第3068話 はるかな過去編 ――森へ――
『時空流異門』に巻き込まれセレスティア達の世界の過去の時代へと飛ばされてしまったソラや瞬達。そんな彼らは元の時代に戻るべく冒険者としての活動を開始させるのであるが、その第一歩は遠くへ向かうための足場を固める事であった。というわけで拠点を改良するために迷宮を攻略しながら資金を稼いでいたわけであるが、拠点改良の頭金が整った事で冒険者の統率を行うおやっさんに報告。彼からエルフ達の都の職人への紹介状をしたためて貰っていた。
「……良し。こいつが都の職人達への紹介状だ」
「あ、ありがとうございます……ちなみに、どんな人です?」
「……まぁ、悪いヤツじゃないぞ。勿論腕も良い。エルフの弓兵達に向けた魔道具を何個も卸してる腕利きの細工師だ」
「……とどのつまり、偏屈?」
どんな人か、と聞いたにも関わらず性格への言及が一切無い事に、ソラはおおよそを察したようだ。これにおやっさんが深くため息を吐いた。
「あったりめぇだろう。エルフで腕の良い職人だぞ。仲が悪いってのにエルフもドワーフも頑固ってのは共通してやがる」
「あははは……はぁ」
「あっははは……はぁ。まぁなぁ、そういうわけで説得にゃ苦労したがな」
一頻り笑った後、おやっさんは紹介状をソラへと手渡しながらため息を吐く。苦労はしたらしい。
「その点に関しちゃドワーフの職人達とは正反対って言えるか。あいつらは話が面白いってなるとすぐに首を縦に振ってくれる。エルフの職人達は素直じゃねぇんだ。延々突っ込んで来やがる……ま、逆に興味無かったら即座に帰れの一言だけどな……ドワーフ達は金槌飛んでくるけど」
「あははは」
本当に正反対だ。おやっさんの話すドワーフとエルフの違いにソラは頬を引き攣らせながらも笑う。と、そんな彼であったがふと何かに気が付いた。
「……あれ? そう言えば今回の一件って方方の職人さんが受けてくれたんっすよね?」
「そうだ。喜べ。良い職人共がわんさか来るぞ。本来お前さんらの知名度とかなら受けてくれないような奴らばっかりだ」
「そりゃありがたいんっすけど……ドワーフとエルフの職人って」
「ああ、居るな……まー、問題ねぇだろ。奴さんらなんだかんだ言いながらも相手の作品を壊す事だけはしねぇからな……運が良けりゃ上手く出来るだろ」
「結局運が良けりゃなんっすね……」
あてにはならなそうだ。ソラはおやっさんの言葉に対して盛大にため息を零す。というわけでそんな彼を他人事の様に笑うおやっさんに見送られながら、ソラは拠点へと帰っていくのだった。
さて笑うおやっさんに見送られ拠点に戻ったソラであったが、戻った拠点には久方ぶりにカイトが姿を見せていた。そんな彼は瞬と談笑していた様子であったが、ソラが戻った事に気が付いて振り向いた。
「ん? ああ、ソラ。おかえり」
「ただいまっす……あれ。カイト……珍しいな、お前がこっちに来てるなんて」
「ああ。ちょっとさる筋……って、お前らに隠す意味もねぇか。サルファから聖域へ入る許可を貰ったって聞いたからな。ちょうど良い、って依頼を持ってきたんだ」
「依頼? 都になんかあんの?」
「忘れたか? この間『復元の光』の時、ノワールをこっちまで護送してくれ、ってな」
「あれ上手く行ったのか?」
それなら役に立ってよかった。カイトの返答にソラは喜色を浮かべる。これにカイトも一つ頷いた。
「ああ……ま、そんなわけで色々と目処が立ったんで連れてきて貰いたいと思ってな」
「そりゃ良いけど……こっちも都に行く用事が別に出来ちまった所だしな」
「用事?」
「ああ」
カイトの問いかけに、ソラは先程の一幕を説明する。これに、カイトもなるほどと理解した。
「なるほど。そいつは……まぁ、なんてかご苦労さん。頑張れ」
「お、おう……」
「あ、そうだ。そう言えば……二人共、ランタンはどうするつもりだったんだ?」
「「え? あ」」
どうやら二人して、都に行くまでの黒き森を抜けるのに特殊なランタンが必要な事を失念してしまっていたらしい。カイトの問いかけに鳩が豆鉄砲を食ったような顔で口を開く。が、これにカイトはそんな事だろうと笑って、ランタンを机に置いた。
「はい、こいつがランタン」
「え? 良いのか?」
「後で返せ……が、今回はウチからの依頼だし、オレは……ああ、そうだ。ソラにはまだ言ってないな。都ではオレも同席する。向こうからの要請だ」
「そうなのか?」
「許可証は読んだか?」
「ああ……こちらから信頼のおける者を数名同席させる事が条件となる……だろ?」
当たり前であるが、ソラは届いた許可証の類は隅から隅まで目を通している。というわけでこの一文が加えられている事も言われるまでもなく理解していたのであった。
とはいえ、今回の一件は聖域に立ち入らせるというエルフ達からすると非常に重要な事なのだ。神官達が同席する事はソラ達にも納得が出来たわけなのであるが、その一人がカイトだとは思っていなかったようだ。
「オレとサルファ、ノワールの三人に加え大神官とそのお付き。それが今回の同席者だ」
「そんだけなのか?」
「そんだけ、って……聖域に大人数で押しかけるわけにもいかんし、オレ以下サルファ、ノワールはお前らを単騎で殲滅出来るんだぞ。勿論、お前らがなにか仕出かす前にな。それが三人、って時点で……わかるだろ?」
「……でしたね」
そもそも魔眼持ちのサルファと魔術師として頂点に立つノワールの時点で勝ち目はないだろうし、その上でカイトまで敵に回られればもはや勝ち目なぞ万が一でもありはしない。というわけで、カイトの指摘にソラも十分すぎるほどだと納得したようだ。
「でもそれだったらお前とかサルファさんが護衛した方がよくないか?」
「オレらは目立つから」
「この間みたいに密かに動けば?」
「今回は話が違う。都からの正式な要請だから、シンフォニア王国側から派遣される形になる。ってわけでオレの予定やらも把握されてるってわけ」
「なるほど」
そりゃ隠れて移動なんて出来ないってわけか。カイトの言葉にソラは納得を露わとする。
「ま、そりゃ良い。兎にも角にもそういうわけだから、オレは都で合流する。オレ単騎だからお前らと日程は調整出来るから、行く前に一声掛けてくれ」
「大丈夫なのか?」
「暫くデカい戦いは予定されていないし、この間の砦防衛戦で若干余裕は出来ているはずだ……ま、無理でもなんとかするさ」
この余裕はやはりカイトが勇者だからこそのものなのだろうか。ソラは苦笑しながらも強者ゆえの余裕を見せるカイトにそう思う。そうして、その後は少しだけカイトとの間で打ち合わせをして、一同は都行きに備えて準備を行う事になるのだった。
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