第3104話 はるかな過去編 ――ミーティング――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、過去の時代のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らであったが、何の因果かそこは後に八英傑と呼ばれる英雄の一人として名を残す過去世のカイトが居る時代であった。
そんな彼との出会いや彼の配下の騎士達。そして同じく八英傑として後に名を残す若き英雄達との出会いを経ながらも元の時代に戻るまで冒険者としての活動を開始した一同であったが、その最中。カイトを狙う暗躍が起きているという情報がもたらされた事により一同は王都の冒険者の中でもカイトに近い者たちと足並みを揃え、アルヴァを筆頭にした王族陣営としての行動を開始。ひとまずアルヴァとその娘にして第一王女でもあるロレインとの間で情報共有を行っていた。
「さて……それで話を進めようか。兎にも角にもカイトを恨んでいる者は多い。元貴族に始まり、末端の兵士でもね。それこそ彼が切り捨てた兵士は十や二十では事足りないだろう」
「……」
なにせ人類でも最強格のカイトだ。その彼の武力が普通の兵士に振るわれればどうなるか、というのは想像に難くない。とはいえ、それについてはソラは単なる事実として感じているだけだった。
「あまり驚かない……というかそうだろうと思っているという程度か。未来でも彼は相変わらずなのかもしれないね」
「というか、私としてみればこの時代のカイトを相手にする方が良いよなぁ、と思うばかりですよ。未来のあいつは戦闘力若干低下で厄介さマシマシなので」
「ほう……例えば?」
「例えば? そうですね……一人で総力戦が出来る、とかなんとか」
「一人で総力戦? 意味がわからないが……特殊能力がかさ増しされたという所か」
単なる興味本位で聞いてみただけのロレインだったが、そもそも本筋でもなかった事もありそう認識しておくだけに留めたようだ。何より、そんな特殊能力をこの時代のカイトに習得して貰っていられる時間は無い。そしてそんな雰囲気を読み取って、ソラも笑うに留めた。
「そうですね……簡単に言えば単体との戦いなら今のカイトが上。集団を相手にするのなら未来のカイトの方が上、ってな感じです」
「なるほど。それはそれは……いや、それは……」
あの戦闘力より少し下がっているとはいえ、その代わり集団との戦いに長けたというのだ。正直あの戦闘力が多少落ちた所で大した問題にはならない事が身に沁みてわかっているロレインとしては壮絶に顔を顰めるばかりであった。
「いや、考えるのはやめておこう……とりあえず本題としてはその我々が攻め込んだ国やその領土を納める貴族達……そのリストがこれになる。この内カイトを狙いそうなのが、上段の国だね」
「……あんま多くないっすね」
見た所、今までの内に七竜の同盟が主軸となり攻め込んだ国や領土は両手の指も必要ないほどの極少数という程度だった。
「多くないって……まぁ、事実だけれどもね。魔族達も策略を練るより武力制圧の方が楽というヤツが多い。だから攻め滅ぼさないとならなかった所というのは結局野心を見せた国になるか、自分の国を治められる力が無かった国になる。必然、多くないのさ」
「はぁ……でも考えてみれば攻め滅ぼしたら統治しないといけないから、なるべくはしたくないですもんね……」
確かに考えてみればそんな頻繁に攻めたいわけがないな。ソラは道理を考えてみて素直に納得出来たのでそう口にする。と、そんな彼の言葉にロレインは目を丸くする。
「ほう……未来とはいえカイトの下で働いているという事だから普通ではないと思ったが。存外考えているじゃないか。そうだ。侵略戦争なんぞ根本的には割りに合わん事業だ。超長期的に、同化政策でも行えるのなら話は違うが……それはおいておくか。今回はやらない方が損になるから攻めたがね」
「ふむ……この内野心的に攻めてきたのは?」
「後ろの資料に全部纏めているから、帰ってから読んでくれ。要点を纏めているし、君が全部覚えて帰るというのも非効率的だからね」
「それもそうですか」
「それに、もしわからなければその分からないを理由に私の所に来れる理由にもなる」
「あ……」
その手もあるのか。ソラはロレインの言葉にハッとなって目を見開く。ここで彼女が資料を渡すのにはそういった側面もあったらしい。
「ま、そういうわけでね。カイトが復帰するまでには何度か来てもらう事になるだろうし、復帰してもそれで終わりとはならない」
「そうなんですか?」
「事の性質上根本的な解決は望めないが、次を起こさないようにはしておく必要がある。カイトには回復次第、それを周知させるために動いてもらわねばならないからね。そうなると我々が裏でこそこそ動くしかないのさ」
「あー……」
これがもし単にカイトが昏睡状態になっている間を狙う貴族達であるのならカイトの復帰と共に大人しくなるだろうが、逆にそうでないのなら噴出した時に対処せねば後々面倒になりかねなかった。というわけで、おおよその必要な部分の共有が出来たと判断。アルヴァが一つ頷いた。
「うむ……まぁ、本来客人である君らにこんな話を頼むのは筋違いも良い所ではあるのだが……君達の立場を考えても関わらないのは問題だろう」
「あはは……いえ。私達としても過去に未来にとカイトには世話になりっぱなしなので。ここで一つ恩返しになればと」
「そうか。ならばあれの義理堅さに感謝しておく事にしよう……っと、そうだ」
ソラの返答に一頻り笑ったアルヴァであったが、そんな彼がなにかを思い出したかのように机の中から取り出したハンドベルを鳴らす。すると一人の老齢の執事がやって来た。
「お呼びでしょうか」
「彼に割符を。それと例のアレは?」
「準備出来ております……試験も問題なく出来ております。おそらく問題無いかと」
「そうだったな……なら頼む」
「かしこまりました」
「?」
何がなんだかソラにはさっぱりであったが、アルヴァはなにかの手配をしてくれていたらしい。老執事はアルヴァの言葉に腰を折ると、その場を後にする。そうして待つこと暫く。老執事が一つの品の良い革の鞄を持ってきた。
「天城様。こちらを」
「これは……?」
「中を見てくれ」
「はぁ……」
アルヴァの指示にソラは素直に従って、カバンの中身を取り出してみる。すると中には何枚かの金属板が入っていた。
「この王城への入城許可証だ。無論、限りはあるが……いちいち受付で要件を申し出ても手間だし、それで厄介な手を打たれる事もある。少なくとも優先的に私かこれに取り次げるようには差配される」
「我が家なのになぜここまで警戒せねばならないのか、と私はしきりに疑問なのだがね」
「お前の塔よりはマシだろう……」
「私の塔は王族の私的なエリアだ。警戒が必要になるのは当然さ」
「それで城主たる私さえ警戒せねばならないのは話が違うと思うのだがな……」
どうやらカイトの近くには今も昔も一癖も二癖もある人物が集まっていたらしい。アルヴァが盛大にため息を吐いていた。と、そんな彼であったが気を取り直してソラに告げる。
「まぁ良い……兎にも角にもそれがこの王城への入場許可となる。また先にセレスティア姫とイミナ卿に協力を仰ぎ、彼女らの物についてはそれぞれレジディア城でも使える物を手配した」
「良いんですか?」
「向こうも良いと承諾している……はるか遠き未来とはいえ彼の国と我が国の子孫だ。そして未来において我らと同じく戦う戦士でもある。拒む道理なぞありはしない」
ソラの問いかけに対して、アルヴァははっきりと問題無しを明言する。そして事実レジディアも問題無いと認めればこそ、両国で使える入城許可を発行したのであった。
「ありがとうございます」
「うむ……ああ、そうだ。君達に言う必要もないが、これは君らに反応する魔石が取り付けられている。が、なくさないようにな」
「はい」
これは大切に仕舞っておかないと。ソラは鞄をしっかりとたすき掛けのように掛ける。そうして、彼は王城の入城許可証を手に拠点に戻るのだった。
お読み頂きありがとうございました。




