第3082話 はるかな過去編 ――飛翔機――
『時空流異門』に巻き込まれ、過去の時代のセレスティア達の世界に飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らは後の時代に八英傑と呼ばれる事になる前世のカイトや、その配下の騎士達。そして後に同じく八英傑と呼ばれる事になる英雄達と会合を果たしていた。
というわけでそんな彼らの支援を貰いながら冒険者としての活動を開始させる一同であったが、その手始めとして今後の大規模な活動に向けた拠点の改修に乗り出す事になっていたわけであるが、その中で彼らはカイトからの要請を受けて古代の魔道具として発掘された飛翔機の研究に協力する事になっていた。
「こっちだ。古代の魔道具は地下にある」
「どうやって運んだんだ? どんなのかわかんないけど、飛空艇の飛翔機だったらこんな階段通りそうにないんだけど」
「ああ、それか。元々は部品部品で持ち込まれていたし、ここは人員が通るための通路だ。中庭に地下へ続く大きな穴がある……普段は隠れてるけどな」
「「はー……」」
カイトの説明に、ソラも瞬もなるほどと納得する。そうして、地下へ続く王城の階段を降りていくこと暫く。最下層までたどり着いた。
「ここが地下の研究室……まぁ、色々とバレたくない研究をするのに使われていたものだ」
「なんか……お城の地下だっていうからもっとおどろおどろしいかと思ってたんだけど。存外普通の地下っていうか……」
「なんだそれ……まぁ、聞かないではないけどな」
やはりカイトも若いながらも王国の騎士団長として、色々と聞きたくもない話は聞いているらしい。ソラの素直な感想に少しだけ苦笑を混じえながら首を振る。
「ま、この地下も元々はそういった目的で使われた事もあるらしい……が、陛下が王になられた頃にはすでに廃棄されて久しかったそうだし、王城の地下だというのに魔物が蔓延るようなずさんな状況だったそうだ。父さんが楽しそうに話していたことを覚えてるよ」
「魔物が?」
「もういないし、出る事もない。まだ王太子でさえなかった頃の陛下と父さんの二人が主導して掃討作戦が組まれていたし、研究所としての活用が決まった時にオレ達が隅から隅まで再度チェックした。大変だったんだ、あれ」
「「あはは」」
どうやら修繕やらをされて本格的に使用が決まった頃には、カイトもクロードも戦い方を学ばされる頃だったらしい。先代のマクダウェル卿、すなわち二人の父親が直々にチェックを指導したりしていたそうだ。その頃を思い出したのか、先のソラの言葉よりはるかに盛大に苦笑いが浮かんでいた。
とまぁ、そういうわけで。一同がたどり着いた地下は薄暗い空間ではなくきちんと照明が至る所に張り巡らされ、しっかり掃除もされている清潔感のある空間だった。諸外国から著名な研究者――ノワールもサルファもその一人――を招く事もあるため、しっかりされているそうであった。
「ま、それは良いさ。とりあえず、あれが件の飛翔機だ」
「あれが……」
「よく思えば俺たちも飛翔機だけで見る事は滅多に無いな……」
「そう言えばそうっすね……リィルさんは見る事あるんっすか?」
「私も軍の工廠で分解清掃を行っている時に見るぐらいですね。それでも頻繁に見るわけでは」
ソラの問いかけに対して、リィルもどこか興味を持った様子で下を覗き込む。大きな吹き抜けの中央では飛翔機が鎮座しており、その周囲を何人もの研究者が取り囲んで調査を行っている様子だった。と、そんな飛翔機を見て、ふと瞬が疑問を呈した。
「そう言えば『復元の光』は巨大な魔道具には通用しないんじゃなかったか?」
「ああ、それだがおそらく飛翔機という魔道具として復元されたのだろうという事だった。お前らの話だと、飛空艇は数十メートル級から数百メートル級なんだろう?」
「ええ……このサイズから飛空艇の規模は数十メートル級……でしょうが。複数あるならまた別でしょうが……」
飛翔機の全長は数メートル。どうしても魔道具の最大出力は魔道具のサイズに左右される。なので技術力の程度にもよるが、このサイズならこれが限界だろうとリィルは推測していた。と、そんな彼女の言葉にカイトが目を見開いた。
「なるほど……複数設置する事もあるのか。それはそちらの世界だと一般的なのか?」
「一般的と言いますか……一応歴史で学ぶ所によると来世の貴方が設計した段階でツインエンジン……二つの飛翔機で飛翔させるモデルだったと聞いています。そこから数十年で簡易モデルの単発式。更に発展して四機備えたクインテットモデルなどができ、最終的に今の一般的なツインエンジンになった形です」
「そういうことか……なるほど……」
リィルの説明で、カイトはなにかに納得が出来たらしい。何度か頷いた後、彼は念話を起動させる。
「サルファ。今の話、聞いてか視ていたか?」
『ええ……なるほど。余った部品の数などからこれ一つだけでない可能性はたしかにありましたが……どうしてなのでしょう』
「何故かわかるか?」
「安定性の関係で、と。後は安全面からもツインエンジンが望ましいとされています。ただし、片翼だけでも十分に推力が得られるようにするのがメーカ各社に求められています。無論、これは安定した航行のためではなく安全に着陸をするために、ですが」
「それもオレの?」
「ええ。安全基準に関しては貴方が作られた物を若干修正しつつ運用されているのですが、一般化したのはその水準が満たせるようになったから、という所も大きいです」
「はー……」
どうやら未来のオレは今のオレとは全く違う領域で視野を持っているらしい。カイトは自分だと到底導けなかっただろう領域の話を聞いて、どこか感心したような様子を見せる。と、そんな彼はすぐに首を振って気を取り直した。
「ああ、いや。すまん……そこらは良いな。とりあえず。サルファ。そういう事だそうだ。おそらく長く考えられてだされた結論だろう。古代文明も同じ結論に至っていて不思議はない」
『なるほど……こういうの、言うべきじゃないんでしょうが……未来の兄さんと一度話をしてみたいですね。色々と面白い話が出来そうです』
「なんだよ、それ」
『兄さんが逃げるような話です。技術的な内容を混じえた上、それを広く一般化するにあたって定めるべき安全基準、その国際化など……おおよそ政治的、技術的、経済的……そういった複合的なお話ですよ』
「そー……それは未来のオレと会ったらにしてくれ。オレは聞きたくない」
『あはは。でしょうね』
絶対に聞きたくない話だな。カイトはそんな様子で笑いながら逃げの一手を打つ一方で、サルファはサルファでそんな彼をわかっていたのか楽しげに笑っていた。というわけで、一頻り笑いあった後。カイトが一同を吹き抜けの下へと誘う。
「来てくれ。とりあえず現状でわかっている限りを説明しよう。そこらの話をしようとなると、図面やらを見せながらの方が良いだろうからな」
時間が無いわけではないが、ぼけっと雑談していられるわけでもない。というわけで、一同はカイトに続いて吹き抜けを降りて飛翔機の所で研究者に混じって研究しているノワールらの所へとたどり着くのだった。
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