第3093話 はるかな過去編 ――巨山崩し――
『時空流異門』と呼ばれる異なる時間と空間に飛ばされてしまうという非常に稀な異常現象に巻き込まれ、過去の時代のセレスティア達の世界に飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らは後のセレスティア達の時代には八英傑と呼ばれる事になる過去世のカイトや、その配下の騎士達。そして同じく後の八英傑の英雄達との会合を果たしながら、元の時代に戻れるまで冒険者としての活動を重ねていた。
そうして冒険者としての活動を重ねる中でふとした事からシンフォニア王国の王都に所属する冒険者を統率するおやっさんの要請を受けて、一同は偉大なる巨岩と呼ばれる超巨大な魔物との交戦に臨んでいた。
「とっ」
猛烈な勢いで落ちてくる巨大な足を瞬は周囲を覆い尽くした陰で理解すると、地面を蹴って後ろへ跳躍。100メートルほど離れたわけであるが、それでも眼前近くまでは足が落ちていた。
『先輩。潰されてないっすね』
「ああ……危なかったが。もう少し離れた方が良さそうか」
偉大なる巨岩は巨体だ。それ故に、というわけではないだろうがその動きはかなりゆったりとしたもので、周囲を囲まれでもしなければ目視してからでも十分に回避が間に合った。が、それでもその大きさは彼らが思う以上で、十分な余裕を持っていなければ踏み潰されかねなかった。
『っぽいっすね……めちゃくちゃ危なくなかったっすか?』
「あはは。いや、まったくだな」
あれでも余裕を見たつもりだったんだが。ソラの言葉に瞬が笑う。というわけで一頻り笑った所で、瞬は再び地面を踏みしめる。
「おぉおおおお!」
振り下ろされた足を壁のようにして駆け上がり、胴体部分につながる鼠返しのような部分を前に彼が飛び上がる。そうして虚空を蹴って軌道を修正。身を捩って偉大なる巨岩を正面に捉え、槍を投げ下ろす。
「はぁ!」
雄叫びと共に放たれる槍は紫電ではなく炎を宿していた。そうして猛火を纏う槍が一直線に偉大なる巨岩へと突き進んでいき、一方の瞬はその反動を敢えて殺さずその場から離れてそのまま宙を舞って結果を見届ける。
「……よし」
瞬の放った槍は岩石を投げかけられるもののその全てを焼き払い、偉大なる巨岩の背に直撃する。しかし直接ではなかったので上にこの巨体ゆえにダメージはあまりなく、爆音と共に周囲の岩盤を吹き飛ばすに留まっていた。が、それで十分だった。
「……」
瞬が刻一刻と落下していくのを見ながら、セレスティアが意識を集中させていた。そうして収束する強大な魔力に、偉大なる巨岩も気付いたようだ。身を震わせて、岩石を投ずる様子を見せる。
「セレスティア様。対処はこちらで」
「お願いします」
当然だが魔力を溜めているセレスティアは溜める理由がある。故にその直接的な支援にはイミナが就く事になっていた。というわけで投ぜられる無数の岩石を彼女が魔力を乗せた拳打で破砕し、その一切を通さない。そうして魔力の収束が十分になったのを見て、彼女が遠くで足止めを行っていたおやっさんに一つ頷いた。
「……」
『おし! 一斉射! もう一発やってやれ!』
『了解だ! 斉射三回! 砲弾は破砕型を込めてるな! 照準、外すなよ!』
おやっさんの連絡を受けて、はるか後方で準備していた砲撃隊が瞬の槍を目印として照準を合わせていく。彼の槍は単なる目印。それを目印として砲撃して貰うための目標だったのだ。故にダメージを与える事が目的ではなく、周囲の岩盤を吹き飛ばしはっきり見えるようにする事が優先だったのである。そうして、轟音が轟いて何十もの魔弾が放たれる。
「ふぅ……」
自身の頭上を魔弾の雨が通り過ぎていくのを感じながら、セレスティアが大剣を下げる。といっても別に戦意を喪失したわけではない。そうして大剣を後ろ向きに下げた彼女はぐっと身を屈め地面を踏みしめると、魔弾が直撃する寸前に地面を蹴る。
「はぁああああ!」
雄叫びを上げながら、セレスティアが宙へと舞い上がる。そしてそれと時同じくして、巨大な爆発が轟いた。
「っ」
吹き荒れる爆風に顔をしかめながらも、セレスティアは更に虚空を蹴って爆風の中へと突撃する。そうして彼女が爆心地にたどり着いた頃には爆風も爆発も終わっており、偉大なる巨岩の背を覆っていた岩盤が捲れその強固な体皮が露わになっていた。
「はぁ!」
どぉん。まるで可憐な少女が大剣を叩きつけたとは思えないほどの轟音が響き渡り、先程の魔弾の直撃よりもはるかに巨大な衝撃波が周囲に撒き散らされる。その衝撃は凄まじく、1キロはあろうかという偉大なる巨岩の巨体を地面に叩きつけるほどであった。
「っ」
それだけの衝撃であっても、セレスティアは倒せたと思っていなかった。故に彼女は即座に鮮血が吹き出す偉大なる巨岩の背から跳躍して距離を取る。
そして案の定、彼女が飛び退いたと同時に彼女が居た周囲を岩盤が覆い尽くし、更にはお返しとばかりに無数の鋭利な岩石が彼女に向けて放たれた。が、その全てが半透明の障壁により無力化され、彼女は無事に地面に着地する。
「ありがとうございます」
『おう』
半透明の障壁は言うまでもなくソラの生じさせたものだ。今回、存外出番が無いと思われた彼であったが、やはりこの巨体だ。彼らからしてみれば射程距離は非常に長い攻撃が多く、しかも巨体かつ岩盤で覆われている事から高威力の一撃を叩き込む必要がある。故にどうしても攻撃の後は隙が大きく、そこの穴埋めをソラがする事になっていた。と、着地したセレスティアの横に瞬が現れた。
「ダメージはあったが……」
「まだだめですね」
「前に厄災種と戦った時と同様に、とりあえず削っていくしかないか」
「ですね……幸い、あれよりも交戦時間は短くなるでしょう」
「何時間かは、掛かりそうだがな」
あれを経験していてよかった。瞬はかつての中津国での交戦を思い出し、あれよりはまだ随分と楽な戦いと思う事にしていたようだ。というわけで、それから数時間。一同は偉大なる巨岩の魔力を削るべく持久戦を仕掛ける事になるのだった。
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