第3079話 はるかな過去編 ――黒き魔女――
『時空流異門』と呼ばれる時空間の異常現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは後の時代に八英傑と呼ばれる事になる過去のカイトや、その配下の騎士達と遭遇する。そうして彼らの支援を受けながら冒険者としての活動を開始させていた一同であったが、少しの理由からエルフ達の治める黒き森の都を訪ねたわけであるが、その帰り。彼らはカイトの要請で彼の仲間にして同じく後に八英傑の一角と呼ばれる事になる黒き森の魔女ノワールと共に、シンフォニア王国王都を目指して進んでいた。
「「「……」」」
ちゅどん、ちゅどん。何発も放たれる光線を見ながら、ソラ達は遠い目をしていた。まぁ、端的に言ってしまえばやはり流石は八英傑。出力もそうだが、<<偉大なる太陽>>の危惧した隙なぞあろうはずもなかった。そしてそんな光景に、<<偉大なる太陽>>が感嘆の言葉を零す。
『ふーむ。これは凄い。光線が放たれるように見えて、その実伸びているのか』
「よくお分かりですねー。流石は神剣という所でしょうか。実際には伸ばした先に魔術を更に展開させる事で敵を消し飛ばしているわけですね」
『魔術の構築から発動まで自動か?』
「流石に全自動はしませんよー。幾つかの魔術を予め仕込んでおいて、敵の戦闘力に応じてそれを発動させているだけです」
『なるほど……』
その幾つかはおそらく数百以上にもなるのだろうが。<<偉大なる太陽>>はノワールの言葉にそう理解する。そんな彼に、ソラが問いかける。
「……どういうこと?」
『そうだな……わかりやすく言えばあの光球は杖のような物と思え。杖の先端に魔術を発生させているわけだ』
「ってことは別に光線が放たれて爆発してるわけじゃなくて、伸びた先で魔術が放たれてるってわけ?」
『そうだ。単なる自動迎撃に比べ遥かに高度な芸当だが……こうすることで確実に敵を倒せるというメリットがある。敵を理解した上で、最適な魔術を使うのだからな……若干威力が過剰に思えるが……』
これは当人の趣味か主義なのかもしれん。<<偉大なる太陽>>はまた巻き上がった爆炎を遠目に見ながら、そう説明する。と、そんな彼の言葉に今度はノワールが応じた。
「魔物によってはギリギリでも回避を間に合わせるようなヤツもいますし、仕留め損ねて面倒を引き起こした方が後々困りますからー。一発目はちょっとやり過ぎましたけど」
「面倒?」
「回復されたり、堕族……あ、堕族ってわかります?」
「あ、大丈夫っす。一度戦った事あるんで」
「そうですか。その堕族になられても面倒ですから。そういう時って大概お兄さんとかその他の皆さんの出番になってしまいますからね」
堕族になると一気に戦闘力が上昇するのだ。しかも凶暴性も一気に増すため、周囲の被害が甚大になる。なるべく被害を少なく倒すのならこちらも圧倒的な戦闘力を有する少数精鋭を繰り出すしかないのだが、そうなると必然カイト達になってしまうのであった。
「は、はぁ……で、完璧に消し炭にするようにちょっと出力を高めにしてる、と」
「大体必要最低限の倍ぐらい、ですかねー。まぁ、もっとヤバい魔物が出ても私に報告が……あら?」
「「「ん?」」」
ノワールがソラに報告すると同時。光球が今までとは違う輝きを見せる。これにノワールが丁度よいと頷いた。
「丁度よいですね……ミレディ」
「は」
「皆さんも下がっておいてください……皆さんでは馬を犠牲にしてなんとか逃げ切れるか、という程度ですから」
「「「……」」」
はっきりと言いきったな。一同はどこからともなく杖を取り出したノワールに呆気にとられながらも、彼女の動きをただ見守る。そうして、直後だ。地面を揺るがすほどの咆哮が響き渡る。
「「「っぅ!」」」
あまりの咆哮に一同が身を固め、馬達が暴れ回る。が、その次の瞬間にはミレディが指を軽く振って魔術を展開。馬達を大人しくさせる。そうしてそんな彼女が、ノワールに告げた。
「マスター。ご武運を」
「はーい」
ミレディの激励と同時に、一同の眼の前に巨大な虎のような魔物が姿を見せる。その速度はおそらく全力の瞬にも匹敵するほどで、奇襲を受ければ下手をすると誰かが死にかねないほどの速度だった。
が、そんな巨大な虎の魔物は一同の数十メートル先で動きを止めていた。巨大な虎の魔物も自身が手を出した相手が並々ならぬ存在だと理解したのだ。
「ふんふーん」
まるでお風呂にでも入っているような感じで鼻歌を歌いながら、ノワールは巨大な虎の魔物と相対する。そうして両者が対峙すること、数秒。先に動いたのは巨大な虎の魔物だった。
腕一本でさえノワールの全身ほどがあるのではないか。そんな巨腕から、地面を打ち砕くほどの猛烈な叩き落しが振るわれる。そうして岩盤が舞い上がり、しかしその中心のノワールには一切届かない。
「……」
にこにこ。相変わらず戦っている様子さえ感じさせず、ノワールは杖を振るう。すると無数の光球が生み出され、猛烈な勢いで巨大な虎の魔物の柔らかな腹を目掛けて突き進む。これに巨大な虎の魔物が地面を蹴って距離を取った。
「それは読めているんですよねー」
知性の無い魔物は所詮この程度。そんな冷酷ささえ滲ませ、ノワールが冷酷な笑みを浮かべる。そうして、巨大な虎の魔物が地面に着地した瞬間だ。その地面が盛り上がり、その巨体を空高くへと打ち上げる。
「はい」
こんっ。ノワールが地面を軽く小突くと、巨大な虎の魔物の軌道上に半球体の膜が生ずる。そうして巨大な虎の魔物が半球体の膜に触れたと同時。膜が巨大な虎の魔物を包み込んだ。
「はい」
再度、ノワールが地面を小突く。すると膜の中に巨大な閃光が生み出され、空中にもう一つの太陽が生ずる。そうしてもう一つの太陽が消えると同時に、巨大な虎の魔物も消滅するのだった。
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