第3102話 はるかな過去編 ――王城――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、過去の時代のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らであったが、何の因果かそこは後に八英傑と呼ばれる英雄の一人として名を残す過去世のカイトが居る時代であった。
そんな彼との出会いや彼の配下の騎士達。そして同じく八英傑として後に名を残す若き英雄達との出会いを経ながらも元の時代に戻るまで冒険者としての活動を開始した一同であったが、その最中にもたらされたのはカイトが大怪我を負って行動不能に陥っていたという情報と、その隙を狙って動き出したという貴族達の暗躍の情報であった。
というわけでそれの阻止に向けて動くおやっさんの要請を受けて協力する事になったソラ達であったが、まずはカイトの状況を確認するべく王城を訪れ、彼の治療に専念するヒメアから状況を確認していた。
『ということは後半月ほどは動けない、と』
『全治一年はなろうか、って怪我を半月で動けるようにしてる私の腕を褒めて欲しいわね』
『いや、マジで凄いっすよ……』
自慢げに言うヒメアであるが、ことはそれだけではない。実際にはこの誰も破れないだろう結界を張り巡らせた上でその大怪我の治療を行っているのだ。
そのどちらかだけでも超級の専門家がやってなんとかなる領域なのに、彼女は一人でそのどちらもを行っていた。少なくとも結界だけでも不可能なソラからしてみれば、到底及ばない技術だった。
『まぁまぁ、それはおいておいて。おおよその話は聞いてるわ。貴方達が気になっているのはおそらくシュヴァル家やエクウス家でしょう』
『わかるんっすか?』
『あの二つはいっつもカイト……というかマクダウェル家に突っかかってるから』
どうやらマクダウェル家と先の二つの家に関してはかなり有名らしい。ヒメアが楽しげに笑っていた。とはいえ、それがなおさらソラにも彼らは魔族とは無縁なのだろうとも察せさせた。
『その様子だと……魔族に繋がっている可能性はなさそうなんっすね』
『無いでしょう。そりゃ、どこかで個々に繋がっている可能性はあるけれど……それを鑑みなければ一族として関わる事は無いわね。あそこは軍人としての誇りと共に、遊牧民としての誇りを持っている』
『遊牧民としての誇り?』
『馬や羊とかの動物と共に渡りながら生活する……という所かしら。魔族に攻められた土地がどうなっているかは彼らも知っている。酷い場所だと草木一つ生えない死んだ土地になる……酷いものよ。土地が死ぬって』
その光景を何度も見てきたのだろう。ヒメアは沈痛な様子でため息を滲ませる。とはいえ、これは未来のカイトからも聞いた事はあった。
『聞いた事がある……みたいね』
『……一応。未来のカイトから。あいつはそれを復活させたりした事あるそうっすけど……』
『うそ……あいつどこでそんな超絶の魔術手に入れたのよ』
どうやらこの時代のカイトにはそんな芸当は出来ないらしい。ヒメアは未来の彼が成し遂げたという偉業の一つに絶句する。とはいえ、この死んだ土地の賦活は地球の科学的な知識と大精霊達の助力があって初めて成し遂げられた偉業だ。そのどちらもを持ち得ない今の彼が出来なくても当然だった。
『それはわかんないですけど……それ以外にもお師匠さんからも聞いた事があります。あ、俺のお師匠さんって珠族なんですけど……カイトからの紹介で一年ほど弟子入りしてたんです』
『ああ、なるほど。彼らなら死んだ土地がどうなるか、というのはわかってるわね』
幸いな事にこの世界にも珠族は存在していたらしい。ヒメアは彼らなら知っていても不思議はないし、先のカイトの偉業からその某に弟子入りさせてもらっても不思議はないと納得したようだ。
とはいえ、そこらがお互い納得できればこそ、やはりヒメアにも先の二つの家が今回の暗躍に関わっているというのが解せなかった。
『でもだから気になるのは気になるわね……なぜあの二つの家が暗躍に加わるのか。確かにあの両家はカイトと仲が悪い。でもそれはあくまでも個人的に仲が悪いというだけで、決して公的な対立をするつもりはない。それは今までの何十年何百年と変わらない。おそらく今後も変わらないのでしょう』
『あ、あははは……』
実際変わっていないらしいのだから、ソラとしては笑うしかなかった。
『ソラ。貴方、多分これからお父様に会うつもりね』
『あ、はい。一応……今回はカイトの見舞いの体でこっちに来たんですけど、可能であれば陛下に会えないかと』
『……そういうこと。おそらくお父様の方にももう報告が上がっていて、出るタイミングではお呼びが掛かるようにされていると思うわ。それか、お姉様の所かもしれないけれど……』
偽装として姉の方に誘導するのか、それとも自身の方が見知っていればこそ敢えて直接自身の方に案内させるか。ヒメアにもそこはわからなかったようだ。と、そんな彼女の推測にソラが問いかける。
『お姉さん? あ、そういえば確かヒメアさんって……』
『そう。私は第二王女。上にお姉様が居るわ。今はお父様の執務を手伝われているから、そちらに通すとしても不思議はない』
今回の一件は明らかに大っぴらに出来る話ではない。なので動きが悟られやすいおやっさんは王城に来れなかったし、そのために注目度の低いソラ達が動いている。ならアルヴァではなく第一王女の方に来いと言われても不思議はなかった。
『そうっすか……わかりました。あ、そうだ。怪我の状況とかっておやっさんは知ってるんっすか?』
『あまりは知らないでしょう。連絡役が居ないから、情報は限定的になるでしょうし。必要ならそこらも貴方から教えておいて』
『わかりました』
色々とやらなければならない事は多そうだ。ソラはカイトが動けなくなるだけで増える仕事に内心で少しだけため息を吐く。
とはいえ、こうなると言われていた以上、そしてカイトには色々と世話になっている以上、やるだけだった。というわけでソラはその後、ついでにとカイトの現状の報告をヒメアに頼まれる事となり東棟を後にするのだった。
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