすでに準備を整えて移動している……君らに任せるのは私の護衛だ。頼めるね」
「わかりました」
元々なにか大事に関わる事になるだろう、とソラ達は読んでいた。なので話が出た時点で請け負う事を承諾するという事で合意が取れていたのである。そうして後は綿密な打ち合わせが行われ、ソラ達は残り二日で大急ぎで用意を整える事になるのだった。
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