第3084話 はるかな過去編 ――調査――
『時空流異門』。異なる時間と空間に飛ばされてしまうという、かつて世界すべてを襲った異常の後遺症。それに巻き込まれ過去の時代のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまった一同であったが、そんな彼らは後の時代に八英傑と呼ばれる八人の英雄の一人にして過去世のカイトと遭遇する。
そうして彼やその配下の騎士、同じく八英傑と後に呼ばれる事になる英雄達と会合しその支援を受けながらも冒険者としての活動を重ねていた一同であったが、その最中。カイトからの要請を受けて一同は古代の文明の遺産である飛翔機の解析に協力する事になっていた。
「これは……」
「凄い……ここまで真に迫る幻影を生み出せるとは……」
まるで現実に自分達がその場に立っているかのようだ。そんな認識さえありそうなほどに、サルファの生み出した幻影はリアリティを有していた。と、そんな彼が瞬へと問いかける。
「飛空艇の名は?」
「あ、えーっと……」
なにか目印となるようなものはないだろうか。瞬はサルファの言葉に周囲を艦橋の中を見回して、この飛空艇の割り出しを進める。と、そんな彼にサルファが告げた。
「なるべく早く頼む。君が見てきた飛空艇の平均的な様子を生み出しているが、できれば早めに固定したい」
「え?」
「すまん。説明が足りていないな……この光景はあくまでも瞬の記憶をベースにして一般的な飛空艇の操舵室を構成させているんだ。が、だからこそ瞬自身もこの光景はどこかで見た事があるような、と感じながらもどこかは認識出来ないだろう?」
「それは確かに」
この艦橋がどの飛空艇の艦橋なのか。瞬はカイトの問いかけに改めて幻影の艦橋を見回して、どの飛空艇のようでもあり、どの飛空艇でもない気がするという違和感を理解する。そうしてそこまで理解出来た彼に、カイトが続けた。
「だからこの光景をベースにして、更に強固にイメージを固めてもらうというわけだ。どんな船でも良い。なるべく印象に残った操舵室ならより良いが」
「印象に残った操舵室……となると……」
今まで瞬はいくつかの飛空艇の艦橋を見てきたわけであるが、その中から彼は印象に残ったものはなんだろうかと少しだけ考える。そうして思い付いたのは、これだった。
「「ん?」」
「それか……随分と形が変わるよ」
ずずずずず。瞬がイメージを固めたと同時に、サルファが生み出す幻影が更に強固な形を得つつも、大きくその姿を変化させていく。そうして現れた艦橋に、リィルが目を丸くした。
「瞬、これは……」
「いや、なんというか……やはり印象的な艦橋は、と聞かれるとこれが一番印象的だった」
「ま、まぁ……たしかにそうですが。よりにもよって、この艦橋ですか」
「……」
かなりの苦笑いを浮かべるリィルに、瞬は恥ずかしげだ。が、どうやらわかっているのはこの二人だけだったらしい。ソラは思い当たる節がなかったのか、小首を傾げていた。
「どこなんっすか? 見た事あるよーな、ないよーな……って感じなんっすけど」
「公爵軍の旗艦の艦橋ですよ」
「公爵軍っていうと……マクダウェル家?」
「しか乗れないでしょう……いえ、ハイゼンベルグ公であれば平然と案内してくださいそうですが……」
何かとカイトには甘いハイゼンベルグ公ジェイクだ。自身の旗艦に乗せてくれそうではあった。とはいえ、もちろんこれはハイゼンベルグ家のものではなく、マクダウェル家のものだ。というわけで、リィルの反応などからそれをソラも理解して目を見開いた。
「え!? 先輩乗ったんっすか!? ずりぃ! こっちってあれっすよね!? 今ティナちゃんが絶賛開発中の新型っすよね!? この間の中津国で出たあれ!」
「色々とあったんだ。戦艦の扱いを学ぶ中で」
「えー」
それでもずるいっす。ソラは若干羨ましそうな目で瞬を見る。こちらの旗艦は滅多な事では運用されず、時折試験航行がされているのが目撃されているだけだ。
それ故存在は聞いた事があったソラは一度しっかり乗ってみたいな、とは思っていたのであった。まぁ、それでも隠されている『夢幻鉱』の飛空艇は三人は知り得ぬ事であった。と、そんな三人にサルファが問いかける。
「それは良い……いや、待ってくれ。これが兄さんが未来で作っている飛空艇の操舵室なのか?」
「操舵室……というよりも艦橋です。操縦や艦隊の指揮などを一挙に行う司令塔……という所でしょうか」
「ふむ……」
やはりサルファも未来のカイトの乗艦であると聞けば興味が湧いたらしい。少し興味深い様子で公爵家の旗艦の艦橋を観察していた。と、そんな彼の一方でこちらは技術者として興味を覗かせていたノワールがその詳細を問いかける。
「この艦橋はどういう役割を持っているんですか?」
「そうですね……中央から話すと、この中央の席が艦長席。船全体を統括される方が座る席ですね」
「艦長……船長席みたいなものですか。ふむ……その横は?」
「その横は来客用……という所でしょうか。時折人を乗せる事もあるそうですから」
「……それはお兄さん……未来のお兄さんのような人、という感じですか?」
おそらく政治システムなどを鑑みるに、カイトがこの旗艦の艦長を務める事は無いだろう。ノワールはそう考えたらしい。そしてこれに、リィルが頷いた。
「ええ……まぁ、今はまだ試験的に作っているだけなので、艦長などは人員を含め決まっていないそうですが……」
「なるほど……艦長席を取り囲むようにあるこのガラスが貼り付けられた長机や椅子は?」
「各種のレーダの情報を解析したり、各隊に対しての指揮を伝達するオペレータの席ですね。あのモニターの前に一人が座り、それで適時必要な操作やらを行う、というわけです」
「「「……」」」
なるほど。どうやら自分達ではそもそも前提となる知識が足りていないらしい。耳慣れぬ単語が何度となく出てきている様子から、ノワールら三人はそれを理解する。
とはいえ、それを逐一聞いていてはいつまで経っても終わらない。サルファの負担も考えると、先に大まかな機構を理解しておくべきだった。というわけで、カイトが問いかける。
「ということは、武器の発射とかの伝令もここから行っている、というわけか?」
「そうですね。ここからだと自動砲台が一般的でしょうか。手動の砲台に関しては砲撃手達がやるので逐一指示する事はあまりないでしょう」
「……自動砲台……それはつまりあれか? 勝手に敵を狙って攻撃してくれる、ってわけか?」
「ええ。まぁ、手動砲台ほどの追尾性は出せませんが、直線的に動く低級の魔物ならそれで十分ですからね」
「「「……」」」
どうやらエネフィアで未来のカイト達が作り上げたという飛空艇は自分達が考えるよりはるかに高度な魔道具の集合体らしい。カイト達三人は揃って飛空艇という存在に対してわずかに空恐ろしいものを感じていた。とはいえ、そんな三人にリィルが笑う。
「まぁ、そう言っても。ここまで発達したのは未来の貴方が再度エネフィアに戻られてからですよ。三百年前当時からの技術ではここまでは出来ていない。更には色々とあったという事でしたので……」
「ふーん……」
とりあえずその色々とが自分にとって面倒でなければ良いのだが。リィルの言葉にカイトはそう思う。若干面倒になったのか思考放棄に陥っていた様子である。
「とはいえ、それでもこれを今兄さん達は開発しているんだろう?」
「ええ……まだ色々と未完成だそうですが。流石にそこまでは末端の私達には……」
「そうか……他には? そう言えばさっき言っていた操縦桿とやらは?」
「それはあの前の部分にある椅子の所ですね」
「ああ、このレバーのことか……なるほど。船を操縦する桿で操縦桿か……ん? 引いたり倒したり左右にしか動かないが、いや、待て……なぜ二つあるんだ? いや、よく見ればこっちの妙な棒は……前後に動くだけ……何なんだ、これは」
当然の話であるが、操縦桿の操作を直感的にでも理解出来るのは地球やエネフィアにはすでに操縦桿の情報が一般的に存在しているからだ。なので何も無い状態から見れば、なんでこんなに操縦桿が多いのか。どうやって動かすのか分からなくても不思議はなかった。
というわけで、それから暫くの間。一同はこの未来のマクダウェル家の旗艦の艦橋についての説明を行っていく事になるのだった。
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