第3085話 はるかな過去編 ――飛空艇――
『時空流異門』と呼ばれる現象に巻き込まれ、過去の時代のセレスティア達の世界に飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは後の時代――セレスティア達の時代――には八英傑という八人の英雄達の一人として名を残す事になる過去世のカイトや、その配下の騎士達。同じく八英傑となる英雄達と会合する。
そんな英雄達との出会いと彼らの支援を受けなんとか冒険者としての活動を開始させた一同であったが、その最中。カイトからの要請を受けて古代の魔道具、現代で言う所の飛翔機の調査に協力する事になっていた。
「なるほど……大体わかりました。かなり道理に基づいて作られていますね。操作もかなり簡単……」
でもその簡易化にはものすごい苦労があったのだとは思う。サルファの編み出した幻影の艦橋を一通り見て回り、ノワールは現段階でのこれの技術的な再現は非常に厳しいと結論づける。そしてそれを、カイトへと口にした。
「とりあえずこれを再現するのは不可能に近いですね」
「出来ないのか? 操作はかなり簡単ってのはオレも思った事だが」
「操作は簡単になっています。スロットルを引いて出力を調整。操縦桿で上下左右の移動……やろうとすれば短期間の訓練で操縦出来るでしょう。多分、普通の帆船より操作簡単だと思いますよ。あっち、乗組員に帆の向きとか畳んだり、風の向きを読んだりとか色々と大変ですから。もちろん砲撃戦になると大砲への装填やらが色々と出てくるので、側面を向けたりとかなりやる事多いですから」
「こいつは違うのか?」
このカイトは今更言うまでもないが、飛空艇についての知識は皆無だ。なので帆船と飛空艇の違いは空を飛ぶか海を浮かぶかの違いぐらいしか理解していなかったようであった。
「違いますねー。まず自力の推進装置を保有しているから、風を考える必要が無い。その時点で自由自在に動く事が出来る。後、おそらくこちらはお兄さんの飛空艇になるんでしょうが、重力を制御してその場への滞空も出来るみたいですね。その時点で帆船のように錨を下ろして留まる必要がないから、動きの自由度が比較になりません」
「はー……どこまでオレは関わってたんだろな」
「さぁ……まぁ、アイデアを出した程度……じゃないですかねー。流石にこれを作れるとは思いません」
「そうだけど酷い……」
「あはは」
実際カイト自身もこんな魔道具を作れるかと言われればまず無理と言うのだが、それをはっきりと言うノワールもノワールだろう。というわけで一頻り笑った二人であったが、すぐに気を取り直す。
「そこらは横に置いておいて。とりあえずこの飛空艇の操作方法を聞く限り、かなりの自動化が行われている事は一目瞭然です。そうなるとその自動化をどうしているか、という問題になるわけですが……」
「えらく苦い顔だな」
「はい……これについては全く理解が出来ませんでした。おそらくパターン化されて選択することで規定の動作をするようにしているのだと思われますが……その理論は私にはわかりません。おそらく大本に地球のアイデアが盛り込まれていたりして、かなり独特な発想に至っているのだと」
「地球……魔術の存在しない世界、か。この言い方は正しくないそうだが……」
魔術が存在しない世界。それは一体どんな世界なのだろうか。カイトは自身が魔術が存在し、生活の一部にさえなっている世界で育てばこそ想像も出来なかったらしい。そしてそれは魔術の申し子とも言えるノワールも同様だった。
「同じく、ですねー。パソコン? という物についての話も伺いましたが、まるっきりわからないです。どうして魔術も使わず映像をガラス板に映し出す事が出来るのか。0と1? それだけで高度な計算が出来るのか……全く想像が出来ません。プログラミング言語やらが関わってくるという事でしたが……」
「それらは……」
「ごめん。俺らも全くわかんない」
「だろうな」
ソラの返答に対して、カイトは笑って首を振る。彼自身、この世界の高度な魔術理論に関してはわかっていないのだ。ならば元一般人であるソラ達がこういうパソコンなどの動作理論についてわかっていなくても無理ないと思ったのだ。
「そういうわけです。おそらくそこらを理解し、飛空艇の制御に応用したのだと思われます。多分……いえ、確定で天才の所業ですね。魔道具の作成に関してなら私を上回っているでしょう」
「ノワ以上、か……正直想像ができんな」
「あはは……でも間違いなくそうですよ。私より数段上です……お兄さんの説明が上手かった、可能性もありますけどねー」
「おぉい」
「「あはは」」
冗談めかしたノワールの言葉にカイトがまたかよと笑い、そんな彼にノワールとサルファが楽しげに笑う。そうして再び一頻り笑いあった後、カイトは肩を落としながらも気を取り直す。
「はぁ……まぁ、とりあえず。自作は難しい……って理解で良いのか?」
「それが良いかと。この文明がどの程度の技術力を有していたかは定かではありませんが……飛空艇の技術に関してはエネフィアの飛空艇技術より下でしょう。無論、ワンオフと量産機の差はあるでしょうが……聞く限り、飛翔機の基礎部分はオーパーツ化していて改変されている部分が少ないとの事です。なら量産機もワンオフもさほど大差無いのでしょう。それに合わせて高度化された操作系をこの飛翔機に使ったとて、何かしらの齟齬は出る。無論、足りない部分はなんとかするしかありませんが……」
「その足りない部分はこの飛翔機に合わせるべき、と」
「うん。それが結局は一番だと思う。多分発掘されるのも一隻分だろうからね。現段階じゃ危ない橋は渡るべきじゃないよ」
サルファの言葉に、ノワールははっきりと頷いた。そうしてそれを受けて、カイトも結論を下した。
「わかった。レックスには調査結果を報告すると共に、引き続き発掘部隊に発掘を急がせるように連絡しておく」
「お願いします……あ、そうだ。お兄さん」
「ん?」
「お話を聞いている限り、この本体のサイズは相当大きくなりそうです。この地下だと手狭というか、組み立ては無理になるかもしれません」
「あ、そうか……そう言えばそう言っていたな……」
ノワールの指摘に、カイトも先程ソラ達から聞いた飛空艇の一般的なサイズを思い出す。そしてそうであるなら、このままこの地下での調査は難しい事はわかろうものであった。
「わかった。それについては陛下に報告し、対応を考えて頂くように奏上しよう」
「お願いします……おそらく建物を一つ作る必要があるかと」
「また大作業だが……やるしかないか」
「です」
カイトの言葉にノワールも一つ同意する。こうして、ソラ達の意見をベースにしてさらなる調査が進められる事になり、一同はカイトと共に地下の研究室を後にする事になるのだった。
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