第3080話 はるかな過去編 ――帰還――
『時空流異門』に巻き込まれ、過去の時代のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らであったが、後の時代に八英傑と呼ばれる事になるカイトや、その配下の騎士達と遭遇。彼らからの支援を受けながら、元の時代へ戻るべく冒険者としての活動を開始させる。
そうして冒険者としての活動を重ねる中、拠点の改修に必要な頭金を整えた一同は拠点の改修をしてくれる職人を訪ねエルフ達の住まう黒き森を訪ねていた。というわけで黒き森にて色々と用事を終わらせた後。一同はカイトの仲間にして後の八英傑の一人。優れた魔術師であるノワールと共に、シンフォニア王国の王都を目指して進んでいた。
「……そういえばノワール様」
「なんです?」
「御身はたしか薬学にも優れた知見をお持ちと伺っておりますが……そういったものを作られていらっしゃるのですか?」
「ああ、おくすり」
セレスティアの問いかけに、ノワールは読んでいた本から顔を上げる。
「作ってますよ。数が作れないので出回らないですけどね」
「薬草の生息地でなにか良い場所などはご存知ないですか? あまり知られていない場所で、になりますが……」
「あー……そうですねー。確か一度全体的に情報が喪失してしまったんでしたっけ」
この時代の話が曖昧にしか伝わっていない事などはノワールも聞いている。なのでこの時代でも自分や限られた者しか知らないだろう薬草の生息地で情報が失われている可能性は十分にあり得るだろう、と彼女も思ったようだ。
「多分黒き森の薬草の生息地はご存知ですよね? こっちは比較的有名ですから」
「はい……エルフ達の中では一部に今もまだご存命の方もいらっしゃいますから……」
「ですよね。それで考えればなぜ私達が死んだのか、とかそういう所が気になりもしますけど……まぁ、それは良いですかね」
「あ、そうですか……」
正確に言えばカイト達は後の時代に死んだのではなく、自身の意思で転生を選んだ形だ。そう伝えられているセレスティアとしては別に隠す意味もないかと思っていたのであるが、ノワールとしては興味もなかったらしい。
「で、薬草の生息地ですか……うーん。そうですね。あ、そうだ。白き山の合間の霊域とかはどうですか?」
「白き山……ですか?」
「あれ……名前変わったかな……北の帝国の境目にあるんですが」
「……あれ……ですかね」
おそらくという程度だが、思い当たる節があったらしい。セレスティアは眉間にしわを寄せながらも頷いた。
「その合間に上空からでは見つけられない霊域が存在しています。そこに希少な薬草が生えている生息地がこの時代にはあります……時々お兄さんが取りに行ってくれていますが、エドナは使えないので途中から徒歩ですね。まぁ、それでもキャラバンやらに頼むより随分と早いし確実ですけど」
「それは知らないですね……そこまで特徴的なら、何かしらの話ぐらいは聞いている可能性は高そうですので……」
「そうですか。あ、霊域なのでアンデッド系というか、次元の狭間というか位相がズレた魔物が出てきますので、戦闘は要注意ですね。霊域と呼ばれるようになったのはそういった魔物が幽霊に見えた、というお話です」
「そ、それはまた……」
それは間違いなく高位の冒険者達でさえ二の足を踏む場所だ。まぁ、そんな所にちょくちょく薬草を取りに行けるカイトの戦闘力はやはり並々ならぬという事で良かっただろう。というわけで、その後も暫くの間セレスティアは後の時代に喪失した情報を聞いていくのだった。
さて一同が黒き森を出発してから数日。一同はシンフォニア王国の王都に帰り着いていた。
「はー……やっぱ乗り合いの馬車とかじゃないからすぐに到着しましたね」
「そうだな……これが地竜や飛竜ならもっと早かったんだろうが……」
「流石に今の俺らでそこらを手に入れるのは色々と問題がっていうかねぇ……」
「あはは」
一応、この世界で生き続ける限り最終的には元の時代へと戻してくれるというのだ。であればこの時代で下手に地竜やらを手に入れても後々困る事になりかねなかった。というわけで一頻り笑った瞬とソラであったが、そこでふとノワールに問いかける。
「そう言えばノワールさん。一応王都に着いたんですけど……これからどうされるんですか?」
「ああ、私は一応このまま王城に向かいます。もう何度も行っていますし、今回も招聘された形なので止められる事とかもないです。ミレディも居ますし」
「なら馬は一緒に返しておきますか?」
「あ、お願いして良いですか? 町中だし杖で行った方が楽ですし」
瞬の問いかけに対して、ノワールは渡りに船と鞍から降りる。そうして降りると同時に杖を出して、ミレディに一つ頷きかけた。
「ミレディ。ここまで有り難う」
「いえ……では、失礼します」
「「わ……」」
一つ頭を下げると同時に、ミレディがその場から消え失せる。そもそもどれだけ人に見えても、彼女はノワールが編み出した使い魔だ。と、そんな様子を見てふとソラが問いかける。
「そう言えば……さっきのミレディ……さん? ってホムンクルスとかなんですか?」
「え? ああ、いえ。ホムンクルスは確かに自立性やらを筆頭にした性能は使い魔より高いですが、今みたいに消えたり現れたりが難しいので普通の使い魔ですね」
「普通の……」
あれで普通なのか。ソラは人と同じ様な使い魔に僅かに頬を引き攣らせる。あれで普通、であればソラ達が使う使い魔は使い魔でさえなさそうだった。
「ちなみに、出来るんですか? ホムンクルス」
「出来ますよー。まぁ、お世話とかする事になるので滅多な事では作りませんけど」
「あ、そうなんっすか」
あっけらかんと言われた言葉に、ソラが思わず呆気にとられる。とはいえ、彼とてティナでさえホムンクルス製造が困難を極めた技術だという事を知っている。そこらを考えれば、一部技術ではノワールの方が上回っていそうであった。
「あ、そうだ。とりあえず今回はありがとうございました。時間が出来たら武具とかの確認で伺いますね」
「良いんですか?」
「ええ、せっかくですし、どういう使い方をされるか見ておきたい所もありますから」
ソラの問いかけに、ノワールが一つ快諾する。そうして、一同はそこでノワールと別れて借りた馬やらを返しに向かった後、拠点に戻るのだった。
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