第3072話 はるかな過去編 ――指針――
『時空流異門』という時空間の異常現象に巻き込まれ、セレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラ達。そんな彼らはこの時代のカイトや、その配下の騎士達と遭遇する。彼らの支援を受けながら冒険者としての活動を開始させる一同であったが、その第一歩は今後の遠征に備えて拠点を改修する費用を貯める事であった。
というわけである程度の資金の目処が立った事で拠点の改修に動き出したわけであるが、それと時同じくして頼んでいたエルフ達の守る風の聖域への渡航許可が下りたため、一旦エルフ達の住まう黒き森の奥深くへと足を向けていた。そうして聖域へと入った一同であったが、そこで待っていたのは言わずもがな風の大精霊シルフィードであった。
「まずさっきも言った通り、おおよその事情は把握しているよ。この時代の事。この世界の事。未来の事。エネフィアの事……おおよそ全部ね」
流石は大精霊と言った所だろう。そういった所を見せないだけで、本来彼女はこの世すべての事を見通せるのだ。というわけで、彼女は大精霊の権能を使用して一つ告げた。
「まず元の世界に戻る方法だけど、それに関しては流石に君らでは手に負えない……というより、その魔術そのものはもはや魔法の領域に片足を突っ込むものになる。多分君らが一生涯を掛けて魔術に邁進しても難しいと思うよ」
「その領域なのか」
「うん……当たり前の話ではあるんだけどね。まぁ、それでも今回は過去から未来に飛ぶから、まだ楽なんだけど……これが未来から過去になるともう魔法の領域だし<<守護者>>を相手にしないといけなくなるね」
<<守護者>>ってマジかよ。シルフィの言葉にソラは盛大に顔を顰める。<<守護者>>とは一度しか戦っていないわけであるが、それでもその強さが今でさえ届かない事はわかっていた。それと戦う事の上、魔法まで手に入れなければならないというのだ。無理すぎだった。と、そんな所にサルファが口を挟んだ。
「大精霊様。<<守護者>>……というのは?」
「ん? あ、ごめんごめん。それに関しては気にしないで良いよ。この時代では関係のある事じゃないし」
何より<<守護者>>達はこれから未来において旅に出たカイトが世界と共に創り上げるものだ。この時代にはまだ存在していなかった。というわけで気を取り直して、シルフィはソラへと問いかける。
「まぁ、それはともかくとして。流石に魔法の領域に片足突っ込むような魔術を学ぶのは現実的じゃないことはわかるよね?」
「まぁ……なんとなくだけど」
「なら結構……というわけで、時空間の移動に関しては僕らがなんとかするよ。君らをこのままにしておけないのは事実だし、そのために僕らが居るわけでもあるしね」
「そう言えばふと思ったんだけど、実はこういう事って珍しくないのか?」
なんだか慣れたような様子で話すな。そう思ったソラが気になって問いかける。これに、シルフィは笑って首を振った。
「ああ、それはないよ。君らが経験した時の異常現象……僕らは『時空流異門』……異なる時空へ流される門、と名付けているんだけど、滅多な事で起きるもんじゃない。それでも起きてしまうのは、少し事情があっての事だけど……まぁ、それもわかってはいるからこうやって対処法も確立させているわけだね」
「へー……ってことはそういう場合って基本は大精霊達が動いてくれるのか」
「んー……」
どうしよう。ソラの理解に対して、シルフィは少しだけ悩む。そうして、実情を明かしてくれた。
「そうだね。それは絶対にはならないけれど、動く事も多いという所かな。戻さないとならない場合には戻すし、戻さないでも影響がさほどない場合には放置になってしまう事も多い。逆に世界がはじき出してしまう場合もある。君らの場合は戻さないと影響が大きすぎるから戻す……という所かな」
「影響の過多で決まるって何への影響なんだ?」
「世界への、だよ。君らの場合は僕らが動かなかった場合、誰が動くかわかろうものでしょ?」
「あー……」
もし大精霊達が動かないでもカイトが動いて、結局としては大精霊が動く事になってしまうのだ。そして彼こそが時の異常を解決した張本人。その彼に動かれて世界の法則が無茶苦茶になるぐらいなら、大精霊達が動いてソラ達の支援を行って元の時代へ戻れるようにした方が世界としても影響が少なくて良いのだろう。
「まー、未来の事になるからあんまり言えないけど、カイトなら未来の時点からなんとかしてしまえる」
「それは私が魔法を使える……という事ですか?」
「そうだねー……魔法……うん。使えるよ……ていうか、やりにくいな」
今のシルフィは未来の知識を持ち合わせているのだ。なのでカイトの認識もエネフィアに居るカイトの認識で、跪いて敬ってくる彼にやりにくさがあった。しかもこれで空気を読まずに弄れるなら良いだろうが、今がその場でないぐらいは彼女も理解していたようだ。
「まぁ、良いや。一旦それは置いておいて……君らがするべき事の話に入ろうか。まずもうすでに僕らの仲間から話があったと思うけど、カイトの仲間を訪ねて力を蓄えるんだ」
「それと元の時代に戻る事になんの繋がりがあるんだ? 聞いてると<<守護者>>とは戦わなそうだけど」
「多分話を聞いてると思うけど、この時代の君達というのは君達視点では未来でも僕らにとっては過去の話なんだ。だから、起こるべき事態が起きない限り因果律の関係でこの世界に戻される。つまりは起こるべき事態がすべて起こるまで、この世界からは誰も出られない」
なんとなくだが、話は理解出来る。一同シルフィに言葉に納得を示す。未来と過去がごっちゃになってしまっているが、何度か言われているようにこの世界は過去の世界。そして未来が書き換わってはならないのだ。ならば過去で起きねばならない事を起こさないと戻れないのは道理だった。
「ま、そういうわけでね。有りていに言うとこの世界での戦いが関わってくる……いつの、なにかというのは話せないけど。少なくとも今の君達では死ぬような戦い、と認識してもらって良いよ」
その起きねばならない事態というのが、死力を尽くして戦うという事になるんだ。シルフィは詳しく明かせない現状にもどかしさを覚えながらもそう語る。そうして、彼女は改めて今後の指針を詳しく話していくのだった。
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