第3069話 はるかな過去編 ――再び都へ――
『時空流異門』と呼ばれる現象に巻き込まれて、過去の時代のセレスティア達の世界へと飛ばされてしまったソラや瞬達。彼らはこの時代のカイトや、その配下の騎士達の支援を受けながら冒険者としての活動を重ねていた。そうして冒険者としての活動を重ねること数ヶ月。今後の大きな動きに備えての準備を行っていた一同であるが、その一端として風の聖域で大精霊達への面会の許可をエルフ達から貰うに至っていた。というわけで、その他幾つかの理由からソラは再び都へと足を運んでいた。
「……たしかに確認した。少し待たれよ」
「どうもっす」
やっぱり前にすんなり歓待の雰囲気を出してくれたのはカイトだからこそか。ソラは自身が持つ通行許可証を見ても排他的な様子でそれを確認し、更には通す様子の門番にそう思う。というわけで、自分達を置いて開門の手配に入った門番を見送って、ソラが深くため息を吐いた。
「なんってか今更っすけど……やっぱ実績とか功績とかって重要なんっすね」
「どうした、いきなり」
「いや、この間カイトと一緒に来た時なんてもう向こう初手からおえらいさんが出てきた挙げ句、へりくだりまくってたでしょ?」
「ああ、それか」
もう数ヶ月前の事であったが、ここに初めて来た時はカイトが見えたと聞くなり門番の中でも一番えらい立場の人が慌てて駆けつけて、すぐに手配に入ってくれていたのだ。それに対する今の自分達の対応はぞんざいというか、明らかに歓迎しておりませんという風であった。というわけで瞬の納得にソラは更に続ける。
「ってなるとやっぱどこでも歓迎されようとすると、それ相応に実績とか信頼とか必要なんだなー、って」
「当たり前でしょう……本来、エルフ達はこんなものだと聞いています」
「聞いています、なあたりがマクダウェル領なんだろうな」
「ふふ……そうですね」
瞬の指摘にリィルが笑う。本来彼女が住んでいるマクダウェル領――勿論エンテシア皇国の――はカイトの影響が色濃く現れており、エルフ達であってもここまで排他的な様子はない。勿論ドワーフ達ほど見ず知らずの相手でも熱烈な歓迎をしてくれる事もないが、それでもマシだった。そうして開門を待つ間に、ふと瞬がセレスティアに問いかける。
「そうだ……セレスティア。お前は大精霊に会った事はあるのか?」
「会った事は……無いと思います。知らず会っている可能性がないか、と言われれば自信は無いです」
「「「あ、あはは……」」」
それは確かに。セレスティアの返答に残る三人が乾いた笑いを上げる。なぜこんな答えになるか、というとやはりカイトの事があるからだろう。彼の周囲だと平然と大精霊が歩き回っている事があるのだ。とまぁ、そんなこんなを話しながら待つこと十数分。再び先の門番が戻ってきた。
「おまたせした……通って良いぞ」
「ありがとうございます」
どうやら手配は終わったらしい。前と同様に僅かに古めかしい巨木で出来た門が僅かに開かれて、一同を中へと招き入れる。というわけで中に入って、瞬がソラへと問いかける。
「それで? カイトからはどこに行く様に指定があったんだ?」
「とりあえず神殿に向かってくれって。そこで合流する事になってます」
「そうか……なら行くか」
幸いまだ数ヶ月しか経過していないし、エルフ達は区画整理をしっかりしてくれているおかげで神殿への道は比較的わかりやすかった。というわけで神殿にたどり着いたわけであるが、そこではすぐに奥の間へと通してくれた。そこではすでにカイトが待っていてくれていて、優雅に飲み物を飲んでいた。
「ふぅ……ん? お、来たな」
「カイト。もう到着していたのか」
「ああ。幸いな事に面倒事がちょうど片付いた所でな。暫くは魔族共も動きそうにないんで、早めに来たんだ」
「なにかは知らないが……片付いたなら良かった」
おそらく何か軍事関連の事ではあるのだろう。瞬はカイトの返答にそう理解するだけに留める。どうせ聞いても答えてくれるかどうかはわからないからだ。とはいえ、終わったからかカイトは上機嫌に教えてくれた。
「ああ……ま、有り体に言えばスパイの一団をとっ捕まえる事に成功したって所だ。おかげで暫くは大丈夫だろう。多少こっちで長引いても問題はない。長引く事があるなら、それはそれで良いかもしれんがな」
「そうだったのか……流石に前みたいに王都のすぐそばまで、というのは嫌だろうからな」
「そういうことだな……で、聖域に入るのはもう少し待ってくれ。まだノワールが来てなくてな」
「サルファさんは良いのか?」
「あいつはここが本拠地だ。来るも何もない」
今度はソラの問いかけに対して、カイトはそう言って笑う。と、そんな事を話しながら更に暫く待っていると、ソラ達が入ってきた扉が再び開かれて今度はサルファを伴ってノワールが現れる。
「皆さん、おまたせいたしました」
「ああ、ノワールも到着と……サルファ。そっちも問題なさそうか?」
「ええ……聖域に立ち入るのは僕もかなり久しぶりですが……まぁ、大丈夫でしょう」
カイトの問いかけに、サルファが一つ頷いた。というわけで後残す所はスイレリアだけになるわけであるが、彼女に関して言えば待つも何もない。この神殿こそが彼女の住居だ。というわけで、全員集合となった事を受け、カイトが立ち上がる。
「じゃあ、大神官様の所へ連れて行って貰える様に話をしてくる。いや、オレよりサルファの方が良いか?」
「神官達はどちらでも良いと思いますが……僕の方が良いですかね。じゃあ、行ってきます」
ハイ・エルフの王子様か、この大陸最大の勇者か。確かに神官達としてはどちらも敬うべき相手なのでどちらがスイレリアへの目通りを頼んでも良いだろう。というわけで立ち上がりかけたカイトと交代して立ち上がったサルファを見送って、カイトがリィルに問いかける。
「そう言えば今回はリィルの嬢ちゃんなのか」
「は……大精霊様でしたら、イミナより私の方が詳しいですので」
「なるほど……で、こっち出身のセレスを含めてってわけか。これが一番良い組み合わせか」
現状、ソラ達はまだ拠点の防衛システムを構築出来ていない。なので誰かしらは留守を守らねばならず、今回はイミナと由利の組み合わせだった。その意図はリィルの説明する通り、大精霊との親密度の兼ね合いという所だろう。というわけで今回のメンバー構成に納得したカイトに、ソラがふと問いかける。
「そう言えばそっちって誰も大精霊達と会った事無いのか?」
「オレは無いな……ノワは?」
「私も……無いですね。今更ですけど近くに住まいを建てさせて頂いておいてご挨拶もしていなかったのはどうか、と思うのですが」
「でも年一の風の大精霊様相手の収穫祭ではきちんとお前からも貢物してるんだろ?」
「それとこれとは話が別ですよー。第一あれならお兄さんも毎年参加して奉納してるでしょう?」
「まー、そうだが。でもそんな事を言いだしたらこの地のエルフ達なんて誰もお目通りしていないじゃんか」
やはりカイトにとってノワール達というのは素をさらけ出せる相手というわけなのだろう。今までソラ達が見てきたどのカイトよりも遥かに険の取れた様子で笑っていた。そんなこんなで雑談を繰り広げる一同だったが、出ていったサルファはすぐに戻ってきた。
「兄さん。大神官殿より、聖域の前で待つと……後、元老院も議長と副議長が出立を見送ると」
「うぇ……まじ?」
「本当です。忙しいだろうから来なくて良い、と断ったのですが……はぁ」
「面倒だなー……」
どうやらカイトもサルファも元老院の議長と副議長を苦手としていたようだ。カイトはしかめっ面を隠さなかったし、サルファの口からもため息が溢れていた。
「まぁ、良い……兎にも角にも聖域の中までは付いてこないだろ。ああいった規則を決めてるのは元老院だしな。その元老院議長が緊急事態でもないのに規則を破るなんて天地がひっくり返るより有り得ん」
「ええ……とりあえず聖域までの辛抱かと」
「はぁ……一気に気乗りしなくなったが……諦めて行くか。下手に待たすと何を言われるかわかったもんじゃない。そっちのが面倒だ」
「ですね……」
「ああ……良し。じゃあ、全員行くぞ」
どうやら聖域に行くことそのものは苦にならないらしいが、元老院のお偉方と会うのは嫌らしい。そんな様子が二人の背からはありありと見て取れていた。というわけで、そんな二人に案内されながら一同は神殿の最奥へと向かっていくのだった。
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