第3121話 はるかな過去編 ――北東棟――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、はるか数百年も昔のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。その時代には幸いな事に後に、八英傑と呼ばれる過去世のカイトが存在していた。
というわけで彼やその配下の騎士達、そして彼を庇護するシンフォニア王国の支援を受けながらも冒険者としての活動を開始させるソラ達であったが、なんと人類最強の一角を担うカイトとレックスが強大な魔族との交戦により負傷。療養するという事態が起きる事になる。
そんな中カイトを疎む貴族達やシンフォニア王国に制圧された地域の豪族達による暗躍を察知すると、ソラ達はそれを阻止するべく行動を開始。刺客と戦ったりして情報を集めていたわけであるが、それもある程度まとまったのかソラがロレインから呼び出され彼女の住まう王城北東の棟へとやって来ていた。
「……」
ここは本当に王族が住む棟なのだろうか。そんな様子でソラは内外に散らばる魔道具類を見ながらそう思う。そこかしこに歯車が転がっているのなぞ当たり前ではあるのだが、小型のゴーレムがそこらをうろちょろしているのには流石に言葉を失うしかなかった。
「このゴーレムって一体全体なんなんです?」
「ロレイン様の小間使……という所でしょうか。生活面のフォローならば我々で事足りるのですが、ロレイン様の趣味に関しては如何せん我々ではどうしようもない」
「ロレインさんの趣味……なんなんです?」
「古代史の研究……が中心だそうです。が、そこから端を発して古代の魔道具類の研究もなさっておいでです。実は地下研究所での古代の魔道具の解析はロレイン様が総指揮を執っておいでだったりします」
「へー」
確かにこのゴーレム達は今シンフォニア王国で使われている物とはちょっと違う様子があるな。ソラはそこらをせわしなく動き回るゴーレム達を見て、そんな印象を受ける。というわけでそんな小型ゴーレム達が行き交う通路を通って進むこと数分。北東の棟の二階。ロレインの執務室にたどり着く。
「ロレイン様。お客様をお連れしました」
「ああ、入ってくれ。鍵は……空けさせた」
「かしこまりました」
ロレインの返事を受けて、メイドが扉を開いてソラを中へと招き入れる。そうして執務室の中に入ったソラであるが、執務室については書類が散乱している以外散らかってはいなかった。
「……お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだ……ここに来た客はみんなそんな顔をするがね。ここは単なる書類仕事をする部屋だ。書類以外があっては邪魔にしかならないだろう」
「あ……すみません」
驚いた様子から、自身が何について驚いていたか悟られてしまったようだ。ソラはため息混じりに首を振るロレインの返答に対して恥ずかしげに頭を下げる。が、これにロレインは楽しげだった。
「良いさ。さっきも言ったが、ここに来る誰しもがそうだからね」
「にしても、凄いですね。なんだか色々と動き回ってて……」
「ああ、彼らの事か。凄いものだろう?」
「うおっ……」
楽しげに笑いながら自身の足元を指さされ、ソラが驚いたような声を上げる。気付かなかったらしい。これにロレインは気を良くした。
「ははは……ま、そういう感じなんだ。でもそのゴーレム達はその大きさにも関わらず、かなり高性能でね。さっき鍵を開けたのも彼らだし、こう見えて力も強い。荷物運びなんかも大丈夫だ。それに関しては感謝してるだろう?」
「まぁ……それに関してはこのゴーレム達は非常に役に立つかと。四体ぐらいいれば、タンスぐらいなら持ち上げてくれますので」
「と、いうわけさ」
だからといってここまで散らかさないで欲しいのですが。そんな様子を見せるメイドに対して、ロレインは楽しげに笑うだけだ。とはいえ、それぐらいには高性能らしい。
「へー……でもどうされたんですか? こんな高性能なゴーレム」
「自作した……と言えるようになれば良いんだけどもね。流石にそうは言えないさ」
「ということは、これは……」
「そう。古代のゴーレムだ……ノワールとかにも手伝って貰って、古代のゴーレムの復元を行ってね。かなり昔の話だが……それ以来、彼らに色々としてもらっているのさ」
「へー……」
どうやらかなり昔からこの古代のゴーレムは稼働しているらしい。時に球体と化してコロコロと転がって動いたり、開いて四脚となってカタカタカタと動いたり。はたまた中に仕込まれていたらしい触腕を器用に動かして隙間に入り込んだ書類を取っていたりするゴーレム達をソラは感心したように見る。
「ああ、そうだ。君はそういうことは無いだろうが……気を付けてくれよ。彼らを持ち帰ろうとしようものなら、痛い目に遭う事になるからね」
「そ、そんな事しませんよ」
「ははは。だろうけどね。時折馬鹿な奴が本城の方に行ったその子らを捕まえようとする事があるのでね。言っておいただけだ」
確かにわからないではない。この古代の小型ゴーレムはかなり物珍しく、そういった物珍しい物が好きな貴族達なら欲しがっても不思議はない。何体も動いていれば一体ぐらいくすねてもバレないだろう、と思ったとて不思議はないだろう。
が、そこは小さくとも古代のゴーレム。その高性能っぷりを遺憾なく発揮して迎撃してくるらしかった。そうしてこの古代のゴーレムはここが凄いだのと自慢話を繰り広げるロレインに、メイドが口を挟んだ。
「ロレイン様。差し出がましいですがお時間が差し迫っておりますので、本題に入られた方が」
「っと、それはそうだ。そんな事を話したくて君を呼んだわけじゃないんだ……で、本題だ。この間の刺客の始末では世話になったね。あちらで注目を集めてくれたおかげで、こちらの裏方仕事も上手くいった」
「ということは、裏でなにか動いてたんですか?」
「ああ。まぁ、後追いで教えて申し訳ないんだが、あの一件は裏では少し大々的に広めていてね。注目を集めてもらっていた」
とどのつまりは囮として使われていたみたいな感じか。とはいえ、その甲斐はあったようだ。
「そのおかげで、エクウス家に接触する事が出来た。彼らもやはりやりたくてやっているわけではないみたいでね。国に知られたとなって、すぐに頭を下げたよ」
「下げた?」
「私が行ってきた。もちろん、護衛は一緒だったがね。現地で事前調査をしてくれていた密偵と合流したよ」
「行ってきた? 近いんですか?」
「少し遠い……飛竜でも一日掛かる距離だ。が、足は色々とあるものさ。いや、君らに隠しても仕方がないか。エドナを借りてね」
なるほど。確かにこの国の果てから一瞬で移動出来るようなエドナだ。彼女の背に乗れるのならたしかに、どれだけ遠かろうと距離はさほどの意味を持たないだろう。とはいえ、それにソラは驚きを浮かべる。
「乗れるんですか?」
「ま、これでも昔からカイトの事も姉代わりとして見てきたからね。あの子も私の言う事を何かと聞いてくれるのさ。後それに、カイトが寝込んでいる時でもエドナは無事だからね。散歩ぐらいはさせてやらないと彼女も可愛そうだろう? だからカイトに頼まれていた事もあるからね。散歩のついで、みたいなものさ」
「はぁ……」
当人達がそれで良いというのなら、それで良いのだろうか。ソラはロレインの返答にそう思う。というわけで、そんな様子のソラにロレインは続けた。
「それは良い。ここで問題になるのは彼らがなぜこんな事をしたのか。そして次にどうするべきかという所だろう」
「はい」
「じゃあ、本題に入ろう。資料を用意しておいた。そっちを見てくれ」
ロレインはそういうと、先の小型ゴーレムに封筒を持たせてソラへと渡す。更に彼女が指を振るとまた別の小型ゴーレムが椅子を引っ張ってきて、ソラはそれに座って打ち合わせが開始される事になるのだった。
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