第3095話 はるかな過去編 ――巨山崩し――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、過去の時代のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは後のセレスティア達の時代には八英傑と呼ばれる八人の英雄の一人として名を残す過去世のカイトや、その配下の騎士達。そして同じく八英傑の英雄達との会合を果たしていた。
そんな彼らの支援を貰いながらも元の時代に戻るまで冒険者としての活動を重ねていた一同であったが、その最中。一同は偉大なる巨岩と呼ばれる魔物の討伐任務を請け負っていた。そうして、交戦開始から数時間。巨大な魔物相手の定石である持久戦を展開していた討伐隊一同であったが、そろそろ昼に差し掛かろうというタイミングで攻勢に転ずる事になっていた。というわけで、ソラと入れ替わる形で後方の陣地に戻った瞬をニトラートが待っていた。
「来たな。確かイチジョウだったな」
「はい……例の武器は?」
「こいつだ」
「改めてですが……やっぱりデカいですね」
ニトラートが布を取り払った先にあったのは、一つの巨大な槍にも銛にも見える円柱の物体だ。その先端は尖っていて、なにかに突きさせる様子だった。
その大きさは瞬の背丈を上回り、魔術によるサポート無しであれば到底持ち上げられそうにもなかった。そんな超巨大な槍――実際には杭打機の一種――を見ながら、ニトラートが笑う。
「デカいぞ。ヤツの中心まで届けないといけないからな。が、届けば一撃で倒せる事は何十もの戦場で実証済みだ」
「はい……一度持ってみて良いですか?」
「ああ……感覚を再確認しろ」
「はい……ふぅ。ふんっ」
一度だけ深呼吸をして身体を整えて、瞬は気合を入れて超巨大な杭打機を持ち上げる。が、そうして持ってみて思わず彼は顔を顰める。
「くっ……魔術の補佐ありでも重いですね」
「そうだろうな。外側は使い捨ての木製だが、中身は特別性の杭だ。と言っても見ての通り中身の方が大きいから、実際にはその大半が金属製と言って良い。更にはヤツに打ち込んで奥深くまで潜り込ませる必要があるから、重量も相当なものだ……が、それ故にこそ一発しか無い。しくじるなよ」
一発勝負。それに瞬は僅かに気を引き締める。そんな彼に、ニトラートが問いかける。
「飛空術は使えるな?」
「一応は」
「一応でも使えるなら良い。流石にそいつを抱えて大跳躍は現実的じゃない。飛空術で飛んで……まぁ、それでも跳躍になってしまうだろうが。兎にも角にもヤツの背にそいつをぶち込め。サポートについては砲撃でやってやるし、場所の指定もこちらでやってやる。そこ目掛けて打ち込め」
「はい」
ずっしりとした重みを感じながら、瞬はニトラートの言葉に一つ頷いた。そうして彼は巨大な杭打機を槍を扱う要領で背負うと、少しだけ位置を微調整。なんとか動けるように工夫する。
「よし……ソラ。こちらの準備は完了だ。前線は?」
『おやっさん達三人で嫌がらせやってる最中っす……三人ともさすがっすね』
瞬の問いかけを受けたソラが見るのは、自分達二人が抜けた穴を埋めるべく偉大なる巨岩の足元をうろちょろと飛び回ってその動きを牽制する三人だ。
おやっさんは培ってきた経験で。セレスティアとイミナの二人は未来の世界でも最高峰の才能で偉大なる巨岩の足元を飛び回り、時に攻撃して苛立たせ先に進ませないようにしていた。
「そうか……そっちは?」
『こっちは少し離れた所から砲撃の準備やってます……まさか俺が砲撃手やるなんて思ってもなかったっすね』
「そうか……突っ込むより良いだろう?」
『あはは。そっすね』
瞬の言葉にソラが笑う。そんな彼と笑いながら瞬は戦場の各所を見回して、ソラの姿を見つけ出す。そこはセレスティア達三人から少し離れ、瞬が今居る砲撃隊の場所からも少し離れた少し窪んだ地面の下だ。そこに、ソラは隠れるようにして立っていた。そんな彼を見て、瞬が少しだけ苦笑する。
「俺も見てはいたが……やはりそっちも大きいな」
『まー、大体2メートルぐらいはありますね』
あははは。ソラは自身の両側に展開されている魔導砲を見ながら笑う。それが二門。彼の横に展開されていた。そう言っても魔導砲なので2メートルほどと言っても巨大な感じはしていなかった。そんな彼を遠目に見ながら、笑っていた瞬が気を引き締める。
「……頼むぞ」
『……うっす』
自身がしくじればその時点で失敗、というのは二人共一緒だ。故に笑い飛ばしていたのであるが、流石に作戦直前になると笑ってばかりもいられなくなる。というわけで気を引き締めた二人であるが、瞬がおやっさんに連絡を入れる。
「おやっさん。こっち、二人共準備完了です」
『そうか! さっき魔術師の連中からも連絡が入った! あっちも展開完了って話だ! 昨日の作戦会議でも言われていると思うが、奴らは長くは展開できん! 二人共、しくじるなよ!』
「『はい』」
先程ニトラートも言っているが、この攻撃では支援の全部隊が駆り出される形になる。というわけで、魔術師達はすでに陣地を離れて各所に展開。動かれてはソラの砲撃が外れる可能性があるため、動かないように拘束する魔術を展開する準備を整えていたのである。
『作戦のタイミングはニトラート! お前に任せる! 砲撃と同時に作戦開始だ!』
「『『おぉおおおおお!』』」
おやっさんの号令に合わせて、各所で鬨の声が上がる。そうして、戦いは最終盤に差し掛かるのだった。
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