第3107話 はるかな過去編 ――情報収集――
『時空流異門』と呼ばれる現象に巻き込まれ、過去のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らであったが、幸いな事にその時代には後に八英傑と呼ばれる八人の英雄の一人となる過去世のカイトが存在していた。
というわけで彼やその配下の騎士達、同じく後の八英傑の英雄達の支援を貰いながら元の時代に戻れるまで冒険者としての活動を繰り広げる事になった一同であったが、その最中。魔族との戦いによって大怪我を負い昏睡状態に陥ってたカイトを狙う暗躍の情報を掴むと、それを阻止するべくシンフォニア王国の王族をバックに情報収集に臨んでいた。そうして同じく阻止に動くおやっさんからの情報で大通りに面した酒場の主人を訪ねていた二人は酒場の主人から改めて話を聞いていた。
「待たせたな……店もあるからあまり抜けられなくてな」
「いえ……それで裏通りの酒場ってのは?」
「その前に……一応確認だがお前さんら、数ヶ月前に来たばかりの新人だったな?」
「ええ、そうですけど……」
この酒場の主人は色々と各方面に顔が利く様子で、自分達の事も知っていて不思議はない。ソラはそう思ったため、素直に頷く事にしたようだ。これに酒場の主人も一つ頷いた。
「そうか……ってことはお前らが噂になってる新進気鋭の奴らか。そうでもなけりゃ、アルダートのヤツが使いっ走りにはしないか」
「「噂?」」
「来たばっかりにも関わらず腕利きの冒険者達が居る……そんな噂が流れてるぞ。大方お前さんらで間違いないだろう。男二人に女何人か……その女共もものすごい腕利き、って話がな」
「「……」」
ああ、これは間違いなく自分達だろう。ソラも瞬も酒場の主人が語る噂がおおよそ自分達以外該当しないだろうと察する。どうやら交流を少し避けていた間に、それなりには存在が広がってしまっていたようだ。
「とはいえ、俺が聞いてる話ならお前らなら安心だろう……女連れてこなかったのは意図的か?」
「酒場なんで……一応」
「正解だ。特にこれから紹介する裏通りには女を連れては行くな。それがもしお前ら以上の腕利きでもな……面倒は起こしたくないだろう。特に噂じゃえらいべっぴんさんも居るって話だからな……馬鹿は相手の力量も察さず手を出す」
やはり男二人で来て正解だったか。ソラも瞬も見目麗しい女性達を騒々しい酒場や治安が悪いと思われる裏通りに連れて来る愚は理解していた。というわけで男二人だけで来ていたのであったし、それが地元住民からしても正解だったようだ。
「それは良いだろう。地図持ってるか?」
「はい……これです」
「よし……お前らが行くべき酒場はこれだ。裏通りの『青き小鳥の宿屋』」
「……随分可愛い名前っすね」
「主人は女だ……ま、手を出そうとすると周りのヤツか主人にボコボコにされちまうけどな」
ははははは。酒場の主人はこの『青き小鳥の宿屋』の女主人をよく知っているらしい。楽しげに笑っていた。そうして、そんな彼が件の女主人についてをさっと教えてくれた。
「俺も昔は世話になった、気立ての良い女主人だ。この大通りに店を出すに当たっても口利きしてくれたぐらいのな」
「へー……どんな人なんっすか?」
「ん? まぁ、美人は美人だ……が、腕っぷしは間違いなくヤバい。下手すりゃそんじょそこらの冒険者が束になって勝てねぇんじゃねぇか? あら元は軍属じゃねぇか、ってのが俺らの中の噂だ。真実はわからねぇがな。アルダートのヤツが若い頃に聞き出そうとしたみたいだが……答えは掴めてないみたいだな」
「「……」」
流石に女だてらに裏通りで酒場を経営するわけではないのだろう。ただ彼らが若い頃から居るという事なのだから、おそらく人間族ではない事が察せられた。と、そんな事を笑いながら語る酒場の主人であったが、すぐに気を取り直す。
「っと、そりゃどうでも良いな。重要なのはそこじゃない……お前ら、『清浄符』かそれに類する道具は持ってるか?」
「『清浄符』?」
「なんだ、知らないのか。珍しいな」
そこまでの冒険者でありながらこれを知らないとは。ソラと瞬が揃って小首を傾げたのを見て、酒場の主人が驚いたような顔を浮かべる。とはいえ、彼らが数ヶ月前に来た事は知っていたのでもしかしたら別の名前などで知っていたのかもと主人は思ったらしい。
「空気に毒が混じってたりする時に使うもんだ……こうやってあて布をマスクみたいにして使うんだが」
「あー……なるほど。そういうのなら拠点に帰ればありますね」
「だろうな……まぁ、大丈夫だとは思うが……そこに行くまでの道で馬鹿なドラッガーが薬を燻してる事があってな。しかもやっすい癖に効力がバカ高いヤツ。掃除されてりゃ良いんだが……」
「その掃除は……」
「そりゃ、掃除は掃除だ。わかるだろう?」
瞬の問いかけに対して、酒場の主人は口にさせるなと言わんばかりの様子で笑う。とどのつまり存在そのものを掃除――ただし殺されるまでは至らないが――されていれば大丈夫だが、そうなっていなければその横を通り抜けないとならないかもしれない、という事なのだろう。二人はそう理解した。
「……ま、そいつはどうでも良いだろう。暇だったら掃除してくれてても良いぞ。邪魔なゴミだからな」
「は、はぁ……」
「ははは。冗談だ。真に受けんな……で、こいつが紹介状だ。あの女主人は表立っては王国と関わらないが、裏じゃカイトやらを支援してる筋はわかる女だ。頼ってこい」
酒場の主人はそういうと、机の中から自身の紹介状を手渡す。そうして、二人はこの日の活動を終わらせて翌日の夕方に裏路地へと繰り出す事にするのだった。
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