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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3075話 はるかな過去編 ――職人――

 『時空流異門』。異なる時間。異なる空間に飛ばされてしまうという時空の異常現象。それに巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らは元の時代に戻るべく冒険者としての活動を開始させる。

 そうしてこの時代に生きていた過去のカイトやその配下の騎士達、カイトがかつて世話になったというおやっさんと呼ばれる冒険者らの支援を受けながら、彼らは次なるステップに向けて拠点の改修に向けて動き出していた。というわけで、ソラはおやっさんからの紹介状片手にエルフの腕利きの職人の所を訪れていた。


「……」

「あ、あの……」

「……」


 いや、何これ。ソラは部屋の中でなにかを作っている様子のエルフの壮年の男性に対して、ものすごい声を掛けづらそうにしていた。彼は工房に入ってきたソラを一瞥するなりすぐに作業に戻ってしまった上、背中からは一言で言うならば話し掛けるなというオーラがひしひしと溢れ出ていた。

 とはいえ、工房の名前に間違いはなく、おやっさんから聞かされていた風貌にも合致しているのだ。彼は覚悟を決めて、口を開いた。


「す、すんませーん……」

「……」

「っ」


 じろり。ソラの声を聞いて、エルフの壮年の男性は不機嫌オーラ満載でそちらを睨む。これにソラは一瞬気圧されるも、対するエルフの男性は再び作業に戻っていった。


「あ、あの!」

「大きな声を出さずとも聞こえている……大方私の名を聞いて来た若造だろう。そこそこの腕は持つようだが……貴様では役不足だ」


 あ、これ多分正しい意味での役不足で言われてる。ソラは不機嫌さ満載で、今度はこちらを一瞥すらせず話すエルフの男性に本能的にそう理解する。とはいえそれはおやっさんから聞いて承知の上だったし、話は彼が作っている見事な装飾品の数々ではない。


「いえ、その……シンフォニア王国の冒険者ギルドのおやっさんから紹介状を」

「……ふむ」


 今まで止まる事のなかった作業の手が止まり、エルフの男性がソラの方を向く。確かに腕としてはソラ達より少し上程度ではあるが、彼の統率力や人望に関してはこの男も顔を立てる必要がある程度であったらしい。が、じっと見たエルフの男性は暫くソラを見て作業に戻った。


「……」

「……」

「……少し待て。作業の手を止めるわけにもいかん。一段落出来る所まで終わらせてから、話を聞こう……マトリ」

「はい、お師匠様」


 普通に話す程度の声ではあったのだが、その声でも十分に幼い少女の耳に届いていたらしい。工房の奥から金色の長い髪の幼い少女が姿を現す。


「客だ……お茶を」

「はい……こちらへどうぞ」

「あ、どうも……あの作業ってどれぐらい掛かりそうなんです?」

「お師匠様ですか? 今の作業だと……三時間も掛からないと思います。繊細な部分をされていたなら、振り向いてさえくださいませんので」


 さ、三時間。ソラはマトリと呼ばれた少女の言葉に内心で愕然となる。できれば今日中に都は出たい所だったのだが、それは叶いそうになかった。しかもこの性格だ。下手に外に出て次の作業に取り掛かられた瞬間、下手をすると何日待たされるかわかったものではない事を彼もよく知っていた。


「……ここに居ても大丈夫……っすかね」

「大丈夫です。もしだめならお茶をお出しする事はありませんから」

「そ、そっすか」


 少なくとも歓迎はされずとも追い出されもしないらしい。と、そんな二人に向けて、エルフの男性から声が響いた。


「……マトリ。暇なら隣の回廊へ連れて行け。そこに居られると風の流れが変わる」

「あ、はい……では、こちらへどうぞ……それと申し訳有りません。お師匠様の言葉を補足すると、こちらの回廊で勉強してくれ、とお考えください。お師匠様は客にもある程度の知識を求める方ですから……」

「あー……いや、それは多分当然だと思いますんで……」


 確かにこのまま三時間近くもお茶を飲んで放置されるより、回廊とやらを見せて貰った方がソラとしても勉強になりそうで有り難い話ではあった。何より彼も工房にある魔道具の数々には心惹かれるものがあり、見てみたくはあったのだ。

 というわけで、彼はマトリという少女に案内されて工房の横にあった少し大きめの回廊へと通される。そこで見たのは、もはや美術品とも思えるほどに見事な魔道具の数々だ。


「うあー……これ、さっきのお師匠様が?」

「はい……持ち主が亡くなられた物がこちらへ」

「……」


 よく見ると確かに一部には傷の付着が見て取れる。ソラはマトリの言葉に回廊に飾られている魔道具を見て、そう思う。


「でもどれもこれもが壊れたりはしてないんっすね。戦って死んだ、とかならもっとボロボロになってたりするものだけど……」

「ええ。お師匠様の魔道具は非常に丈夫ですし、持ち主の皆様も一角の人物ばかり。多くの方は生きて戦場より戻られています……それにもし戦いで壊れてしまったのならお師匠様がそれを使って更に見事な魔道具を作られるので、滅多な事ではボロボロに破損して戻ってくる事はないのです」

「へー……」


 ということはここに飾られている魔道具の元の持ち主達はそのほとんどが数多の戦場から生還し、床の上で亡くなった人達なのか。と、そんな風に乗って会話が聞こえたのだろう。先のエルフの男性の声が響いた。


『私の魔道具を使って死ぬ事は許さん……生きて帰れる実力を持っていると言えるヤツにしか渡していない』

「……」


 多分この人は一風変わっているだけで良い人だ。ソラはそれ故にこそ自身の魔道具に対する熱量が凄まじいのだろう、と先の一幕について好意的に考える事にする。そしてなればこそ、この言葉が口をついて出る。


「……えっと……すみませんでした」

『……む?』

「あ、いえ……集中されていたのはわかっていたんですけど、待つべきだったなーって……」

『……それがわかったなら良い。暫く待たせるのは申し訳ないが、私の手元が僅かでも狂えば誰かの命が失われるのだ』

「はい」


 どうやらソラの謝罪はエルフの男性にとって好印象だったようだ。少しだけ上機嫌に微笑んだような様子を滲ませる。そうしてソラはエルフの男性の作業が終わるまでの暫くの間、マトリから回廊に飾られている数々の魔道具とその由来についてを教えてもらう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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