第3113話 はるかな過去編 ――騎馬兵――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、数百年昔のセレスティア達の世界へと流されてしまったソラ達。そんな彼らは幸運にもこの時代に存在していた過去世のカイトと遭遇する。
そうしてそんな彼や彼の配下の騎士達。そして彼と同じく後の世に八英傑と呼ばれる事になる八人の英雄達から支援を貰いながら冒険者としての活動を開始させる事になるのであるが、その最中。カイトの負傷をきっかけとして彼とシンフォニア王族のロレインを狙う暗躍が起きている事を知らされる事になる。
というわけで、その阻止に向けて動くべく一同は裏通りの酒場を取り仕切るアサツキという謎の女主人から情報を手に入れると、次はその指示に従ってカイトの傷を癒やすための回復薬の輸送を襲撃するという一団の阻止に動いていた。
「ふぅ……」
「……やる気っすね」
「やる気……だな」
「やる気ですね……はぁ」
今回の一件であるが、外に露呈してしまえばシンフォニア王国でもかなりのスキャンダラスな一件になってしまう。しかも下手人はシンフォニア王国でも数ある騎兵隊でも有数の騎兵を有する二家というわけで、そのダメージは計り知れない。それは困るので襲撃される前に横槍をして欲しい、というのがアサツキの依頼だ。
とまぁ、そういうわけなのだが。騎兵で有名な二家を止めるべく動いたソラたちに対して、イミナは一人シュバル家とエクウス家を叩けると珍しく喜び勇んで参戦していたのであった。というわけで、盛大にため息を吐いたセレスティアに、イミナが口を開く。
「大丈夫です、セレスティア様。決して殺しはしません。もちろん馬には何の恨みもないのでそちらには一切手は加えませんとも」
「本当ですね」
「もちろんです。マクダウェル家の誇りにかけ、訳あって非道を成すならそれを糺すだけです。それが両家であるなら尚更、私がしてやらねばならぬでしょう」
「はぁ……」
それなら良いのですが、顔は笑っていますよ。にっこりと笑いながらもっともらしい事を口にするイミナにセレスティアは再度特大のため息を吐く。
「まぁ、良いでしょう……兎にも角にも襲撃を避けねばならない事は事実。貴方と瞬が今回の作戦の要です。それは忘れないように」
「無論です」
相手は騎兵隊。騎馬という機動力に長けた戦力だ。瞬間的には冒険者の方が早いが、中長期的になると追いつけなくなる。そしてその瞬間的で一番長けているのは瞬とイミナの二人。由利が矢で出鼻を挫いて、そこに瞬とイミナが強襲し混乱。セレスティアが主戦力として――全員で出るわけにはいかないのでリィルは留守番でソラは由利の護衛――強撃する、という形であった。
「ええ……由利。状況は?」
「動いてない……ただ馬には乗ってるから、いつ出てもおかしくはない」
「そうですか……ふむ」
あの両家がこの襲撃に動くのは必ずなにか理由があるはず。セレスティアは未来の戦いにおいても有名な騎兵隊として活躍する両家がこんな外道な行いを好き好んでするとは思えず、その理由に思考を巡らせる。しかしそんな彼女に今度はイミナが告げた。
「今はひとまず、襲撃を阻止するべきかと。奴らがこんな行いを好き好んでするはずはない。それは私が誰より理解しております……だからこそ、奴らの態度などからわかる事もあるでしょう」
「……そうですね。兎にも角にも襲撃を阻止し、アルヴァ陛下らに引き合わせる事が重要」
なんだかんだ言いながらもイミナが張り合うのは相手が騎士だと思えばこそだ。なので騎士として、主君の無道があるのならそれを諫めるのも騎士の仕事だと思っていた。だからこそ、主君の主君たるアルヴァが出てくれば口も開きやすいだろうと彼女も考えていたようだ。
「はい……奴らが何を考えこんなことをしたのか。それは後で考える事です」
「そうですね……」
「っ、走り出した」
「では、作戦開始です」
由利の言葉にセレスティアが一つ頷くと、由利が弓に矢をつがえて速射する。そうして射掛けられる無数の矢に、騎兵隊が思わず馬の足を止めた。
「何だ!?」
「矢!?」
「どこだ!?」
「どう! どう! 落ち着け!」
やはりいきなりの襲撃だ。騎兵隊の騎兵達が暴れる馬を落ち着かせるべく苦心する。と、そんな彼らの前に、雷を纏った瞬とイミナが立ちふさがる。
「瞬、頭を潰せ。道中は私がなんとかする」
「了解!」
狙うべきは騎兵隊の隊長格。隊列などから誰が隊長格かを当たりを付けていた二人は即座にその頭を潰す事にしていたのだ。というわけでイミナがその場で腰を落として拳に魔力を乗せる。
「ふぅ……はぁああああ!」
いくらやる気を漲らせていようと、イミナとて戦場に立てばやることを理解している。というわけで、彼女は魔力を乗せた拳を連打し、遠距離から困惑する騎兵達を潰していく。が、やはり流石はマクダウェル家をもライバル視する著名な騎兵隊というわけではなかったらしい。
「ちっ!」
「相当な名うてか!」
「む!?」
隊長格まで半分という所だろう。それほどの数を潰した所で、騎兵達はイミナの拳打に対応してきたらしい。確かにこちらは殺さないように手加減はしていたが、それでもイミナからしてもびっくりという腕前だった。そうしてイミナの拳打に対応した騎兵達が馬を動かし、瞬の前に立ちふさがる。
「隊長へ行かせるな!」
「ヤツをここで防げ!」
「ちっ!」
どうやら流石というわけか。瞬は自身の前に物理的に割り込んできた騎兵達に舌打ちしながら草原を滑りながら停止。放たれる刺突の雨に対して地面に槍を突き立てて回避する。
「はぁ!」
「ふんっ!」
「くっ」
やはりこの時代の兵士は普通の一般兵と比べても格段の強さがあるらしい。瞬は続けざまに放たれる槍による刺突に僅かに顔を顰めながらもバックステップで回避。距離を取る。そうして距離を取った彼の所に、騎兵達が馬を走らせて追撃していく。が、これになにかを察したのか隊長格と思しき兵士が声を荒らげた。
「っ! 馬鹿者! そいつは囮だ!」
「ご明察です!」
「っぅ!」
隊長格と思しき兵士が声を上げると同時。セレスティアが空いた隙間をくぐり抜けて強撃を仕掛ける。とはいえ、流石にこれは想定出来ていたらしい。隊長格が顔を顰めながらも防ぎ切る。そうしてその一幕を見ながら、瞬が雷を纏って加速する。
「隊長!?」
「いかせんよ!」
元々これが狙いだ。そう言わんばかりに瞬が騎兵達の裏を取る。そうしてそちらに気を取られた瞬間、今度はイミナが狙い撃つ。
「ぐっ!」
「気を引き締めろ! こいつら、普通じゃない!」
おそらくこいつらはかなり鍛えられた冒険者だ。兵士達もここでそれを察したようだ。そうして、瞬達は騎兵達との戦いを本格化させる事になるのだった。
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