第3088話 はるかな過去編 ――暫く――
『時空流異門』と呼ばれる現象に巻き込まれ、過去の時代のセレスティア達の世界に飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは後のセレスティア達の時代には八英傑と呼ばれる事になる八人の英雄の一人として名を残す事になる過去世のカイトや、その配下の騎士達。同じく後の八英傑の英雄達と遭遇する。
そうして彼らからの支援を受けながら、元の時代へ戻るべく冒険者としての活動を開始させる一同であったが、時に迷宮攻略。時にカイトからの要請を受け古代の魔道具こと飛空艇の復元に協力し、としながらもシルフィの助言に沿って自らを鍛える日々だった。
「ふぅ……大分とパワーアップした実感があるな」
「そうっすねー……気付けばもう一ヶ月とちょっと潜り続けてますからねー」
迷宮攻略にもかなりの余裕が出来るようになってきた。ソラと瞬は事もなげに倒した迷宮のボスが消える様子を見ながら、そう口にする。
やはり一ヶ月と少しの間に何度もこの迷宮に潜ってきたのだ。トラップも慣れてきたし、戦いについてもおおよそ慣れたものと言い得た。と、そんな自分を戒めるようにソラは耳のイヤリングのストラップを軽く弾く。そうして澄んだ音を聞いて、彼は気を引き締めた。
「……いや、でもあくまでここに限っての事なんで。油断したら外で痛い目に遭う事になりますよ」
「それもそうだな……だが、ある程度は基礎能力も底上げされているような感じはある」
「それはそうっすね。やっぱこっちの魔物は総じて強いんで……」
どうしても厳しい環境に置かれているからだろう。ソラはこの迷宮にたどり着くまでの道中を思い出す。幸いな事にこの迷宮の入り口というか、河川の管理事務所までは比較的安全なルートが確保されているのであるが、少し離れるとすぐに危険な魔物が姿を見せていた。
「ふむ……一度どこかのタイミングで迷宮から離れて、外の魔物と戦うのも良いか」
「あー……たしかに慣れてる、ってのも不安っすね……」
慣れてきた、ということはそれだけ何度もこの迷宮を踏破してきたという事であるが、これだけ短期間に繰り返せば当然の話とも言える。というわけで、ソラも瞬も短期間に同じ事ばかりを集中して繰り返していたためそれ以外が衰えているかもと危惧したのである。と、そんな彼らの会話に今回同行していたイミナが同意する。
「そうだな……たしかに今回は何度も短期間にここに挑んでいたが……いや、これそのものに関しては資金稼ぎもあったので仕方がなくはあるが」
「そうっすね……資金稼ぎが本来の目的じゃない事を考えると、一回どっかできちんと身体を外に合わせておかないと痛い目に遭いかねないです」
「そうだな……」
資金もそろそろ十分な量が貯まってきたし。ソラの言葉に一同が同意する。そもそも資金を集めているのは拠点を改修するためで、その改修はなぜかというと今後の大きな動きに備えるためだ。なら、そろそろ更に次を見据えるべきタイミングとも考えられた。
「ソラ。今日戻ったら一度ギルドの支部に顔を出そうと思うが、付き合ってもらえるか?」
「うっす。一回なんか程よい依頼を見繕ってっすね」
「ああ……このご時世だ。戦闘系の依頼は多いだろうからな。程よい依頼を見てみよう」
少し危険度が高めで、さりとて十分に攻略出来るだろう依頼を見繕いたい。ソラの返答に瞬はそう答える。そうして、一同は宝物庫で宝物を回収。今回の迷宮攻略を終わらせるのだった。
さて王都近郊の迷宮の攻略を終わらせた一同であったが、その後は幸い早い時間帯に出れた事があり少し足早に王都に帰還。今回の収穫の仕分けをイミナらに任せると、ソラと瞬はその足で冒険者協会に足を運んでいた。
「ん? おぉ、ソラ達か。どうした?」
「あ、おやっさん。お久しぶりです。そっちこそどうしたんですか? 外で……」
「ああ、俺は支部長室で作業に入っちまったからよ。俺はこっちでぼけっとしてるってわけだ」
瞬の問いかけに対して、おやっさんが笑う。先に言われているが、瞬達のホームの改修と同時にこの支部の建物も改修工事に入ってもらっている。が、こちらの支部では常に冒険者が仕事を求めて来ている事もあり、支部としての機能は動かしながら改修工事をしていたのであった。
「「あー……」」
「で、お前さんらはどうしたんだ?」
「ああ、俺達は程々に資金が貯まったんで、一度外の依頼を受けようと」
「なるほどな……でも現状だとあんま遠くには行けないだろ?」
「そうですね……まだ離れられるほど改修出来てるわけでもないので」
そこらに関しては実際に話を聞いていたわけではないからなんとも言えないんですが。おやっさんの問いかけに、瞬は少しだけ笑いながら同意する。そうして一頻り話した後、おやっさんが立ち上がった。
「よっと……暇だから手伝ってやるよ」
「大丈夫ですか?」
「言ったろ? 暇なんだよ……ここだけの話、今日一日なーんもせずにここでぼけっと話してるだけだったんだよ。有り難い事になーんも仕事がなかったんでな」
なるほど。とどのつまり朝からずっと暇で何かをしたくてたまらない所に偶然仕事をやらせてくれそうな自分達が来たからこれ幸いと動いたわけか。ソラも瞬もどこかウキウキした様子で自分達より先に掲示板に向かうおやっさんの背にそう思う。そうして、二人はそれならとおやっさんに相談に乗ってもらいながら依頼を見繕う事にするのだった。
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