第3105話 はるかな過去編 ――情報収集――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、過去の時代のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らであったが、何の因果かそこは後に八英傑と呼ばれる英雄の一人として名を残す過去世のカイトが居る時代であった。
そんな彼との出会いや彼の配下の騎士達。そして同じく八英傑として後に名を残す若き英雄達との出会いを経ながらも元の時代に戻るまで冒険者としての活動を開始した一同であったが、その最中。カイトを狙う暗躍が起きているという情報がもたらされた事により一同は王族を筆頭にしたカイト守護派と協力し、昏睡状態のカイトの守護に奔走する事になっていた。
「ってな塩梅……らしいです。何か知ってます?」
「ふむ……」
ソラの問いかけに、イミナは自身の記憶を手繰る。やはりカイトの歴史となるとその多くはマクダウェル家に残っていた。なので彼女に聞くのが一番正解に近かった。というわけで、彼女は少しだけため息を吐いて頷いた。
「はぁ……ああ。いくらかは知っている。この時代だ。先に瞬が防衛戦に参加した砦のように、地脈が合流する場所で、この時代のシンフォニア王国にとってどうしても見過ごせない場所は他国の場所はいくらかある。それに関しては未来でも当然変わらない。幾つかは、私も訪れた事がある」
やはりこれが侵略戦争の側面があるからだろう。語るイミナの言葉には若干の苦味が含まれていた。と、そんな彼女の言葉にソラが気が付いた。
「この時代の? 未来だと地脈の流れを変えたりしたんですか?」
「いや、単に未来においてはそのままシンフォニア王国の領地になっているというに過ぎん。この時代の戦いによってな」
「そうっすか」
地脈の流れであるが、これは実は変えようとすれば変えられない事はない。が、おおよそ国家事業にも類する大事業になり、よほど見過ごせない場合を除いてされる事はまずなかった。
しかも地脈の本流は変えられないのであくまでも支流を少し動かせるという程度。割に合わない、というのがソラの正直な感想であった。それはそれとして。時代から色々と分かる事はあったらしい。
「……それでカイト様を狙う輩だな。確かにこのリストにある国はどれもこれも武力制圧を受けている。カイト様という圧倒的な力を背景にしてな」
「ってことは」
「ああ。その中でも幾つかの国の幾つかの貴族はカイト様によって直接滅ぼされている。無論、その大半は魔族と通じていたりして、潰されても仕方がない家ばかりだがな」
「そりゃそうっすか」
未来のカイトならいざ知らず、この時代のカイトは政治的なあれやこれやに関わろうとは思っていない。なので基本的には命令を受けて動く軍人に近く、魔族に通じていると確定したが故にロレインらの命令で動いたと考えて良さそうだった。というわけで、そのロレインから言われていた事をソラが思い出した。
「そう言えばロレインさんから去年起きた戦いについても聞いたんですけど」
「去年……となると比較的最新か。これか……」
資料は時系列ごとに纏められており、ロレインいわく現段階でシンフォニア王国が最後に『侵略戦争』を行ったのは去年で、カイトもそれに参加していたとの事であった。そうして資料を見て、イミナは盛大にため息を吐く事になった。
「メハラ地方統一か……」
「あれですか」
「みたいですね」
「有名なのか?」
名前を聞いた途端にあちゃー、というような顔をしたセレスティアに、ソラが問いかける。これに彼女ははっきり頷いた。
「ええ……メハラ地方というのはその領域の大半が草原なのですが……そんな所に小国が幾つも乱立していたそうです。名前の由来は秋になると草原が赤みがかった色を帯びる特殊な草が生い茂っているから……とかなんとか」
「赤き草原と言われている」
「へー……」
どんなのだろうか。ソラは赤い草原というのがいまいち想像出来ず、少しだけ興味深い様子を滲ませる。とはいえ、そんな地方は今荒れていた。
「そんな赤き草原ですが、元々は統一王朝が武力を背景に小競り合いを止めていたんです……それが統一王朝というまとめ役がなくなれば、後はどうなるか……わかりますよね」
「元々小競り合いしてた以上、また小競り合いを開始するだけ……ってわけか」
「らしいです。それでその後にまたまとめ上げたのが、シンフォニア王国との事です」
「地脈は関係ないのか?」
「地脈も重要な支流がありますね。ただ支流なので率先して攻め込む必要は無いでしょう……どちらかというとあそこが荒れる事による治安の悪化の方が見過ごせないかと」
ソラの問いかけにセレスティアは政治学で見てどうか、という話を行う。これにイミナが教えてくれた。
「この時代……になるのだろうな。さっき言った小国が乱立しているわけであるが、そのいくらかはシンフォニア王国が関与するより前に滅んでいる。そして滅んだ国の残存兵の末路なぞ限られる……後はわかるだろう」
「その残党が盗賊化してシンフォニア王国にも入り込んで悪さをした、と」
「公にはそういう話でシンフォニア王国は攻め込んでいる……公には、と言うが私もそれが本当の理由かそれとも嘘なのかは知らんが」
あくまでもイミナは第二期シンフォニア王国に仕えるマクダウェル家の末裔だ。なのでこの時代の事については一族伝来の歴史書に記されている程度しか知らない事は多かった。
「となると……色々と恨みは買ってそうですね」
「だろう。現存した貴族でもカイト様を恨んでいる国は少なくないだろうな。あまりに彼は圧倒的だったそうだからな」
「まぁ……」
そうだろうなぁ。ソラは苦笑を滲ませるイミナ同様に苦笑を滲ませる。カイトはやらないだけで、その実彼一人でも十分に小国は陥落できる。それが騎士団まで連れて来られては勝ち目なぞあろうはずもなかった。というわけで、一同は一旦先年起きた戦いを主軸に調査を行う事を決めるのだった。
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