第3096話 はるかな過去編 ――巨山崩し――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、過去の時代のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは後のセレスティア達の時代には八英傑と呼ばれる八人の英雄の一人として名を残す過去世のカイトや、その配下の騎士達。そして同じく八英傑の英雄達との会合を果たしていた。
そんな彼らの支援を貰いながらも元の時代に戻るまで冒険者としての活動を重ねていた一同であったが、その最中。一同は偉大なる巨岩と呼ばれる魔物の討伐任務を請け負っていた。そうして、交戦開始から数時間。巨大な魔物相手の定石である持久戦を展開していた討伐隊一同であったが、そろそろ昼に差し掛かろうというタイミングで攻勢に転ずる事になっていた。
『斉射三回! 特大の一撃に合わせて敵の岩盤を吹きとばせ!』
攻撃開始の合図と同時。ニトラートが号令を掛ける。そうして、荷車の上に据え付けられた何十もの魔導砲が火を吹いた。
「ふぅ……」
どん、どどどんっ。最後の一撃とばかりに最大火力に設定された魔導砲から特大の魔弾が放たれる。それは一直線に偉大なる巨岩へと飛翔して、一部はその周辺の地面を吹き飛ばしバランスを崩させつつ、その大半はその背を覆う岩盤を吹き飛ばす。そうしてその背の岩盤が吹き飛んだと同時に、魔術師達に向けおやっさんが合図する。
『よっしゃ! 足止め成功だ! 微修正は俺らでやってやる! 縛りつけろ!』
『『『了解!』』』
合図に合わせて、魔術師達が魔術を展開。四方八方から輝く鎖を展開し、バランスを崩した偉大なる巨岩を地面へと縫い付ける。そうして地面に縫い付けられた偉大なる巨岩に、ソラは装備した巨大魔導砲の照準を合わせる。
(照準のリンクは正常……これ、すっげぇ技術ではあるんだろうなぁ……)
今更言う事でもないが、エネフィアの技術体系とこの世界の技術体系はそもそも根本からして異なっている。なので基本的にはこの世界の技術で作られた魔道具をエネフィアで作られたソラの魔導鎧にリンクさせる事は不可能に近い。が、それをノワールが調整の傍ら出来るようにしていたのであった。
(ってか、なんで照準システムなんてあったんだろ)
ソラは今回の作戦に際してこの魔導砲の説明を受けた際、この魔導砲には照準システムが備わっている事の説明を受けていた。まぁ、それに関しては彼が使うので無用の長物だろうとニトラートは述べたのであるが、ソラの鎧にそのシステムを使う機能があったので急遽調整。採用となったのである。
なお、なぜあったのかというと、この魔導砲の基礎設計がノワールだったからだ。それはさておき。ソラはその照準を偉大なる巨岩の中心から少し上。ただし上過ぎない位置へと合わせる。
「ふぅ……先輩。大丈夫っすね」
引き金を引く一瞬前。ソラは呼吸を整え、瞬へと問いかける。これに、瞬ははっきりと頷いた。
『ああ。いつでも良い』
「うっす……くっ!」
ぐっ。瞬の返答にソラが地面をしっかりと踏みしめると、引き金を引き絞る。そうしてソラに強大な反動が襲いかかると同時に巨大な光条が放たれて、螺旋を描くように若干遅い速度で飛翔。二つの光条が一つに混ざり合うと、勢いを増して偉大なる巨岩へと直進する。
『先輩!』
「ああ!」
魔導砲の反動を堪えるソラの言葉を通信機を介して聞いて、瞬が地面を蹴る。こちらも同じく重量物を持っている事もあり、その一歩は地面を打ち砕き岩を撒き散らしていた。
そうして彼が走り出すと同時に、ソラの放った光条が偉大なる巨岩の背に激突。偉大なる巨岩の巨体を僅かに押し出すような様子を見せながらも、しっかりと縫い付けられた偉大なる巨岩の背を貫いて彼方まで飛んでいく。
「っ」
凄まじいな。魔導砲の威力を見て、瞬が僅かに目を見開く。これで携行兵器の威力だ。この世界の技術水準に照らし合わせても十分すぎるだろう。そうして貫いた光条が完全に通り抜けた直後。瞬はそれをしっかりと見届けて地面を蹴って飛空術をブースターとして活用。一気に上空へと舞い上がる。
「ふぅ……」
虚空を踏みしめ再加速の準備を整えると、瞬はソラの魔導砲が空けた風穴をしっかりと見据えて次の合図を待つ。そして彼が虚空を踏みしめると同時に、セレスティアが告げた。
『瞬さん!』
「っ!」
そこか。瞬は自身の真横を通り抜けるナイフを見て、自身が杭を打ち込むべきポイントをしっかり見定める。セレスティアは少し離れた所から偉大なる巨岩の回復の流れを見極めて、魔力の流れから偉大なる巨岩のコアの場所を見極めていたのだ。そうして最適な杭打ちのポイントを見定め、瞬に伝えるのが彼女の役割だった。
「おぉおおおお!」
ポイントは見えた。瞬はセレスティアが投じたナイフ目掛けて一直線に降下する。そうして、彼女が投じたナイフを押しつぶすが如く、巨大な杭打機を鮮血が吹き出す肉に叩き込む。
「はぁ!」
じゅぐりっ、という嫌な音を聞きながらも、瞬は容赦なく杭打機に据え付けられた引き金を引く。すると木製の筒に装填された金属の杭が発射され、偉大なる巨岩の奥深くまで突き刺さる。
『瞬! 打ち込んだな! ならさっさと離脱しろ! 爆発するぞ!』
「っ」
杭打機から杭が発射される轟音を聞いていたおやっさんが念話を送り、それに瞬は一瞬背後を振り返る。が、背後はすでに復元が始まっているのか偉大なる巨岩の肉が大きく蠢いており、かなり足場が不安定になっていた。
「ちっ! なら! おぉおおおお!」
瞬はどうやら自身の思った以上に偉大なる巨岩の再生速度が早い事を察すると、雄叫びを上げて<<雷炎武>>を展開。燃え盛る火炎を用いて再生しようと蠢く偉大なる巨岩の内壁を焼き尽くす。
「っ」
肉を焼いて再生を遅らせると、瞬はそのまま紫電の速度で再生する偉大なる巨岩の穴から離脱する。そうして彼が離脱して数秒。強大な魔力が迸るのを、瞬は感じる。
『全員、防御! デカい爆発が来るぞ!』
強大な魔力が迸るのを感じたのは何も瞬だけではなかったらしい。おやっさんが全員に向けて注意を喚起する。そうして、その直後だ。瞬が打ち込んだ杭がコアを改変。爆弾へと書き換える。
『『「っ!」』』
全員がおやっさんの言葉に身を固めると同時だ。巨大な爆発が起きて、偉大なる巨岩の全身は内側から消し飛ぶ事になるのだった。
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