第3099話 はるかな過去編 ――情報収集――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、過去の時代のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らは幸いな事に過去世のカイトを筆頭にした八英傑と呼ばれる英雄達やカイト配下の騎士達と遭遇。元の時代に戻るまで冒険者として活動を行う事になっていた。
そんな中、王都の冒険者を統率するおやっさんからもたらされたのはカイトが大怪我を負って治療中だという情報とそんな彼の動けない間を狙って暗躍を開始する貴族達の情報であった。というわけで、そんな情報を手に拠点へと戻ったソラはひとまず全員に情報を共有。この案件に関わる事への合意を得ると共に、セレスティア達から心当たりを問いかける事になっていた。
「と、いうわけなんっすけど……あー……その顔は知ってそう、って事で良いっすかね」
「あ、あははは……」
「……」
一言で言えばイラッとした。とある名前を聞いた途端のイミナの様子を見たセレスティアが乾いた笑いを零す一方で、イミナは盛大にしかめっ面だった。そうして、彼女は盛大にため息を吐いた。
「ああ、知っている……あいつらが魔族に関わっている事は無いだろうが」
「え? あ、無いんっすか?」
「あれでも腐っても騎士の一族だ。その誇りだけは持っていると断言しよう」
非常に腹立たしい事ではあるが。イミナは心底嫌そうな顔をしつつも、俎上に載せられたとある家についてはっきりと明言する。というわけで、そんな彼女に喋らせるとどんな愚痴が飛び出すかわからない、とセレスティアが口を開いた。
「先程名前が上がったのは、ヒネーテ地方の方ですね。ヒネーテ地方は古くから遊牧が盛んで、騎兵に長けた地方です。有名なのであれば、先程のシュヴァル家やエクウス家……そんな顔しないでください」
「……」
むっすー。先程と同様に、イミナはカイトに害をなす家としてリストアップされていた家の名を聞いて盛大に顔を顰める。この二つは特にイミナにとって気に入らない家らしい。基本竹を割ったような性格の彼女がこれだ。ソラとしては何があったか、少し興味があった。
「何があったんっすか。イミナさんがそんな顔するなんて、無茶苦茶珍しいっすよね」
「この二つは事あるごとにウチを筆頭にした旧四騎士の家に突っかかってくるんだ。全く面倒くさい」
「あははは……歴史的に色々とありましたので……ああ、それで先の二つは古くはシンフォニア王国よりも古くから存在する土着の豪族だった方々です。それがシンフォニア王国に恭順。そのまま爵位を授けられた、というわけですね」
「元々は遊牧民、ってわけ?」
「そういうことですね……だからか騎士としては新参のマクダウェル家が気に入らない、という所でしょう」
「すっげぇ」
マクダウェル家でもシンフォニア王国では最古の騎士の一族に属するわけであるが、それより古いのがこの二つの家だったらしい。彼らからしてみれば新参者が幅を利かせているので気に食わない、というわけだろうし、そう言われればソラも腑に落ちた。
「分野が違う、というのに。騎馬であれば奴らの腕には我らも敵わん。それはもちろん、個々の実力であれば我らの方が上にはなるがな。騎兵隊となると奴らの方が優秀だろう」
「あ、優秀は優秀なんっすか」
「それは認める……奴らの騎兵隊による弓術は見事なものではある。あれだけの速度で走らせながら、一射として外さん。機動力が重要な戦いになれば奴らの支援は非常に重要だ。この時代でもそうであってもらいたいものだがな」
最後に一言チクリとした言葉が入るのは、やはり認めるべきは認めただけという感がありありとにじみ出ていた。というわけで、相当嫌いなのだろうなというイミナの愚痴を少しだけ聞きながら、セレスティアが敢えて突っつかないように念話で教えてくれた。
『あんまりに突っかかるものだから、お互い上から要らない事はしないように関わらないように言われているんですよ』
『上? 親御さんから、って事か?』
『旧シンフォニア王家です。統一王朝になったから、と王家がなくなったわけではないですからね』
『あ、そう言えば言ってしまえばレジディア王家なんだっけ……』
所属が神殿になっていたのですっかり失念してしまっていたが、セレスティアの家名はレジディア。とどのつまり旧レジディア王家の王族に属するのだ。
『ええ。統一王朝になっているのである意味王家というのは有名無実になっていますが……今も統治としては旧王国の統治になっています。まぁ、言ってしまえば旧王国の更に上に一つの王国がある……みたいな所ですね』
『へー……』
そんな感じになっているのか。ソラは未来のこの世界の統治機構についての話に少しだけ感心した様子を見せる。と、そんな彼らの会話をしている間に、イミナも少しは落ち着いたらしい。
「ああ、いや……そこらはどうでも良いか。兎にも角にも奴らはたしかにマクダウェル家は気に食わないだろうが、魔族に関わる、もしくは魔族に取り入られるという事は無いだろう。あるとすれば、なにか別の理由があるかもしれんが」
「別の理由」
「それはわからん……が、もし関わっているのであれば、必ずなにか理由はあるはずだ。それについては私が保証しよう」
少なくとも奴らは騎士として、軍人としての誇りは持っている。イミナは自分達の一族とライバル関係にも近い関係だからこそ、その祖先達もまたそうだろうとはっきりと口にする。
「ってことはその原因を取り除ければ、上手くやれれば強い味方になってくれるかもって所っすか」
「……それはそれで嫌だが……そうだな。少なくとも義理は忘れぬ一族だ」
彼らの力を借りる、というのはイミナとしては忸怩たる思いという所なのだろう。ソラの言葉に盛大に顔を顰める。とはいえ、彼らの力が有益である事は事実なのだ。なのでソラとしてはその方向で話を進めたい所ではあった。
「じゃあ、その方向で……で、その二つ以外に関しては?」
「すまん。そこらは私も詳しくはない。聞いた事がある名は幾つかあるが……」
「私もそうですね……内乱で滅んだ家がある様子です」
「そっか……となると、少し情報を集める必要があるか……」
流石にわからない事には対処のしようもない。ソラは二人からの情報が望めない事にため息を吐きながらも、仕方がないと諦める。そうして、一同は明日からの予定を変えて一度情報収集に勤しむ事になるのだった。




