第3106話 はるかな過去編 ――情報収集――
『時空流異門』と呼ばれる現象に巻き込まれ、数百年も昔のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは幸いな事に過去世のカイトに遭遇すると、その彼のは以下の騎士達や後にカイトと共に八英傑と呼ばれる事になる英雄達の支援を受けながら元の時代へ戻るまで冒険者としての活動を行う事になっていた。
その最中。魔族との戦いにより大怪我を負ったカイトを狙う何者かの暗躍の情報がもたらされた一同は、その阻止に動くシンフォニア王国国王アルヴァや王都の冒険者を統率するおやっさんらと共にその阻止に向け動き出していた。
「そう言えばこっちで酒場って本当に縁のない存在になってましたね」
「ん? そういえば……そうだな」
ソラに言われて思い出してみた瞬であったが、この世界に飛ばされてから数ヶ月。ほぼほぼ酒場には足を運んでいなかった。もちろん、これは酒を飲みたいというわけではなく冒険部の冒険者達や外部の冒険者との交流や情報収集の一環で行く事があるというだけだが、この世界に来てからはその余裕が今まで無かったのだ。
「まぁ……何より金銭的な余裕が無かった事も大きいか。如何せん金が掛かるからな……」
「それはそうっすね……まぁ、今はなんとか貯まったわけっすけど」
ここまで足掛け数ヶ月迷宮攻略に臨んでいたわけであるが、その甲斐あってなんとか拠点の改装に必要な資金はかなり貯まっていた。そこに今回の一件で動けなくなる事もあったため王国から支度金と先の討伐の一件での報酬を合わせれば、十分に資金は貯まったのであった。
「といっても、行くわけじゃないがな」
「そうっすね……今回は特例として、って感じっすけど」
「ああ……えっと……どこだった?」
「今日は手始めなんで、大通りの酒場っすね。ここは一番治安が良い所らしいし、兵士達も飲みに来るらしいから安心安全という所っすけど」
「そうだったな」
さて今二人が何をしようとしていたかというと、言うまでもなく今回の一件の情報収集だ。情報収集なら各地を渡り歩く冒険者達の情報網は非常に頼りになる。
そういった情報が集まるのが酒場で、酒場の主人が情報屋を兼ねている事もあったのであった。というわけで、おやっさんからの要請でここから数日掛けて王都の酒場を渡り歩いて、情報を集めようというわけであった。そうして二人は大通りに面した酒場へと入る。
「いらっしゃいませー! 二名様ですか?」
「ああ……どこか呑める席は空いてるか?」
「はーい。じゃあ、カウンター席で良いですか?」
「それで頼む」
店に入るなり出迎えてくれたウェイターの女の子の言葉に、瞬はおやっさんから教わった通りに答える。基本酒場は騒々しい様子で、中心付近は飲むというよりも自慢話や武勇伝を話して騒ぐという色合いが強い。が、そうではなく色々とあってしんみりと飲みたいという人も居るわけで、そういう場合には呑める席と頼めばカウンターに案内してくれるようになっていたのであった。
というわけで中央の喧騒からは少しだけ離れたカウンターに案内された二人であるが、そこでは老齢の主人が立って同じ様に静かに飲みたいという客の相手をしていた。
「いらっしゃい……何飲む?」
「高めのを二つ……俺はロックで。銘柄は任せる」
「俺は……果物酒。炭酸割り。こっちも銘柄は任せます」
「ほう」
どうやら訳ありらしい。若い男二人で来て高い酒を頼むのだ。何かわけがあると主人も察するには十分だったようだ。というわけでまずは酒場の主人としての仕事を手早く終わらせると、瞬には琥珀色の液体が注がれたグラスを。ソラには泡の立つ黄金色の液体が注がれたグラスを差し出した。
「ほらよ。ストの十年物とサンベリーの炭酸割りだ」
「どもっす」
「ありがとう」
「で? アルダートの所の遣いか」
酒場の主人はやはり情報屋としての側面から、今の状況がわかっていたらしい。二人の身なりや状況からそうだろうと当たりをつけていたようだ。
「よくわかりましたね」
「これでも酒場の主人をしているからな……それにここはカイトも時々利用するんでな。ヤツの情報を手に入れようって輩も来る」
「……それは」
「が、今回の一件に関しちゃ逆にそれ故にこそ俺の所には来ていない。俺があいつの側だってのはそれなりには知られているからな」
カイトの情報を欲する者が来るのであればここにも来たのでは。そう思い突っ込もうとしたソラであったが、それ故にこそ逆にここは避けられていたようだ。とはいえ、そうなると一つの答えがあった。
「ということは、暗躍そのものは事実と」
「だろう。俺を……この酒場を避けるということはそっちにバレちゃマズい話が動いてるってわけだ……裏通りの酒場へ行け。そっちにもカイトを支援する酒場がある……もちろん、密かにだがな」
酒場の主人はそう言うと、二人に向けて一通の封筒を取り出す。
「紹介制の酒場……ってわけじゃないが、情報が欲しい場合は個室を用意してくれる酒場がある。詳しい場所は後で裏に来な。教えてやる」
「ありがとうございます」
どうやら二人が来る事がわかっていたため、先んじて色々と用意を整えてくれていたらしい。そうして二人は情報料と更に数杯酒を引っ掛けて、一度外に出るフリをして裏手に回る事にするのだった。
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