第3117話 はるかな過去編 ――暗闘へ――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、数百年も昔のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。その時代は後に統一王朝の末期から戦国時代と呼ばれる動乱の時代であった。
そんな時代に飛ばされてしまった一同であったが、その時代は幸いな事に後に八英傑と呼ばれる事になる八人の英雄達の一人である過去世のカイトが存在する時代でもあり、彼や彼の配下の騎士達。そして同じく後の八英傑の英雄達の支援を受けながらも元の時代に戻るまで冒険者としての活動を開始させていた。
というわけで冒険者としての活動を行うわけであるが、戦乱の中で負傷したカイトをきっかけとして彼とシンフォニア王国第一王女を狙う暗躍を掴むと、その阻止に向けて動いていた。というわけで、暗躍の一環で行われていた黒き森からの輸送隊襲撃を阻止したソラ達であるが、その二日後。騎兵達を連れ帰ったアサツキからの使者が拠点を訪れていた。
「あそこまで馬車で行けるんですか?」
「問題ありません。もちろん、表口からは入れませんが……特殊な客に関しては幾つかの出入り口があるのですよ」
アサツキからの遣いが乗ってきた馬車に乗せてもらったソラであったが、彼が疑問だったのはやはり裏通りであるというところだろう。どうやって狭い裏通りを馬車で通るのか。それが彼にはわからなかったらしい。というわけで行けるという使者の言葉に従って馬車に揺られることしばらく。大通りにあるとある店の中へと馬車が入っていく。
「あれ?」
「ここが裏口……というところでしょうか。アサツキ様が経営する店の幾つかの一つですよ」
「アサツキさん、ってそんないっぱい店持ってるんですか?」
「ええ。王都以外にも何店か」
いったいあのアサツキさんは何者なんだろうか。ソラは遣いの言葉にそう思う。とはいえ、アルヴァを呼び捨てに出来たり、彼の暗躍を請け負ったりとかなり重要な立ち位置に居る事は事実そうなのだ。敵対は得策とは思えなかった。というわけで、彼は今回は馬車で裏口からだからと同行する事にしたらしい二人に問いかける。
『二人はアサツキさん、って知らないのか? 明らかにむちゃくちゃ長生きしてるらしいんだけど……』
『ごめんなさい。何か王都の裏で暗躍を重ねたという大商人が居た事は知っているのですが……それがアサツキさんという方かまでは資料に残っていません。カイト様も当時の事を詳しく語られてはいませんでしたので……』
一応この時代にも大商人や豪商と呼ばれる人物が何人か居る事は後の時代の調べでわかっていた。が、その名前までは残っていない事も少なくなく、同一人物かもしれないとされた者が何人か居たらしかった。
『ってことはそっちの時代にはもう王都? からはいなくなってるって事か』
『そうですね……そもそも私達の時代のこの街は廃都となった後にカイト様が再興されたものです。なので町並みなども完全に様変わりしており、裏通りは完全にありません。おそらく内乱の折にどこかへ行ってしまわれたか……それともそれまでに亡くなられているか、でしょう』
確かに長く生きているからと一箇所に留まるというのもおかしな話か。ソラはスイレリアの事を思い出して、彼女が一箇所に留まっていたのはハイ・エルフだったから、それも大神官という要職だったからと納得する。
『そっか……でもあの人が死にそうには見えないんだけど』
『はぁ……私は詳しく見ていないのでなんとも言えませんが。強そう、という事ですか? それとも策が優れている?』
『どっちもかな……多分自分でもものすごい強いけど、策略使っても強いタイプ』
この策略が長生きした事によって培われたものか、生来なのかはわからないけれど。ソラはセレスティアの言葉にそう返す。と、そうして話しているとソラがふと気が付いた。
「あれ? そういえば店に入ったのにまだ止まらないんですか?」
「え? ああ、今は地下を進んでいますので……もうしばらくお待ち下さい」
「地下? ああ、そういう……」
言われて、ソラもなるほどと納得する。とどのつまりこの王都には住民達にも知られないように地下道が張り巡らされており、アルヴァを筆頭にした知られてはならない上客達はこうやって各所にある秘密の出入り口から地下道を進んでアサツキの店を目指すのであった。と、そんな話を聞いたソラに今度はセレスティアが密かに教えてくれた。
『この地下道ですが……私達の時代にも残っていました。ただ……』
『どうしたんだ?』
『一説には後の王都陥落の際、この地下通路を使って攻め込まれたのだとか。ジウェの動乱において学園都市の防衛機能が停止させられたのも、この地下通路が原因となってしまっています』
『え? もしかして……』
『ええ。これは王都から脱出するための避難路でもあったわけですね。ですが時と共にその情報が流れてしまって利用されてしまった……というわけですね』
『潰せよ……無理か』
流石にこの王都全域に張り巡らされた様子の地下通路だ。それをすべて埋めるとなると相当な労力が必要だろう事は想像に難くない。カイトがやらなくても無理はなかっただろう。
そうしてそんな話をしながら馬車に揺られていくことしばらく。地下通路に入って五分ほどで馬車が幾つもの馬車が停車している所に停止する。
「到着しました。こちらへ」
かなり近かったな。ソラは表通りの店からここまですぐに到着した事についてそう思う。というわけでアサツキの使者に案内され今度は表の一般客向けのエリアを通らず一気に最上階まで突き進む。
「アサツキ様。客人をお連れしました」
『通せ』
どうやらここに来る客はすべて客人で統一されるらしい。名乗っていながらも天城などの名ではなく客人で話される言葉に、ソラはそう思う。そうして先と同じく漆黒の幕をくぐり抜けて、三人は奥へと入っていく。
「む? おぉ、今回はレジディアの姫とマクダウェルの騎士も一緒か」
「我らをご存知なのですか?」
「ある程度はアルヴァの奴から聞いておるよ。これでも王国の暗部にも関わる身故な。それに、公然と支援出来ぬ案件には妾が関わる事も多い。ある程度の秘密は共有されておる」
ある程度はどの程度だろうか。セレスティア達は人を食ったように笑うアサツキの言葉にそう思う。とはいえ、下手を打つ事は出来ない以上こちらから言うわけにもいかなかった。そしてアサツキとしても今はまだ突っ込むべきではないと思っていたらしい。これ以上は何も言わなかった。
「ま、それは良かろう。兎にも角にも今回お主らを呼んだのは、先の騎兵共の襲撃に関してじゃ。まず後で聞き返されたりしても面倒故、詳細はそこの資料を持っていけ」
「あ、はい……ありがとうございます」
やはり王国の暗部にも関わらせられるだけの事はあったのか、アサツキはかなり優秀らしい。たった二日にも関わらずおおよその仕事を終わらせている様子だった。
「で、その上で今それを読まれても面倒なので結論から言えば、やはりメハラ地方の豪族共の暗躍で間違いあるまい。こちらに関しては妾……というかアルヴァの小僧がなんとかするので気にせんで良い」
「はぁ……じゃあ、自分達は何を?」
気にしなくて良い。それで片付くのなら別にここまで呼ばなくても問題はないのだ。呼ばれた以上、それは仕事があるからに他ならなかった。
「うむ……遠方についてはそれで良い。が、先手は打たれておってな。王都に刺客が潜んでおる。その刺客をどうにかしてもらいたい」
では依頼の話に入るとするか。アサツキが手を鳴らして、人を呼び寄せる。そうして部屋の大机に王都の詳細な地図が置かれ、作戦が話される事になるのだった。
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