第3073話 はるかな過去編 ――八耀――
ごめんなさい。投稿完全に忘れてました。
『時空流異門』と呼ばれる現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代。戦国乱世と後の世には呼ばれる事になる時代に飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らであったが、幸いにもこの時代に存在していた過去の世界のカイトや、その配下の騎士達と遭遇する事に成功する。
そんなカイト達からの支援を受けながら冒険者としての活動を開始させていた一同であったが、そんな折り。数ヶ月前から頼んでいた申請が通り、今後の指針を貰うべく風の聖域に足を運んでいた。というわけで、今はシルフィと話を行っていた。
「で、僕らが与えた指針は八英傑に会え……だっけ」
「八英傑……勇者カイト、英雄レックスを筆頭にした八人で間違いはありませんか?」
「そうだね……僕らとしては八耀と呼ぶのがわかりやすいんだけど」
セレスティアの確認に対して、シルフィははっきりと頷いた。というわけで、そんな彼女にセレスティアは予てから疑問であった事を問いかける。
「その八耀というのは? 八英傑、という呼び方は基本我々第二統一王朝の関係者が使う言い方ではありますが……異大陸でも彼らを八耀と呼ぶのは聞いた事がないのですが……」
「ああ、うん。そうだろうね。この八耀という呼び方は僕ら大精霊……引いては世界側がカイト達を呼び表す時に使う言葉だからね。知らないのも無理はないよ」
「我らになにか由縁……とでも言いましょうか。そういったものがおありなのですか?」
まさか世界側からそんな特別な名を授けられるほどだったとは。驚くサルファの問いかけに、シルフィは頷いた。
「そうだね……君達八人が、というわけではないのだけど。君達八人は最も古き魂を受け継いだ者たちだ。そういった者たちの中にはさっきの八耀のように、意味のある名を与える事はある……君達が忘れてしまった人達には、そういう者が多いよ」
「古き魂?」
「最古の世界。今はもはや終わってしまった……と、いうと嘘になっちゃうんだけど」
「なんで俺見んの?」
じー。自身を見ながら発せられる言葉にソラが小首をかしげる。これに、シルフィが笑い出す。
「あはははは! 君、行ったじゃん。カイトと一緒に。壊れた欠片に、だけど」
「え? あぁ! あそこか! 確かカイトがzヱЛ……え?」
「ああ、ごめん。制限掛かっちゃったか」
自身の言葉のはずなのに、なにか妙な音の羅列になっていた。そんな事象にソラが目を見開くのに対して、シルフィは少し調子に乗りすぎたと反省する。
「少し話しすぎたね。ま、そんな世界の中で君達は生きていて、世界達は君達の事を八耀と呼んだ。君達が知って良いのはそれぐらいかな」
「ふーん……そう言えば俺達の中にもそういうの、居るのか?」
そういうものなのだろう。ソラはシルフィの言葉にそう思うわけであるが、であればこそここが気になったようだ。これに、シルフィはため息を吐いた。
「居るのか、と言われても答えられないよ。その兆しをカイト達は持っているから答えられるだけで、何も兆しがないなら教えようがない」
「兆し……ですか? 私にも彼らにも何もそういった物はありませんが……」
「でも感じるでしょ? 何故かこいつらと居ると心が休まる。昔からずっと一緒だったような気がする。他人の気がしない……そんな感じが」
不思議そうなカイトの問いかけに、シルフィが楽しげに問いかける。が、これに対するカイトは当たり前と言う他になかった。
「それは……当たり前かと。姫様やレックス殿下らは私が拾われてより一緒に過ごしておりますし、他の皆もそうです。家族のようなものです」
「それは今だから? それとも、最初から?」
「「「っ」」」
昔からそう感じていたのではないか。足を組んでどこか超然とした存在としての表情を浮かべるシルフィの言外の指摘に、カイトのみならずサルファもノワールも目を見開く。
「そういうことだね……君達は八人でこそ、人類を導く英雄だ。そうあろうとして、そうあるべく君達はずっと……何度生まれ変わろうと共に歩んできた。だからこそ魂が理解している。どんな困難だろうと共になら乗り越えられる、ってね」
「「「……」」」
それでだったのか。サルファとノワールは自分達が抱く安堵にも似た感情が、今まで培ってきた過去の自分達が抱いてきた信頼によるものなのだと腑に落ちたような様子だった。が、それに対するカイトの表情だけは、違っていた。
「それで良いよ、君は。いつか、それさえ乗り越えて君は本当の勇者にたどり着く」
「!?」
何が起きているんだ。カイトは周囲が停止したようにも思える状況の中で響くシルフィの声に目を見開く。このカイトは知る由もないのであるが、シルフィは未来のカイトとの契約を介して彼の精神世界へ入り込める。時乃のように世界の時は操れないが、大精霊達とカイトの間でなら刹那の一瞬を永遠のように間延びさせて感じさせる事は出来たのだ。
「今ではない、ここではない世界で。君は手に入れるべきものを手に入れる」
「それ、は……」
誰なのだろうか。自身の横に立つ三人の女達を、カイトは幻視する。姿も形も声も。何もかもがわからない。だが確かに感じる得も言われぬ喪失感。充足感の中にある苦しさ。その形を見た。
そしてそれを幻視している事を、未来を介してカイトとの繋がりを保有しているシルフィは理解していた。だからこそ、はっきりと告げた。
「これ以上は僕からは何も言わない。君は君自身の手で取り戻さなければならないからね」
「……」
そうだ。自身の中に蠢く無数の何者かの声が、一斉にシルフィの言葉に同意する。それをカイトは本能で理解した。そしてそれが、刹那の終わりだった。
「ああ、ごめん。話が逸れたね。とりあえず、君達は八耀の子らに会いに行く。そしてその様々を手に入れる事。それが君らがなすべき事の一つ……という所かな」
「様々を手に入れる?」
「うん……様々は様々。力や考え方……そういった様々だよ」
本当にこれで終わりなのだろう。カイトは自身が密かに感じている喪失感に対しての言及をしたかったが、シルフィその人は本当にこれ以上何も告げるつもりはなかったらしい。何かを言いたがっていた彼に対して、シルフィは敢えてそちらを向かずソラと話を進めていた。
「んー……でもそれが聞きたいんじゃなくてここに来た理由は具体的に何を学ぶか、という所だよねー」
「うん……てーか、それないとなんにもわかんないってか」
「だよねー」
八英傑を訪ねろ。それだけを言われていたソラであったのだが、だからといって何をしろと言われているわけでもない。おおよそこの八人なので力を蓄えろという事だとは受け取っていたのであるが、それにしたって具体性がなさすぎた。
「うん。じゃあ、具体的な指針を与えようかな……といっても、その領域まで頑張ってね、っていう所だね」
「お、おう……あ、あんまりぶっ飛んだ領域にはならないでくれ……よ?」
なにせ大精霊達だ。平然とぶっ飛んだ事を――冗談である事も多いが――言ってくる。それを知るソラはただただそう願うばかりであった。
「契約者の試練」
「……へ?」
「契約者の試練に挑める領域まで頑張ってレベルアップしてね」
「契約者って……あの契約者?」
「そ。その契約者。といっても、この世界で契約者になれ、って言ってるわけじゃない。単にそうなれる領域までは必要、ってだけ」
「「「……」」」
契約者。その領域がどれだけ凄まじいものかは、ソラ達こそが一番よく理解出来ていたようだ。そしてだからこそ、ソラが声を荒らげた。
「む、無理無理無理無理! それってあれだろ!? lμさんとか、bα……うぇ?」
「禁則事項……当たり前でしょ」
ソラの絶叫からの困惑に対して、シルフィは若干の呆れを滲ませながらも笑って指摘する。どちらもルクスとバランタインの名を叫ぼうとしたわけであるが、当然この二人は未来のカイトの仲間である。語られないように処理されたのであった。それはともかく。シルフィが続ける。
「ま、何故かとかそういうのは考えないで良いから。単に強くなれば良い、ってだけなんだから考えようによっちゃ楽でしょ?」
「そりゃぁ……まぁ。元の時代に戻るのになんか魔道具とか魔導書とか集めろ、って言われるよりかはずっと楽は楽だけど……」
「そういうこと。元の時代に戻る事については僕らが考えるからさ。君らはとりあえず因果が満ちるまで頑張ってこの世界で生き抜いてよ」
何も考えず生き延びるだけで良い。あとはそのついでに強くなってくれればそれで良い。そういうシルフィの言葉に対して、ソラはうなずくしかなかった。というわけで、指針らしい指針は無しという事が結論となり、話は終わりを迎えるのだった。
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